パリ五輪でブレイク「切り替えピース」ははたして夏の高校野球で見ることができるか

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 YouTubeとTikTokから中高生の間でブレイクした「切り替えピース」が、とうとうパリ五輪にまで波及した。

「めざまし8」(フジテレビ系)が8月2日、パリ五輪スケートボード女子ストリートで7位入賞した中山楓奈にインタビュー取材し、日本チーム最年長の彼女が競技秘話を明かした。

 中山によれば、同種目代表の金メダリスト・吉沢恋、銀メダリストの赤間凛音の3人の間では、

「『切り替えピース』ってやつが流行っていて(競技中)悪い流れがあったからいったん切り替えようっていうので、3人で集まっていました」

 番組ではその言葉を検証するように、競技の合間に3人が集まって手を叩いてピースする場面を紹介。この効果的な気分転換が金銀メダルを引き寄せたことを実証した。

「切り替えピース」とは「き〜り〜か〜え」のかけ声のあと、手を2回叩き、両手でピースサインを作って気分転換するアクションだ。元ネタはYouTuberテクサスchの小野寺氏で、中高生が「切り替えピース」した後にキャラクターが一変する動画ネタを配信している。

 ここでひとつ問題が。この「切り替えピース」は、7月まで全国各地で繰り広げられていた高校野球の地区予選でも、エラーやピンチの際に選手の間で声を掛け合うユルい光景が見られたが、8月7日から始まる全国高校野球選手権大会では「認められるのか」だ。

 日本高校野球連盟には、しょっぱい「前科」がある。

 昨年3月の選抜高校野球大会の開幕カード、東北(宮城)×山梨学院(山梨)戦でのこと。1回表に東北の先頭打者が相手の敵失で出塁、1塁ベース付近でベンチに向かって「ペッパーミル」ポーズをとったところ、この回の攻撃終了後、東北ベンチは1塁塁審から「アクションをしないよう」注意を受けた。

 WBCで盛り上がる中、選抜高校野球も盛り上がろうという開幕カードの1回表、先頭打者の出塁に冷や水を浴びせた「教育的指導」。試合後、東北の佐藤洋監督は、

「なんでこんなことで、子供たちが楽しんでいる野球を大人が止めるのかなと。そこは嫌というか、変えた方がいいと思った。日本中が盛り上がっているパフォーマンスも、審判の方から注意された。私の方に火の粉が飛んできてもいいので、それは大反対。もう少し、子供たちが自由に野球を楽しむという方向も、ちょっと考えてもらいたい」

 そう苦言を呈したのである。

 高校野球指導者やドジャースの大谷翔平が嘆いたところで、子供たちの「野球離れ」は止まらない。競技をしているのは子供達なのに、熱心な保護者と時代遅れの指導者、競技団体がやかましすぎて「野球は楽しくないスポーツ」の代名詞になってしまった。

 野球に限らず柔道、剣道、相撲も同じ道をたどっている。今は両親共働き家庭が圧倒的多数なのに、野球も柔道も剣道も、高齢の指導者が「子供の送迎は義務」「練習中は親も正座」「試合には必ず帯同」という時代錯誤なルールを押し付けるので、子供より先に親が競技から離れていく。結果として競技に口を出す「熱心な親」しか残らず、ますます4競技は子供にも保護者にも嫌われる悪循環に陥っている。

 パリ五輪を見ても、冴えない表情の柔道と、ピースサインで鼓舞し合うスケートボード、子供達がどちらをやりたいと言い出すかは明らかだろう。

 この夏、高校球児から「切り替えピース」が消えるなら、日本の野球は四半世紀以内に滅ぶことになるだろう。

(那須優子)