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職場の同僚女性が使うコップやハチミツ容器に自分の体液を入れたなどとして、器物損壊と建造物侵入の罪に問われた住宅メーカーの元派遣社員の男性に対して、岡山地裁は7月22日、懲役1年6カ月、執行猶予3年(求刑:懲役1年6カ月)の有罪判決を言い渡した。

共同通信などによると、男性は同僚の女性が使うコップなどに射精したり、職場の女子トイレに侵入したりして、その様子を撮影してX(旧ツイッター)に投稿。

「(女性が)ほとんど飲みきってえらい」「何も知らずに飲んでるの興奮した」などの文を書き添えていたという。

常軌を逸した行為だが、男性が問われたのは器物損壊と建造物侵入の罪で、裁判では執行猶予付きの判決となった。

これに対して、SNS上には「女性に加害してるのに執行猶予で終わるのはなんでなん?」「精子混入した結果女性が飲んだことは罪に問えなかったの?」などと疑問や批判のコメントがあふれている。

一見、性的な事柄が関係している事件のようにもみえるが、なぜ「性犯罪」として裁かれなかったのだろうか。刑事事件に詳しい岡本裕明弁護士に聞いた。

●判例は性的な性質の有無や程度を考慮

今回の事件が性犯罪として扱われなかったのは、問題となった行為が「わいせつな行為」と認められなかったことに起因するといえます。

どのような場合に「わいせつな行為」と認められるのかについては、法改正前の強制わいせつ罪の成否が問題となった事件で、最高裁大法廷(平成29年11月29日)が次のように判示しています。

「行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で…その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断(する)」

ただし、この性的性質の有無や程度は、不同意わいせつ罪など、性犯罪に対する刑罰が極めて重く定められていることもあり、厳格に判断されています。

●性的部分への直接の接触なし→わいせつ行為の判断難しく

たとえば、電車内などの混雑した状況に乗じて体液を直接かけるような行為について、器物損壊罪や暴行罪で処理される事件が多く見られるように、身体の性的な部分へ直接の接触を伴わない行為については、「わいせつな行為」にあたらないと判断されることが多いのです。

ですから、女性に対する性犯罪ではなく、体液が付着したことによってコップが利用できなくなった点を捉えて、器物損壊の罪で起訴したと思われます。

●健康への悪影響を証明できないと傷害罪成立も厳しい

「わいせつな行為」にあたらないとしても、コップを被害品とする犯罪として扱うよりも、体液を飲まされた点に着目すべきようにも感じます。

しかし、「わいせつな行為」に該当しない以上、性犯罪を成立させることは困難です。

また、体液を摂取したことで健康状態が著しく悪化したと証明することもできない場合には、傷害罪の成立も認めることができません。

捜査機関としては、以上のような観点から器物損壊や建造物侵入という罪名で起訴せざるを得なかったのではないかと思います。

【取材協力弁護士
岡本 裕明(おかもと・ひろあき)弁護士
刑事事件及び労働事件を得意分野とし、外国人を被疑者・被告人とする事件を多く取り扱っている。多数の裁判裁判も経験している一方、犯罪被害者の代理人として、被害者参加等も手掛ける。
事務所名:弁護士法人ダーウィン法律事務所
事務所URL:https://criminal.darwin-law.jp/