CDベイビー創業者が直伝「人が感動する瞬間」とは
周りの友だち全員に伝えたくなるくらいに人が感動するのは、得てしてちょっとしたことです(写真はイメージ:JackF/PIXTA)
起業家としてビジネスを大きくするために、世界を変えるような大きなアイデアが必要だと思い込んではいないだろうか?
プロのミュージシャンで、CD通販サイト「CDベイビー」を立ち上げた起業家でもあるデレク・シヴァーズは、そんなことはないと断言する。
15カ国で刊行され米国でベストセラーになった彼の著者『エニシング・ユー・ウォント:すぐれたビジネスはシンプルに表せる』には、ちょっとしたアイデアを大きなビジネスに成長させた独自の戦略が描かれている。
『「週4時間」だけ働く。』の著者として知られるティム・フェリスが、現代のパイオニア106人に成功の秘密を聞きまくってまとめた本『巨神のツール 俺の生存戦略』の『富編』の中から、紹介しよう。
CDベイビーのビジネスモデルはどう生まれたか
(ティムから)デレク・シヴァーズは、私のお気に入りの1人で、たびたびアドバイスを求めている。哲人王の異名を誇るプログラマーであり、わが師匠であり、陽気なお調子者だ。
もともとはプロのミュージシャンだった彼は、サーカスでは道化師として客を沸かせた(内省的な自分とのバランスを取るために、道化師の仕事をあえて選択した)。
デレクは、1998年にCDベイビーというオンラインショップを立ち上げた。
これは後に、ミュージシャン15万人のCDを販売し、売上額1億ドルを計上する、最大規模のインディーズ音楽オンラインショップにまで成長した。
2008年、デレクはCDベイビーを2200万ドルで売却すると、その収益を、音楽教育促進のための公益財団に寄付した。
デレクは、CDベイビーのビジネスモデルを生み出した、すばらしいエピソードと価格設定について、話してくれた。
デレク:その頃、ニューヨークのウッドストックに住んでいたんだけど、小っちゃくてかわいい、町のレコードショップを見つけたんだ。
カウンターでは、地元のミュージシャンのCDが売られていた。ある日、店にフラッと立ち寄って聞いてみたんだ。
「ねえ、もし僕がここで自分のCDを売ろうと思ったらどうすればいいの?」
お店の人は教えてくれた。
「いくらで売りたいか、好きに値段を決めてちょうだい。うちはCD1枚につき4ドルもらうから。毎週立ち寄ってくれれば、売れた分を支払うわ」
家に帰ると、早速僕の新しいウェブサイトに、こんなメッセージをアップしたんだ。
CDベイビー誕生の瞬間
「あなたのCDにお好きな値段をつけてください。こちらはCD1枚売れるたびに、4ドルを頂戴します。売上げ代金は毎週お支払いします」
それから新しいアルバム1枚をうちのシステムに取り込むのに、大体45分かかったことをはっきりと覚えてるよ。
アルバムジャケットをスキャナーで取り込んだり、フォトショップで加工して体裁を整えたり、販売を希望するミュージシャンから送られてきた経歴書のスペルミスを訂正したり、そんなことにかかりきりになってたんだ。
その頃の僕にとって、45分っていう時間は、時給にして25ドルの価値はあると考えた。そう聞けば、当時僕が自分の時間をどれくらい価値があるものと思っていたか、わかるだろう?
それで僕はこのシステムを利用する費用として、契約時に25ドル請求しようとしたんだけど、う〜ん、何て言えばいいかな……僕の中では、コストという点で、25ドルでも35ドルでもそう差がないと感じていたんだよね。
10ドルは違うし、50ドルも違う。でも、25ドルと35ドルは僕の中では同じ位置を占めていたんだ。それで、料金を35ドルに設定したんだよ。
そうすれば、相手が望んだときには、値引きに応じてあげられるからね。
契約の希望者が電話の向こうでオロオロしてたら、こう言ってあげるんだ。
「こうしないか? 値引きしてあげるよ」
つまり、値引きに応じてあげられるように、ちょっとしたバッファーを設けて設定したってわけ。みんな当然大喜びさ。
それから10年間でこのビジネスがどうなったのかは、知ってのとおりだよ。これが僕が手がけたビジネスモデルの全容さ。
地元のレコードショップまで歩いていって、「何してるの?」って尋ねた5分間で、すべては始まったんだ。
(ティムから)デレクがCDベイビーに費やす時間はわずかで、彼は自分なしでも会社がきちんと回るように、すべてをシステム化した。
デレクは成功者であり、充実した人生を送っている。
現状にチャレンジすることをいとわず、疑問に思ったことは何でも試してみる、といった彼の姿勢が大きく影響していると思う。
それほど多くのものは必要としない。この後紹介するメールは、そんなデレクの生きざまを見事に表している。
事業を始めるということは…
デレク:事業を始めるということは、あなたの手によって小さな世界を生み出し、その中の行動規範をあなた自身がコントロールできるということだ。
よそがどうしているかは関係ない。あなたの小さな世界の中では、あなたが思うように創り上げればいいんだから。
僕がCDベイビーを立ち上げたとき、注文を受けるたびに、CD発送日を知らせる自動メッセージが相手に送られるようになっていた。
初めはごくありふれた内容にしていた。
「ご注文の品は、本日発送されました。未着の場合は、こちらまでご連絡ください。お買い上げいただき、ありがとうございました」
数カ月が過ぎて、僕は、これでは人をクスッとさせるっていう僕の使命が果たされていないと感じた。もっと良くできるはずだって思ったんだ。
それで20分かけて、次のようなおふざけメールを書き上げたんだよ。
ご注文いただいたお品は、滅菌済み手袋をはめたスタッフの手により、棚から丁重に取り出され、サテン織のクッションに鎮座いたしました。
50名の人間がチームを組んで、あなた様のCDをくまなく検(あらた)め、出荷前に、ベストな状態であることを確認いたしました。
日本からやって来た包装の達人が、キャンドルをともし、ほかのスタッフが固唾をのんで見守る中、貴CDを、最上の金文字入りの箱にお入れしました。
私たちスタッフは、みんなで出荷を盛大にお祝いし、一団となって郵便局まで向かいました。ポートランドの街全体をあげて、「良い旅を」と合唱し、貴CDを送り出したのです。
わが社の専用ジェット機に乗せられて、今日6月6日金曜日現在、あなた様の元へと向かっています。
CDベイビーでのお買い上げに対し心よりお礼を申し上げます。
ショッピングを十分お楽しみいただけたことを確信しております。あなた様のお写真は、お店の壁に「今年の顔」として飾らせていただきます。
あなた様に、またわが社のサービスをご利用いただく日が、待ち遠しくてなりません。
たった1通のメールの抜群の効果
デレク:このおふざけメールが、注文するたびに届くというわけさ。お客からのウケが良くて、「Private CD Baby jet」で検索すると、2万件以上の検索結果が表示されるんだ。
メールを受け取って気に入ってくれた誰かが、自分のサイトで公開したり、友人にシェアしたりしてるんだな。
1通のおふざけメールが、数千人もの新しいお客を連れてきてくれた。
みんなビジネスを大きくさせたいと思うと、どうしても世界を変えるような、ものすごく大きなことを考えようとするんだよね。壮大なアクションプランを思い浮かべたりしてね。
でも、知っておいてほしいんだ。周りの友だち全員に伝えたくなるくらい、あなたが感動することって、得てしてこんなちょっとしたことだったりするんだよ。
(ティム・フェリス : 起業家、作家)