「人間ドック」と「健康診断」の違いはご存知ですか? 検査項目の選び方を医師が解説

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「人間ドック」では、一般的な健康診断よりも詳細に健康状態をチェックします。しかし、施設によって提供するメニューが多様で、料金も高額になりやすく、どの検査を受けるべきか、どの施設を選ぶべきか迷うことも多いでしょう。今回は、内視鏡専門医・指導医の石岡先生に人間ドックのポイントを解説いただき、賢く受診するためのコツを伺いました。

≫ 【人間ドック】受けるべき年齢は30代から「健康状態が良い人・悪い人の差が出やすい時期」

監修医師:
石岡 充彬(日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック)

2011年秋田大学卒業。2018年より国内随一の内視鏡治療件数を誇るがん研有明病院の内視鏡診療部にて研鑽を積み、2021年同院健診センター・下部消化管内科兼任副医長。2024年、日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック開設。日本消化器病学会消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医・指導医。

人間ドックと健康診断の違いとは?

編集部

はじめに「人間ドック」と「健康診断」の違いを教えてください。

石岡先生

健康診断は、視力や聴力、血圧、一般採血項目などの基本的な健康状態を確認するための簡易検査で、学校や職場で年に一度受けられることが多いものを指します。一方、人間ドックは、生活習慣病やがんなどの早期発見を目的として自発的に受ける、より詳細な検査を指します。

編集部

人間ドックでチェックされる主な病気はなんでしょう?

石岡先生

人間ドックは各医療機関によってさまざまなメニューがあり、検査ごとに対象とする疾患が異なりますが、一般的には各臓器の“がん”の早期発見に力を入れているメニューが多いですね。特に「胃がん」「大腸がん」「肺がん」「乳がん」「子宮頸がん」はがん検診の有用性の高い5大がん疾患として、厚生労働省でも検査を推進しています。

編集部

5大がん疾患に対する検査の種類はどのようなものがありますか?

石岡先生

胃がんに対しては、ABC検診(血液検査によってピロリ菌の有無と胃酸の分泌の状態を調べ、胃がんのリスクを判定する検査)、胃バリウム検査、胃カメラ検査。大腸がんに対しては、便潜血検査、大腸カメラ検査。肺がんに対しては、胸部レントゲン、肺CT検査がよくおこなわれます。乳がんに対しては、マンモグラフィ、超音波検査、MRI検査。子宮頸がんに対しては、HPV検査、内診、子宮頸部細胞診などから選択されることが多いですね。それぞれに長所・短所がありますので、各検査方法について正しい理解を深めて選択することが重要です。

賢い人間ドックの選び方

編集部

人間ドックの平均的な費用はいくらくらいでしょう?

石岡先生

医療機関や受ける検査内容によって料金は大きく異なりますが、全身の人間ドックを受けようとすると一般的には5~10万円程度が相場です。各種オプションを加えると20万円を超すようなドックメニューも珍しくありません。しかし、各検査の意味を正しく理解し、賢く組み合わせるとグッと料金を抑えることも可能です。

編集部

人間ドックで料金を抑えるポイントを教えてください。

石岡先生

ドックメニューの中には、職場で受けられる無料の健康診断と内容が重複する項目が含まれていることもあります。医療機関が設定しているドックメニュ―をよく確認し、ご自身にとって不要な検査が多く含まれていないか確認しましょう。セットで組まれているメニューは高額でも、不要な検査を省略して個別のメニューで受けると安くなるものも多くあります。

編集部

なるほど。ちなみに人間ドックは「クリニック」と「大きな病院」のどちらを選ぶべきでしょうか?

石岡先生

大きな病院では、各科の専門医が揃っているため、網羅的な検査を一日にまとめて受けられるメリットがあります。しかし、一日に多くの検査を回り切る必要があるため、胃カメラ検査で十分に鎮静剤を使用できない、大腸カメラは別日の検査が必要、料金が高額になりやすいなどのデメリットもあります。

編集部

では、クリニックで受けるとどのようなメリットがありますか?

石岡先生

クリニックは、各専門分野に特化したドックを提供しているケースが多いですね。必要な項目を選んで、各専門科クリニックを小分けにして受診することで、自分のニーズに合う検査だけを受けることができます。単科のクリニックで全身を網羅的に調べるドックメニューを提供している場合は、専門外領域を各分野の専門家と適正な連携をとっているクリニックであるかをよく見極めましょう。

年齢・性別で異なる人間ドックの重要性

編集部

人間ドックを受ける項目は、どのように決めるのがいいのでしょうか?

石岡先生

各臓器のがんには、それぞれ発症しやすいタイミング(好発年齢)というものがあります。若いうちから高額な全身ドックを受ける必要は必ずしもないと考えます。例えば、30代・40代の方には、男性であれば大腸がん、女性であれば大腸がん、乳がん、子宮頸がんの発症頻度が特に高いため、これらを集中的に調べるのが良いと思います。胃がん検診は毎年受けているのに、大腸がん検診は全く受けていない、という方をよくお見かけしますが、より頻度の高いがんを調べないのは理に適っているとは言えません。その他、生活習慣病のリスクも一緒にチェックしておくのが良いでしょう。

編集部

男性特有の健康リスクと対策について教えてください。

石岡先生

男性に特有の疾患としては、前立腺がんが挙げられます。一般的には50代以降から増加し、検診では腫瘍マーカーのPSA検査が一般的に用いられます。ほかの腫瘍マーカーは臓器特異性が少なく、がん検診として有用とは言えないものがほとんどですが、PSAは数少ないがん検診に有効なマーカーと考えられています。

編集部

女性が注意すべきがんはどうでしょうか?

石岡先生

女性に特有の疾患としては、乳がんや子宮がんが挙げられます。AYA世代(思春期~若年成人世代)と呼ばれる若年層から多く見られるがん種で、20代のうちからの検診が望ましいですね。また、子宮頸がんはHPVワクチンによる予防効果が明らかとなっており、特に性交渉前の接種が有効なため、若いうちから親子間でがん検診に関心を持って取り組んでもらうことが重要です。

編集部まとめ

人間ドックは、生活習慣病やがんの早期発見のための予防医療として重要です。正しい医療知識を増やすことによって、多様なメニューや医療機関の中から、自分にとって本当に必要な検査を選び抜く力をつけ、コストを抑えて賢く人間ドックを受けましょう。メニュー選びに迷ったら、まずは信頼できる医療施設・専門医に相談してみることをお勧めします。

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