角田裕毅の来季シートはどうなる? レッドブルはペレスと契約延長「彼らが僕を必要としないなら...」
2024年シーズンの3分の1が終わり、角田裕毅は中団グループの最上位を独走している。結果を見ても、内容を見ても、中団トップのドライバーであることは明らかだ。
8戦のうち5戦で入賞を果たして19ポイントを獲得し、ドライバーズランキング10位。RBも中団トップを争うハース(8点)に16点もの大差をつけ、チームのコンストラクターズランキング6位(24点)にも大きく貢献している。
今年になってマシンとチームが着実に進歩してきたことが、それを後押ししていることも事実。だが、通算8勝の経験を持つチームメイトのダニエル・リカルドと比べても、角田のパフォーマンスは圧倒的だ。
移籍するか残留か...選択権は角田側にある photo by BOOZY
予選ではリカルドに対して8戦7勝で、負けたのは絶不調だった中国GPのみ。決勝でもともにリタイアに終わった中国を除けば7戦6勝で、負けたのはレース終盤にポジションの入れ換えを指示された開幕戦バーレーンGPのみ。
リカルドはマイアミGPのスプリントで4位の好成績を見せたが、それ以外はQ3進出も1回のみで入賞もできていない。それに対して角田は、バーレーンと中国以外はすべてQ3に進出している。経験豊富かつ速さのあるチームメイトに対して、これほど明確な差を見せつけたことは非常に大きい。
それだけでなく、ミスが少ないのも今年の角田の大きな成長だ。
開幕前から「クオリティ」にこだわったアプローチを心がけ、ひとつひとつのセッション、ひとつひとつのランのクオリティに徹底的にこだわって、マシンのすべてを引き出すことに集中してきた。セッション外のエンジニアとのミーティングやデータ分析、セットアップの改善、ドライビングの改善についてもこれまでと比べものにならないほど緻密になり、ほんのわずかな差にこだわって、その積み重ねによってタイムを削り取ってきた。その結果が予選のリザルトだ。
【ペレスと契約延長を決めた「オトナ」の理由】そしてレースでも抜群のタイヤマネージメントと、抜く時には抜くというバトルマネージメントを見せる。無線で苛立ちを爆発させることもなくなり、それがレースを通しての集中力維持とペース維持につながっている。
その結果、予選では8戦中5戦で中団グループ最上位のグリッドを獲得し、決勝でも8戦中5回の中団最上位フィニッシュを果たしている。多くの場合においてハース勢との戦いになっているが、そのハースが常にターゲットに据えているのは、もちろんRBの角田だ。
角田自身としては、置かれた状況と与えられたマシンのなかで、ドライバーとしてやれるだけのことはすべてやり尽くしていると言える。
それでもレッドブルは、角田を昇格させるのではなく、セルジオ・ペレスとの2年間の契約延長を決めた。
もちろんその背景には、パフォーマンスだけではなく、ダブルタイトルを確実に獲るためのチームプレーといった戦略的な理由や、中南米市場を視野に入れたレッドブル本社のビジネス的な理由など、さまざまな理由がある。角田の起用に関しては、2025年かぎりでホンダとの関係が終了するという背景もある。
つまり、誰が見てもこれ以上ないほどの最大限のパフォーマンスを角田が発揮しても昇格がない状況なので、あきらめもつく。
実際のところ、角田自身もレッドブルジュニア出身のドライバーとしてレッドブル昇格が目標であるという姿勢を見せてはいたが、その可能性が決して高くないこともわかっていた。それは、角田がどうということではなく、2020年末にアレクサンダー・アルボンに代えてペレスを起用した時から、このチームの一貫した姿勢だ。
モナコGPを前に、角田は次のように語っていた。
「僕はレッドブルグループの一員なので、まずはレッドブル昇格というのが目標になります。レッドブルとホンダの存在なくして今の僕はあり得なかったわけですし、彼らに対しては強い忠誠心を持っています。
でも、彼らが僕を必要としないとか、レッドブル昇格を考えていないなら、他チームからオファーがあるとすれば、そのほうがRBやレッドブルよりも興味深い選択肢になるかもしれませんし、考慮します。
ホンダという意味では、アストンマーティンもすでに2席が埋まってしまっています。なので僕としては、とてもオープンなマインドではいますが、現状ではRBに満足しています」
【ハース小松礼雄代表が語るドライバー候補】2026年の車体およびパワーユニット(PU)の全面的なレギュレーション変更を前に、どのチームもドライバーラインナップは早い段階で確定させて、この大変革を乗りきろうとしている。マシンとPUが大きく変わるからこそ、ドライバーは固定で臨むべく、ドライバーたちとは2025〜2026年をまたぐ契約が交わされている。
だから角田も2025年の単年契約に飛びつくのではなく、2026年も含めたオファーを提示するチームと契約を交わさなければならない。でなければ、2025年末にはほかに空席がないという状況に陥りかねないのだ。
RBとレッドブルが角田に2026年以降も含む複数年契約を提示してくれるのなら、それはホンダドライバーとしてではなく、ひとりのF1ドライバーとして評価・起用するということになるのだから、角田としても喜んで契約を交わせばいい。
だが、ホンダとの関係ありきで2025年の単年契約しか提示しないのであれば、角田はF1ドライバーとしてさらに飛躍すべく、次のステップを考えなければならないだろう。
しかし冒頭に述べたように、中団トップのドライバーとなった角田への他チームの評価は高く、角田はチームを選べる立場にある。
ただ「速い」というだけでなく、F1ドライバーとして求められる「振る舞い」の点でも、今年は徹底してイメージの向上を図ってきた。
無線で喚き散らすこともなければ、バカげたミスをすることもない。チームとともにレースを作りあげ、チームのためにレースをし、ことあるごとにチームへの感謝を述べる。そういう洗練されたF1ドライバーになろうと努力しているからこそ、他チームからの評価も高まっている。
ニコ・ヒュルケンベルグの離脱が決まっているハースも、角田のようなドライバーを求めている筆頭候補だ。小松礼雄チーム代表はこう語る。
「ニコは非常にいいリファレンス(比較基準)です。予選でウチのクルマがどんな速さを持っているのか、という点について、ウチらがものすごく必要としていたリファレンスをもたらしてくれたわけです。
フィードバックも非常に優秀です。フィードバックをもとにマシンを開発できるドライバーですし、彼の仕事に対するスタンスもすばらしい。ですから、我々としては彼のそういう能力に代わるドライバーを見つける必要がありますし、探しているところです」
【今季の角田はチームを選べる立場にある】ハースの来季は、フェラーリの育成ドライバーであるオリバー・ベアマンの起用がほぼ確実だ。つまり来季、ケビン・マグヌッセンにヒュルケンベルグの役回りを務めさせるには不十分、という意味でもある。
同様に、2026年からアウディ・ワークスチームとなるザウバーも、ヒュルケンベルグ以上のドライバーを求めているが、そういう意味では優勝経験者でありトップチームを知るカルロス・サインツの動向が気になるところだ。
チームプレー無視の振る舞いがもとでエステバン・オコンとの契約終了を決めたアルピーヌも、やはり洗練されたドライバーを求めているところだ。しかし、彼らの場合は2026年以降のルノーの情勢が不安定であり、チーム売却やPU開発委託の噂も気がかりだ。エース格としてピエール・ガスリーがすでにいるため、スポンサーを持ち込めるドライバーの起用も視野に入れている。
いずれにしても、選択権は角田の側にある。
レッドブル昇格の可能性が消えたからと言って、落胆する必要はない。むしろ、F1ドライバーとして次のステージに上がる絶好のチャンスだ。今の角田裕毅には、それだけの力がある。シーズン序盤の8戦で、それはすでに十分に証明されている。