『Destiny』で“一番やりたかった”挑戦。石原さとみ&亀梨和也の表現力に「感動しています」<脚本家・吉田紀子さんインタビュー>
2024年4月よりスタートし、5月28日(火)に第8話までが放送されたドラマ『Destiny』。
主人公の検事・西村奏(石原さとみ)が大学時代の恋人・野木真樹(亀梨和也)と12年ぶりに再会したことで、過去の悲しい出来事の存在がよみがえり、そこから20年の時をかけた運命の波に翻弄されていくことになるこのサスペンス×ラブストーリー。
4月期の民放連続ドラマ初回見逃し配信再生数が第1位を記録し、第1話〜8話の累計再生数も2300万回(ビデオリサーチにて算出/23,863,742回/期間:4月9日〜5月30日)を突破するなど、大きな注目を集めてきた。
そんなドラマ『Destiny』が、6月4日(火)に最終回を迎える。
そこで、第8話までの放送を終えたいま、本作の脚本を務めた脚本家・吉田紀子さんにインタビュー。中川慎子ゼネラルプロデューサーもまじえ、『Destiny』誕生の経緯や作品でやりたかったこと、そして気になる最終回についてたっぷり話を聞いた。
<聞き手、文:木俣冬>
◆石原さとみ&亀梨和也の表現力に「感動しています」
――最終回目前、第8話までドラマを見た感想はいかがですか。
吉田:「脚本を書いたのはほぼ1年前だったので、脚本家的にはいろいろ反省しつつ、怒涛のような執筆時を思い出しながら見ています。一方で、役者の皆さんの演技のすばらしさに感動したり、スタッフの方々のご苦労を感じたりもして。役者さんの顔や声を思い浮かべながら脚本を書きましたが、皆さん、それを上回っている演技でした。
とりわけ、石原さとみさんと亀梨和也さんの表現力が豊かで、セリフのないときの心情を瞳や動作で明確に表してくれていました。台本の読み込みと行間の読解力が深く、感動しています」
――『Destiny』誕生の経緯を教えてください。
吉田:「一昨年(22年)の年末に、ゼネラルプロデューサーの中川慎子さんから連ドラの企画を伺いました。
学生時代、仲の良かったグループのなかである事件が起き、ひとりが亡くなるところからはじまって、彼らが35歳になったとき、その真実が明るみになるというサスペンスとラブストーリーのドラマを書いてくださいというオーダーでした。中川さんにしっかり伴走、いや、けん引していただき、ブレストしながら肉付けしていきました。
実は、主人公の職業が検事に決まったのはちょっと遅かったんです」
中川GP:「年末にお願いしたときは医療ものだったのですが、年が明けて、改めてお話ししたとき、リーガルものに変更したいとお願いしました。そもそものテーマは“罪と愛”だったので、リーガルもののほうが合うのではないかと思ったんです。急に変更して吉田さんにはご苦労をおかけしました」
吉田:「当初は、医学生のひとりが死んだ事件の真相を、12年後、主人公が35歳になったときに紐解くという話でした。医学も死と直結しますし、いろいろプランを考えていたら、急に検事に変更になり、頭が真っ白になって(笑)。医療ものは経験がありますが、リーガルものは初めてだったので、そこから猛勉強しました」
◆奏と真樹の取り調べ…「一番やりたかったこと」
――長い歳月にわたる複数の事件が絡み合う壮大な物語をよくぞ作り上げられて。
吉田:「早いうちに結末のプランを立てて、そこに向かって作っていきました。まず、奏と真樹には強い枷(かせ)が必要だと思って、過去の親子同士の因縁を考えたと記憶しています。
奏(石原)のお父さん・辻英介(佐々木蔵之介)が亡くなる事件がどういうものか、具体的に考えるにあたって、リーガル監修の先生に、どんなふうにしたら現役の有能な検事が陥れられて、自殺まで追い込まれることになるか、事例などを相談しました。
また、女性検事のことも知りたくて、何人かのかたにお目にかかって取材しました」
――女性検事に取材したということは、奏が恋人の貴志(安藤政信)から弁護士になってほしいと言われるのも、実際にあることなのでしょうか。
吉田:「元検事の弁護士の女性が、家族のことを考えて、検事をやめ弁護士になったとおっしゃっていました。検事は転勤が多いそうです。みなさん、およそ3年ごとに全国各地の検察庁に異動されると、そのとき初めて知りました」
――ほかに取材したことで脚本に生かされたことはありますか。
吉田:「女性検事の皆さんはとてもしっかりされていて、知性があって優秀で、正義感が強いと感じました。それぞれキャラクターは違いますが、共通しているのが、ひじょうに芯の強いところ。男性の弁護士や元刑事の方などに女性検事のイメージを聞いたら、粘り強さが男性の比じゃないと皆さん口をそろえておっしゃるので、そういうところから奏の像を作りました」
――貴志が医師なのは、医療ものの名残りですか。
吉田:「音信不通だった真樹(亀梨)が、12年後に突然帰って来る理由が欲しかったんですが、真樹が、自分の命が短いかもしれないと知ったら、人生の最期に会いたいのは、一番大事な友達や彼女ではないかと思いつきまして。真樹を病気にし、奏のいまの恋人をお医者さんにしたら、より3人の関係性が深まるのではないかと思ったんです」
――奏と真樹の会話が面白かったです。とくに取り調べのシーンが。
吉田:「過去に恋愛関係にあったふたりが、検事と被疑者として取り調べで対峙する。というのは、企画段階から、一番やりたかったことでした。取り調べの会話の中で、奏と真樹の恋人同士としての関係性がにじみ出る場面は私としても挑戦でしたが、石原さんと亀梨さんのふたりがものすごくよく台本の意図を理解してくれて、面白いものになったと思います」
――向き合って会話しているだけにもかかわらず、熱や湿度が感じられて良かったです。
吉田:「ふたりの幸せな恋愛描写が、ほぼ第1話にしかないので、後々、思い出として鮮烈に残るものを入れておこうと意識しながら描きました。絶対に離れない手のつなぎかたなどですね。35歳になったとき、成就しなかった恋やその時の思いを、取調べという枷の中で語ることで、より切ないものになったかもしれません」
◆オリジナルドラマの面白さを実感
――第8話の真樹の「おれ ばかなんで」というセリフも印象的でした。真樹のみならず、奏も、祐希(矢本悠馬)もカオリ(田中みな実)も、なんだか愚かしいけれどそこがいいというか。
吉田:「真樹だけ大学生のまま時間が止まってしまっているようにしたくて。それを亀梨さんがうまく演じてくれました」
中川GP:「『おれ ばかなんで』と自嘲気味に笑う真樹という、吉田さんの脚本はすごく面白いけれど、正直なところ、この脚本のハイブロウなところを適切に視聴者に届けることができるか、アウトプットの難易度が高いのではないかという心配もありました。
ところが、現場で亀梨さんに意図を説明すると『やれるかわからないけどやってみる、だめだったら言ってください』と言いながらスッとやってくれて。台本の理解度と再現度の高さに目を見張りました。愚かものなんだけど愛おしい、というニュアンスが素晴らしく出ていました」
吉田:「石原さんと亀梨さんじゃなかったら成立しなかったのではないかと思うくらい、難しいことを投げかけていたのですが、見事にやってくれました。
ストレートではない会話を書こうとすると、たいていプロデューサーは難しい芝居を要求するものはやめておきましょうと、脚本の打合わせの段階でおっしゃるのですが、中川さんはやりましょうと言ってくれて、感謝しています」
中川GP:「吉田さんの脚本は面白いから、実現させて視聴者に届けたいと思うんです。石原さんと亀梨さんと現場で脚本について論じるとき、このセリフは言えないとか言いづらいから変更したいというような要求ではなくて、吉田さんの脚本に表現されていることに近づくにはどうしたらいいのかという建設的な話になりました。それがオリジナルドラマの面白さだと実感しました。
演出スタッフの皆さんもたくさんの作品を経験しているから脚本の面白さを理解できたのだと思います」
◆石原さとみの感性の豊かさに「嬉しかったです」
――吉田さんは脚本とは別に、役のプロフィールを詳細に書かれるそうですね。
中川GP:「吉田さんが作った5000文字にも及ぶ主人公・奏のプロフィールを、石原さんはラブレターのようだと感じたそうなんです。私もそのプロフィールを盛り込みながら企画書を作りました」
吉田:「役のプロフィール――履歴を作るのは、脚本を書くための準備でもあるんです。奏が生まれた時から始まり、子供時代の出来事、父(英介)が亡くなったときの状況、その後の母との暮らし、大学生生活のこと、真樹やトモ(宮澤エマ)たちとの出会い、恋、カオリの事故。貴志との出会いなども書きました。
ドラマのなかではごく短い場面しか出てこないことも、奏の根底となるものなので、中身をしっかり埋めておきたかったんです。それを中川さんにお渡ししたら、石原さんにも渡してくださって、お手紙と受け取ってくださった。“お手紙”と捉える彼女の感性の豊かさを感じて嬉しかったです」
――脚本のト書きも細やか。昔からそういうふうに書いているのでしょうか。
吉田:「ほかのかたの脚本を見る機会があまりないので、私の脚本の書き方が独特かどうか、わからないのですが、師匠の倉本聰先生の脚本をお手本として、自分なりに書いてきました。
倉本先生から言われ印象に残っているのは、ト書きは書きすぎてもいけないし、書かなすぎてもいけないということです。簡潔なほうがいいけれど、プロデューサーや俳優を惹きつけるような一言を書いておいたほうがいいよと」
――本作の舞台のひとつを長野にしたのは、吉田さんが軽井沢在住だからでしょうか。
吉田:「中川さんが長野を舞台にしましょうとおっしゃって」
中川GP:「まぶしい青春時代の説得力とリアリティは、都内よりも地方大学を舞台にしたほうが出ると思ったんです。吉田さんとの打ち合わせで長野に通ったとき、とても素敵だと感じたので、舞台にしたいと考えました」
――『Destiny』というタイトルはどうやって決めたのでしょうか。
吉田:「これも中川さんのアイデアです」
中川GP:「大きく出ちゃったかなとも思ったのですが、吉田さんもいいねと言ってくださったので、思い切りました」
◆「ギリギリのところで挑戦をしながらやってきた作品」
――事件の真相と真樹の病気がどうなるか、最後まで気になる要素が満載です。視聴者はどういうふうに最終回となる第9話に臨めばいいでしょうか。
吉田:「ほんとうに知りたかったことが、真樹のお父さん・浩一郎(仲村トオル)の口から語られる回ですよね」
中川:「最終回に向けた取材で私が言っている『仲村トオルさん演じる野木浩一郎のなかにすべてはある』というのは、脚本を作っているときに吉田さんが言っていたことなんです。英介の自殺とカオリの事故と放火事件、3つのすべての事件に関わっているのは浩一郎だけだから、と吉田さんが去年の夏の執筆中には言っていました」
吉田:「そうですね。実は、最初、5話くらいで、浩一郎も火事で亡くなることにしようかっていう案もあったんですよね。火事で焼け残った金庫の中に、“真実”が隠されていた。みたいな(笑)」
中川:「そんな案もあったので、仲村さんにオファーするとき、どういうふうに言おうか悩みました。なるべく死なせない方向ではあるけれど、決めていませんというようなオファーをよく受けてくれたなと思って」
吉田:「浩一郎が亡くなって、彼が封印した真実を探す展開にするよりも、生きた彼の口から聞いたほうがドキドキするし、せっかく仲村さんが引き受けてくださったのだから、見せ場を作りたいと思いました」
――最終回の仲村トオルさんの場面は注目ですね。
吉田:「それもやりたかったことのひとつです。弁護士や検事の方々に取材をしたとき、弁護士にも検事にもそれぞれいろいろな苦悩や葛藤があることを知りました。監修の先生は元検事で、話せないことがたくさんあるとおっしゃっていて。話せないこととは何なのかと想像を膨らませました。浩一郎の語る“真実”に奏がたどりつき、検事とは何か、弁護士とは何かに思いをいたすものにしたかった。
それと同時進行で、真樹の病気は治るのか。奏と真樹のふたりはどうなるのか。ふたりのたどり着く先を見届けていただきたいと思っています。振り返れば、ギリギリのところで挑戦をしながらやってきた作品でしたが、ハマっていますという声も多くて嬉しいです。ぜひ最後までお楽しみください」