「面白い選手はいっぱいいる」立教大・睥嗟寛霓郡篤弔目指す箱根駅伝シード権獲得、そして「いずれは母校の駒澤大と肩を並べたい」
箱根駅伝に2年連続で出場し、総合順位も前回18位から今回14位へと上げた立教大。今年4月には、駒澤大でコーチを務めた郄林祐介氏が監督に就任し、今後ますます楽しみなチームだ。郄林氏のインタビュー後編では、将来のビジョンを中心に聞いた。
現役時代には駒澤大で箱根駅伝優勝を経験した立教大・郄林祐介監督
ーー現状ではどんな目標を持ち、どんな取り組みをしていますか?
郄林祐介(以下同) まず上半期の目標は、私も含めてみんな"慣れる"ということです。関東インカレや全日本大学駅伝の関東地区選考会など大きな大会もありますが、そういった大会を通して現状を把握し、いいところ、悪いところを明確にして、新しい立教のスタイルをつくっていく時期に充てたいと思います。
試行錯誤しながら、彼らにとっては今までやったことのないようなことにもトライしながら、自分たちの立ち位置を知ることですね。
全日本選考会は去年14秒差で本大会出場を逃しており、今年こそ出場できるかもしれないという期待を感じています。でも、そんなにすぐに結果を出すのは難しい。
もし本戦出場を決めることができたとしても、それは私の指導力というよりも、選手のもともとの能力によるところが大きい。結果に一喜一憂するのではなく、限られた時間でしっかり準備をして、その結果をちゃんと受け止めることが大事だと思っています。
本番は夏以降。箱根予選会は、私にとって指標のひとつであり、私の思いや意向を体現する場になると思っています。夏合宿をしっかりやって、箱根予選会でどれだけ戦えるかは、箱根本戦に向けても大事なことです。
ーー具体的に新しくトライしていることは、どんなことですか?
新しいことというか、結局、土台づくりを今はしています。
【自分の色は意識していない】ーースピード重視からの転換ということでしょうか?
転換ではないです。スピードはあっても、(体力面も含めた)下地があるかないかが大事。1週間のなかにはスピード練習ももちろんしますが、たとえば、朝練習や月曜日や土曜日にはちょっと長めの快調走やロング走を行ない、しっかりベースをつくったうえで、スピードを出力できる状態をつくっていきたい。
これまでジョグは完全に各自で行なっていたので、次の日にポイント練習(※負荷の高い実戦に近いペースで行なう練習)があったら、15分とか30分走っただけで終わることもあったようです。でも、練習のための練習ではいけない。体がきついからといって、スピード練習に合わせるためにジョグを休むといったことはなくしたい。
今は移行期なので、ジョグの場合、たとえば、12kmから15kmと距離に幅を持たせて、そのなかで自分の体調に合わせて選んでもらうようにしています。なので、彼らからしたら、全体的に練習量が増えていると感じているかもしれません。
基本的に練習は提示しますが、選手に決めさせるようにしています。結局、自分の体のことをわからなければ走れません。箱根駅伝だって運営管理車から声をかけることはできますが、自分で判断しなければいけない場面はある。そこに目を向けてほしいですね。
ーーその地固めができてから、郄林監督の色というか、新たにチームの方向性が定まってくるのでしょうか?
そうですね。下地がないと、頭打ちになっちゃうので。でも、私の色っていうのは、あんまり意識はしていないですけどね。
駒澤大しかり、自分が所属したトヨタ自動車しかり、いろんなトップチームで見てきたものを柔軟に取り入れてやっているような感じなので、私の色というのは正直、あんまりないですよ。(チームカラーの)紫が薄くなったぐらいです(笑)。
【選手一人ひとりの細かい部分にこだわりたい】ーーウエアは紫から江戸紫に。
基本は紫なので、あまり違和感はないです。周りの反応もそうですね。私はいろんな人に教わってきて吸収させてもらったので、結果的に、それが自分の色になるのかもしれませんが、あまりそこにはこだわっていないですね。
それよりも、一人ひとり個別に、具体的に見てあげることがキーになってくる。万人に"これをやったら強くなる"っていうことはあまりないと思うんです。個々の状況を見て、細かい部分にこだわってあげたいです。
うちには1500mを得意とする選手もいれば、面談をしてみると「実はロードをやりたいんです」っていう選手もいました。夏までは、トラックだったりロードだったり、個々の目標を設定して、それを達成できるように練習メニューを選手たちと相談しながら進めています。
距離走をひとつとっても、それぞれの状態や試合のスケジュールに合わせるので、5グループぐらいになる。ポイント練習になると、もっと細かく分かれます。力に応じてA、B、Cとグループ分けしてやれば、もっとラクなんですけどね。
うちのチームは"ふるいにかける"ようなことをしている場合ではないので、その子の状況に合わせた練習を選べるようにしていったら、結果的にたくさんのグループになってしまいました。午後4時ぐらいから始まって、終わるのが8時ぐらいになることもありますね。
現状ではひとりで練習を見ていますが、マネジャーもいるのでなんとかやっています。そこにはこだわっていきたいですね。
ーー"ふるいにかける"ことよりもボトムアップが必要なのでしょうか?
いや、上は上で伸ばしていかないといけません。結局、そこも個ですよね。ボトムアップだけではやっぱり足りない部分がある。主力の選手たちが、他大学のトップレベルの選手と争えるようになっていかなければ。ボトムアップだけでは戦えないので、両面でやっています。
【いずれは駒澤大と肩を並べたい】ーー昨年度までの主力だった中山凜斗選手(西鉄)、関口絢太選手(SGホールディングス)は卒業しましたが、箱根駅伝の経験者は8人が残っています。
そういう主力の選手たちも、結局、能力ありきで、選手主体だった時の練習は全然足りていない。これくらいの量でよく箱根を走ったなと思うぐらいです。でも、逆に言えば、もっとしっかり練習を積めば、もっといけるということ。
面白い選手はいっぱいいるし、走りを見ていてもポテンシャルを感じる選手は多い。しっかりと練習をして、引き上げてあげたいです。私はまだ指導者としての実績はないので、そういった意味では、自分自身のチャレンジでもある。
ーー郄林監督自身も、楽しみが大きい。
はい。すごく楽しいです。訳のわからないやつがいきなりきたのに、選手たちが、やってみようっていう気持ちになってくれたことに感謝ですよね。
安藤圭佑キャプテンをはじめ幹部の学生たちが、指導者がいなかった時にしっかりチームをまとめていてくれたおかげでもありますね。
ーーまずは下地ができてきたうえで、いろいろなことが決まっていくのだと思いますが、長期的な視点でどのような目標をお持ちですか?
引き続き、大学からはバックアップをしていただいており、「立教箱根駅伝2024」事業は続いていきますので、次はシード権獲得を目指していくことになります。
そして、いずれは母校と肩を並べて勝負したいです。3番以内に入るとか優勝争いをするとなると、さらにいろんな部分を変えていかないと難しいし、また一段上がらないといけませんが。
駒澤大の先輩には、母校を率いる藤田さんだけでなく、國學院大の前田(康弘)さんもいらっしゃいます。今はまだ全然ですが、しっかり肩を並べられるようにすることが目標ですね。
【大学駅伝の生々しさが魅力】ーー駒澤大OBの指導者も、高校、大学、実業団と増えてきました。
そうなんですよ。大八木さんは「財は残さないけど、人を残す」とおっしゃっていました(笑)。自分も育ててもらったし、人を育てる姿を目の当たりにしているので、そこに引き寄せられるというか、憧れる部分はみんな、あるんじゃないでしょうか。だから、こういう世界に飛び込んできているのかな、と思いますね。
でも、中に入ってわかりましたが、そんな簡単なものではありません。あれだけ結果を出すのはすごいことだとあらためて感じました。
ーー大学時代の同期の宇賀地強さん(コニカミノルタ監督)、深津卓也さん(旭化成コーチ)は実業団で指導者になられましたが、郄林監督は大学での指導者を希望されていたのでしょうか?
いや、もともとあまりこだわりはありませんでした。シニア、つまり大学や実業団のカテゴリーでやりたいなというのは漠然とありましたが。
でも、駒澤大にコーチとして戻ってきて、学生を指導する面白さをすごく感じました。実業団はある程度、自立した選手を指導しますが、大学の場合、そうではありません。いろんな部分で生々しさというか、人間味を感じられる部分に魅力を感じちゃったのかもしれません。
ーー駒澤大のコーチ時代には大学駅伝三冠だけでなく、田澤廉選手(トヨタ自動車)らの世界への挑戦も間近で見てきたと思います。そういった個の育成という点はどのようにお考えですか?
あのレベルの育成はすぐにはできないですけど、レベルは違えど、私なりに学びはありました。
結局、チームとしての目標もそうですが、選手の目標を叶えるのが指導者だっていう教えを受けていますので、そこは大事にしていきたいです。駒澤大では世界を見させてもらったので、そういう世界が見えるチームにしたいという思いもあります。
終わり
前編<立教大・郄林祐介新監督が図った軌道修正 箱根駅伝連続出場のチームに改革を示すも「うーん...響かなかったですね」の真意とは?>を読む
【プロフィール】
郄林祐介 たかばやし・ゆうすけ
1987年、三重県生まれ。自身、強豪の上野工業高(現・伊賀白鳳高)時代には3年連続インターハイに出場し、3年次には1500mで優勝。駒澤大に進学し、出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝で7度の区間賞を獲得。2年次には箱根駅伝総合優勝を経験し、4年次は主将を務めた。卒業後はトヨタ自動車入社し、2011年には全日本実業団対抗駅伝で3区区間新記録樹立し初優勝に貢献。2016年に現役引退。2022年から母校の駒澤大陸上競技部コーチを経て、2024年4月より立教大の体育会陸上競技部男子駅伝監督を務めている。