2023−24シーズンの最終戦となったラ・リーガ最終節アトレティコ・マドリード戦で2試合ぶりにスタメン復帰した久保建英は、右サイドで際立つプレーを見せて今季の全日程を終了した。今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、久保の今季の総括を行なってもらった。

【5段階で3番目という評価が妥当】

 久保建英の今シーズンのパフォーマンスは、全体的に評価すればよかったものの、特別と言えるほどではなかった。ドノスティア(※バスク語でサン・セバスティアンの意)でのこの日本人選手のシーズン分析をするのなら、まずそれを前提に始めるべきだろう。


ラ・リーガ最終節で奮闘した久保建英。シーズン後半は調子を崩した photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 特に2024年に入ってからの明らかなパフォーマンス低下が、前半戦のすばらしい仕事ぶりを大きく損ねてしまったことを考えると、『matrícula de honor (秀/スペインの学校での最高評価)』や『Sobresaliente (優/2番目の評価)』を与えるのは過大評価と言える。

 2024年に入ってからはおそらく、『Suspenso (不可/最低評価)』か、よくても 『Aprobado (可/4番目の評価)』だ。そのため、序盤に見せたすばらしいパフォーマンスを加味した場合、シーズンを通じた成績は『Notable (良/3番目の評価)』とするのが妥当だろう。

 今シーズンの成績を振り返ると、久保は公式戦53試合中41試合(先発33試合、フル出場17試合)に出場し、出場時間はチーム内で9番目の約3000分を記録した。

 ラ・リーガでの得点数はチームでミケル・オヤルサバルに次いで2番目に多い7ゴール。しかし、ラ・リーガ以外は無得点だったため、3大会すべてをカウントした場合は4位となる。オヤルサバルが14ゴールでトップ、ミケル・メリーノとブライス・メンデスが8ゴールで久保の上にいる。そしてアシスト数は5。これはブライス・メンデス(9アシスト)に次ぐ、チームで2番目に多い数字だ。

【2024年から不調。常に止まった状態でボールを受けていた】

 シーズン序盤の久保は、凄まじいものがあった。チームが調子を上げることができたのは、彼の尽力によるところが非常に大きい。イマノル・アルグアシル監督は久保に大きな恩恵をもたらすシステムとプレースタイルを確立した。それは、逆サイドに多くの選手を集めたあと素早く右サイドに展開して、久保がアドバンテージとスペースを得て、1対1や2対1の局面を作れるようにするもの。久保はその形から何度も中に切り込み、チャンスを生み出していった。

 その活躍ぶりが評価され、ラ・リーガのMVP候補にまで挙がるほどだった。実際、彼は全7ゴールのうち5ゴールを8月から9月にかけて決め、10月までに3アシストを記録した。イマノルから要求された得点面の仕事に見事に応え、昨シーズンのほぼすべてのインタビューで話していた"自分自身に課したステップアップ"を証明してみせたのだ。

 得点こそなかったが、チャンピオンズリーグのパフォーマンスも実にポジティブなものだった。ボールを受けるたびに相手DFをパニックに陥れた。ドリブルで容易に相手をかわし、ゴールにつながるパスを出し、シュートを打つたびに致命傷を負わせていた。

 しかし、年明けのアジアカップ参加で大きな問題が発生する。勢いに乗っていた時期に重要な大会が重なってしまったのは本当に残念だ。

 自国の代表であることを誇りに思いながらも、シーズン途中でクラブを抜けるのに躊躇いを感じていた久保が日本代表に合流してから、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)は徐々に低迷していった。そして久保自身も、日本がアジアカップで優勝できず、失意と疲労を感じながらチームに戻ってきたあと、調子を崩した。

 輝きが失われ、走りながらボールをもらうことがなくなり、常に止まった状態でボールを受けていた。これでは当然、相手を突破するのに苦労し、チャンスメイクもゴールも難しくなった。事実、2024年に入ってからのゴールはわずか1点のみ、しかもそれは3カ月以上前の2月18日のマジョルカ戦のことだった。奇しくもその月は、クラブが2029年まで契約延長し、彼に対する信頼を最大限に示した時だ。

 久保の調子はその後も上向かず、チームも大いに疲弊し、突破力もスピードもなくなっていた。イマノルはこの状況を打破するため、強靭なフィジカルを生かし、パフォーマンスを大幅に向上させていたシェラルド・ベッカーをスタメンに抜擢する。この選手起用が的中し、久保はシーズン終盤、これまで安泰だったレギュラーの座を失うことになったのだった。

【決定力低下は精神面やチームの不調が影響】

 久保は後半戦に入ってから決定力に陰り見えたが、それは、大きな原因と考えられる肉体的疲労は別にして、相手の警戒心が強くなったからなど技術的な問題というよりも、久保自身の精神面やチームの不調が大きく影響したからだろう。

 高い技術力を備えた久保は、本調子ならどんなにきついマークを受けようとも突破することができる。そのため、対戦相手にはとっくに研究さていると思うが、それはあまり関係ない。今の状況から抜け出すために久保ができることは、肉体同様に疲弊しきった精神面を安定させ、前半戦で示したゴールへの感覚や自信を取り戻すことだ。

 久保は今シーズン、ハッピーエンドとはならず、最終的に重要な試合で度々控えとなり、さらには90分間ベンチを温めることもあった。

 ホームで行なわれたアトレティコ・マドリードとの今季最終戦は、もはや何のタイトルも懸かっていなかったため、チームにとってはシーズンを締めくくる"祝い"の試合となった。スタメンに復帰した久保にとっても、プレッシャーを感じずに、自分のプレーに輝きと喜びを取り戻す絶好の機会だった。

 チームは全般的に流れに乗れないまま0−2で敗れたが、緊張感を欠き、相手守備陣を崩してチャンスを作るのに苦しんだのだから、それは当然の結果と言えるだろう。そんな状況下にありながらも久保は、再び眩い光を放った。この日の彼は先発11人のなかで最も闘志溢れる選手だったように感じられた。

 久保は常にボールを要求し、相手に立ち向かい、右サイドで何度もサムエウ・リーノを圧倒した。決定機はほとんど作れなかったが、いい出来だった。さらにすばらしいドリブルを披露して強烈なシュートを放ち、ヤン・オブラクを脅かしていた。このプレーはこの日、出来のよくなかったチームにとって数少ないハイライトのひとつと言えるものだ。

【久保の将来はラ・レアルにあり】

 多くのオペレーションや交渉を控えている今夏は、ラ・レアルにとって長く複雑なものとなるだろう。スポーツ・ディレクターを務めるロベルト・オラベはスター選手を残留させ、適切な契約を結ぶための仕事に取り組むことになる。

 しかし久保は今夏、チーム内で不安を煽る選手になることはないはずだ。彼はドノスティアで自分の居場所を見つけている。この街の雰囲気や社会にうまく溶け込み、サポーターの大のお気に入りとなっており、イマノルという自身のキャリアにおいて重要な監督もいる。

 久保はイマノルが自分の能力を最大限に引き出してくれる指揮官であることをわかっており、大きな信頼を寄せている。さらに彼はピッチ外でも、親友のベニャト・トゥリエンテスをはじめ、チームメイトととても仲がよく、快適に過ごせているのだ。

 ほかの選手たちは、より小さなクラブに期限付き移籍したり、より大きなクラブに買われたりするだろうが、久保はラ・レアルに残るだろう。それは間違いない。

 今年2月に契約が2029年まで延長されたのは、クラブと久保の双方が長く実りある関係が続くと信じているためだ。さらにラ・レアルが来シーズン再び欧州カップ戦に参加する権利を得たことは、残留へのあと押しとなっている。

 その若さにもかかわらず、波瀾万丈なキャリアを経てきた久保は、安定と自信を必要としている。今夏開催されるパリオリンピックは不参加の予定だ。これにより、彼は最高のコンディションでラ・レアルでの新シーズンをスタートできるし、さらに今夏、代表チームでビッグトーナメントを戦うライバルたちよりもいい状態で臨めるだろう。

 このことで、イマノルは微笑み、サポーターも微笑み、久保も微笑むことができる――。
(郄橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)