ダービーで本命が受ける重圧は計り知れない 実績ありながら人気薄という馬には要注意
ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
――今週は、いよいよ日本ダービー(5月26日/東京・芝2400m)です。3歳世代7906頭の頂点が決まります。
大西直宏(以下、大西)ダービーは、競馬関係者のすべてが目標とする舞台。実際、騎手や調教師は皆「ダービージョッキー(トレーナー)になりたい」と渇望するものです。それゆえ、勝ち馬のみならず、どの騎手、どの調教師が勝利を収めるのか、という点においても大きな注目が集まり、今年もその辺りが話題になっていますよね。
ジョッキーで言えば、何度か悔しい経験をしてきた戸崎圭太騎手や横山武史騎手などが、実績的にも「そろそろ(勝つ)順番ではないか」と見られています。片やトレーナーでは、国枝栄調教師。現役唯一の1000勝トレーナーながら、いまだ牡馬クラシック制覇はなく、有力馬で臨む今年は大きなチャンスと言われています。
いずれにしても、今年のダービーではどんなドラマが生まれるのか。僕もとても楽しみにしています。
――格式の高さは、歴代の優勝馬、その騎手や調教師の名前を見てもよくわかります。
大西 僕は運よく2回目のダービー挑戦で勝たせてもらいましたが、初めて挑戦して2着になってから、10年後に勝つまでにはいろいろなことがありました。
やはりダービーというのは、幾多の苦労や経験をしてやっと(勝利を)つかみ獲ることができるレースだと思います。その分、レースを分析するうえでは、送り出す側や乗り役のこれまでの経験値、このレースへの想いといった部分まで無視できない要素となります。
そうしたなかで今年一番の注目は、無敗で一冠目のGI皐月賞(4月14日/中山・芝2000m)を制したジャスティンミラノ(牡3歳)に騎乗する戸崎騎手ではないでしょうか。
戸崎騎手はこれまでにダービーの騎乗経験が9度あって、2着が2度あります(2018年のエポカドーロ、2019年のダノンキングリー)。それぞれ、勝ち馬とは半馬身差、クビ差。本当にあと一歩のところまできていて、今回にかける想いは相当なものがあると思います。
――そうなると、戸崎騎手が抱えるプレッシャーも大きいのでしょうね。
大西 それはもう、計り知れないくらいのモノがあると思います。騎乗するジャスティンミラノは、東京コース2戦2勝。そして、皐月賞をレコード勝ち。馬の強さは誰もが認めるものです。しかも、同馬を管理するのは友道康夫厩舎。ダービー3勝の名伯楽で、勝つ要素がすべてそろった状況ですから。
こういう時のジョッキーには、「負けられない」という重圧がかなりのしかかってきます。おそらく今週は、戸崎騎手は寝ても起きても、ずっとダービーのことを考えているのではないでしょうか。
とはいえ、彼にはもう、重圧に押しつぶされるような弱さはありません。先週のGIオークスでも、1番人気のステレンボッシュに騎乗して勝ちに等しい競馬を見せました。結果は惜しくも2着に終わりましたが、それは勝った馬が強かっただけ。僕の目には、騎乗自体に非はなかったと思います。
もちろん、オークスを勝って今週に臨むことができれば一番よかったのでしょうが、"負けて強し"の競馬ができたことは、戸崎騎手自身の今後へ向けても、直近のダービーに向けても、自信につながったはずです。
ジャスティンミラノはこれまでの3戦を見ても、ゲートの出脚が速くて、すんなり好位を取れるスピードがあります。それでいて折り合いもつくので、乗り難しいタイプではありません。
こういう馬であれば、いくつものレースプランを用意する必要もないですし、騎乗に対する迷いが生まれることもありません。そんな馬の安定感、戸崎騎手の今の充実ぶりからして、この人馬がダービー制覇に最も近い存在だと思います。
――ジャスティンミラノの二冠濃厚といった感じですが、穴馬的な存在として大西さんが気になっている馬はいますか。
大西 皐月賞2着のコスモキュランダ(牡3歳)に注目しています。この馬も、皐月賞はジャスティンミラノと同タイムのレコードで走破。ゴール前の強襲ぶりなど、走りの中身は勝ち馬と互角と呼べるものでした。
ダービーでの一発が期待されるコスモキュランダ photo by Kyodo News
それでいて、下馬評ではそこまで人気にならないのは、プロフィールが地味だからでしょうか。
新馬戦はタイムオーバーすれすれの大負け。屈辱的なキャリアのスタートとなって、初勝利までに4戦を要しました。そこまでは、とてもエリートの戦績と呼べるものではありません。
しかしその後、芝2000m戦を走るたびに時計を短縮し、格上挑戦となった2走前のGII弥生賞(3月3日/中山・芝2000m)を制覇。その勢いで皐月賞も2着と好走し、持ちタイムを3秒近く縮めたことにはとても驚かされました。
フロックでこの時計では走れません。明らかに馬が充実期に入っていると考えられます。
中山・芝2000mを何戦も走ったあと、皐月賞で好走した、という使われ方は、かつて僕が騎乗して二冠を制したサニーブライアンを連想させます。皐月賞で好走しても、ダービーで人気にならない、というところまでそっくりです。
今回、鞍上はミルコ・デムーロ騎手への乗り替わりとなりますが、弥生賞で途中から動いてまくり差しを決めたコンビ。この手替わりに不安は感じません。
デムーロ騎手は、これまでにダービーを2勝。いずれも1番人気での勝利でしたが、今回は「負けてもともと」くらいの気軽さで、一発を狙った騎乗をしてくるでしょう。
ダービーのような特殊な雰囲気のなかで行なわれるビッグレースでは、実績がありながら人気がない馬が最も怖い存在です。よって、この馬を今回の「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。