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4月、5年ぶりに熊本で開催された国内最大級のファッションイベント『東京ガールズコレクション(TGC)』およそ1万人が来場し、華やかなショーを楽しみました。

【写真を見る】「服には一着ずつ名前がある」“ザ・ジャパン”はあえてやらない 日本の美や儚さを込めた長く愛せる服

実はこのイベントに、熊本のアパレルブランドも参加していました。

モデルの新川優愛さんやトラウデン直美さんが身に付けた衣装。ブランド名は「ubusuna(産土)」。「自分たちが産まれた土地」という意味が込められています。

綿や藍染めなど熊本産の素材を、職人が仕立てるメイドイン熊本の服です。
ーー(司会者)新川さん着心地いかがですか?
新川優愛さん「着心地めちゃくちゃいいです。とてもいい素材を使われてるのも、丁寧に作られてるのも感じます」

創業147年になる老舗のアパレル総合商社「古荘本店」。熊本で衣料品の流通を支えてきた古荘本店のオリジナルブランドが『ubusuna』です。

6代目社長の古荘貴敏(ふるしょう たかとし)さんが2024年2月に完成させました。きっかけは、古荘さんが抱いていたアパレル業界への疑問からです。

着られないまま捨てられる服より『長く愛せる服』へ

古荘本店 古荘貴敏社長「商品を大量に扱うことで価格を抑えていたが、そうすると商品の供給量が増えて、実際着られないまま捨てられる。それがものすごい量になってきて、このやり方ちょっと成り立たないんじゃないかと感じた部分がありました。全く違う価値を生み出すこの企画がスタートした」


古荘さんが伝えたい「世界観」を、服を通して形にするのが、ubusunaのクリエイティブディレクターを担当する重藤賢一(しげとう けんいち)さんです。

ubusunaクリエイティブディレクター 重藤賢一さん「ゲイシャ(芸者)、フジヤマ(富士山)、スモウ(相撲)とか、そういう『THE JAPAN』みたいなことはあえてやってないです。日本人が感じる儚さや美しさを服に込めました」

実は重藤さん、衣服をデザインするのは初めて。

普段は博物館のデジタルアーカイブやデジタルコンテンツの開発・制作プロデュースを請け負う会社を経営しています。

重藤さんが最初に取り組んだのは晴れ着としても使えるフォーマル用の服。これまでの経験や知識を活かして新しい世界観を作りました。

重藤さん「晴れの場のパーティーとかに行くとき着ていくものとして着物かタキシード。その中で『和服でもなく洋服でもなく“日本の服”』が作れないかなと思いこれを作った」


重藤さんが古荘さんの思いを形にした服ができました。

古荘​さん「これは『月読(つくよみ)ジャケット』。横から見ると三日月をイメージさせるシルエットにしてます。この曲線美が日本の美の特徴かなと思ってます。曲線美を出すには難しい縫製技術が必要」

『ubusuna』のデザインを支えるのは職人の技術です。

どこにも真似できない価値

古荘さん「これこそ手仕事の職人の手によって綺麗に縫製している。手仕事を服に反映させることが、他のどこも真似できない価値」

重藤さん「爽やか。袖を通して着ている時、いろんな環境 暑い時もあれば寒い時もある、(どんな環境でも)気持ち良くするのはこだわりました」

職人が集まる縫製工場。福岡県久留米市は伝統工芸品「久留米絣(くるめがすり)」の産地です。

正確な裁断と縫製は、服の仕上がりを大きく左右します。 職人の卓越した手仕事は「ubusuna」の随所に見られます。

重藤さん「絣※(かすり)を入れています。こういう処理も伸縮率が違うので結構難しい縫製になる。普通ではなかなかやらない」

※絣(かすり):文様がかすれて見えることが特徴の文様織の一種 ※着物情報サイト「きものと」より引用

装飾技法のひとつである「パイピング(玉縁)処理」を施し、絣を入れています。

愛着をもってもらうための仕掛けも施してあります。

一着一着に名前が!

重藤さん「全部名前がありまして。長く着て、愛着を持ってもらうために、一点一点服に名前を付けている。可愛がっていただきたい」

ジャケットのタグには『シキタヘノ』の文字。万葉集の歌に使用されている枕詞『敷き妙の(しきたへの)』から名付けられました。

「パジャマを着ているかのような着心地」

ubusunaの服は、オンラインショップではなく、熊本市内の直営店でのみ販売しています。

店にはシャツやパンツにジャケット、コートなどが並んでいて、価格はジャケットが132,000円、シャツが66,000円。

高価ですが購入したお客さんからの評判は上々、この日もリピーターが訪れていました。

常連客「一回着てみると、これは心地いい。パジャマ感覚で寝たいくらい。一生モノと思って購入させていただいている」

そして4月、熊本から唯一「東京ガールズコレクション」に出品しました。 4月13日グランメッセ熊本で開催されました。

新川優愛さん「何か伝統工芸品を身に付けているような感じがしてとてもテンションが上がります」

現在、カジュアル系のラインを制作中。夏には新作が完成予定です。

将来は、熊本県外でもそれぞれの場所でubusunaの服づくりを広げていきたいと思っています。

重藤さん「自由な発想は心に置いています。どれだけ勇気を持ってやるか。新しいものをやるときは反対されるけど」

古荘さん 「逆に効率化ではなくて非効率化。あえてローカルでやる。いろんな所のubusunaがどんどんできていって、場合によってはubusuna同士が連携して新しい価値を生み出す。そうなると日本全体がよくなっていく、再認識される良い機会になるのではないかと思っています」