【高校野球界は大型投手ブーム】

 2024年の高校生ドラフト戦線は「大型投手」がキーワードになっている。身長190センチを超える長身投手がひしめき、スカウト陣の注目を集めているのだ。

 代表的な存在を挙げてみよう。身長198センチ右腕の小船翼(知徳)、身長193センチ右腕の山口廉王(仙台育英)、身長192センチ右腕の清水大暉(前橋商)、身長191センチ左腕の河野伸一朗(宮崎学園)など。


春の神奈川大会準優勝に貢献した東海大相模の大型左腕・藤田琉生 photo by Kikuchi Takahiro

 そして今春、急成長を見せた大型サウスポーが藤田琉生(りゅうせい/東海大相模)だ。その身長は198センチ。本人は「自分のなかでは止まったと思っているんですけど」と前置きしつつ、こう苦笑する。

「周りからは『日に日に伸びてる』って言われます」

 今春の藤田の活躍はめざましかった。神奈川大会準決勝戦で横浜を1失点に抑えて、決勝に進出。決勝では武相高に敗れたが、エースとして準優勝に貢献。関東大会でも初戦の専大松戸戦で6回2失点と好投した。

 ストレートの最高球速は144キロと飛び抜けた数値ではないものの、捕手のミットを激しく叩く凄まじい球威が持ち味だ。高速に縦変化するカーブ、打者をのめらせるチェンジアップと、変化球もコントロールできる。

 一般的に「大型選手は自分の体を操るのが難しい」と言われている。身長198センチ、体重92キロの威容を誇る藤田はどう感じているのかを尋ねてみると、意外な反応が返ってきた。

「『あいつはデカいから動きが鈍いのはしょうがない』と許される感じが好きじゃないんです。自分も高校に入った頃は全然動けなくて、周りからもそう言われていて。それが悔しかったので、『デカくても動けるようにしてやろう』と思って、人よりも体を動かすことで俊敏性をつけていきました」

 課題の瞬発力を改善するのに、東海大相模はうってつけの環境だった。藤田はもっとも効果があったトレーニングとして「ハードル」を挙げた。

「相模は毎週1回、陸上部の道具を貸してもらってトレーニングをするんです。そこでハードルをジャンプするなかで、瞬発力がついてきました」

 自分の体をイメージどおり操れるようになり、瞬発力が向上したことで体内のエネルギーを一瞬で集約できるようになった。藤田は「球速も上がってきましたけど、とくに球威が上がってきた感じがします」と手応えを語った。

【両親ともに身長180センチ超え】

 両親から受けた影響も大きい。両親はバレーボール経験者で、ともに180センチを超える長身。バレーボールのスパイクを打つ動作と、投手が腕を振る動作はよく似ている。藤田は時にバレーボールを打つことで、腕の振りを確認しているそうだ。

「ちょっとおかしいな、と思う時は壁に向かってバレーボールを打って動作を確認しています。スパイクを打つ時の音を聞きながら、確認して。親に動作を見てもらうこともありました」

 手首を立てて左腕を振る感覚を大事にしているため、あえてスライダーを封印している。ストレートに自信を持てるようになってからはカーブとチェンジアップも比例して精度が向上し、「投球全体のレベルが上がった」と手応えを得ている。

 まだまだ底知れぬポテンシャルが眠るなか、右肩上がりに成長を続ける藤田がプロスカウトから評価を受けないはずがない。1学年下には来年のドラフト候補である本格派右腕・福田拓翔(たくと)もおり、今夏の神奈川大会でもバックネット裏から熱視線を浴びるのは間違いないだろう。

 これからどんな存在になっていきたいか。最後にそう尋ねると、藤田は少し考えてからこう答えた。

「相模のモットーは『人間性』なので、模範となる人間になりたいです。プレーでもグラウンド外でも、常に人に見られていると思って行動しています。チームのエースとして、行動力を持てる人間になっていきたいですね」

 デカくても、動ける。藤田琉生の大きなストライドには、無限のロマンが詰まっている。