大阪桐蔭時代は控えの外野手 国士舘大・山下来球はドラフト候補右腕が「天才っすね」と一目置く超逸材
東都大学2部リーグに、2025年のドラフト会議に向けて名前を覚えておいたほうがいい外野手がいる。
国士舘大の山下来球(ききゅう)。身長174センチ、体重77キロと体格的には目立たないものの、大学入学直後の1年春からレギュラーを張る左投左打の外野手だ。対応力抜群の打撃が最大の魅力で、2年生だった昨秋はリーグ3位の打率.353をマークしている。中堅からの強肩も一見の価値があり、総合力は高い。このまま順調にステップを踏めば、来年はドラフト候補に挙がってくるはずだ。
2025年のドラフト候補、国士舘大の山下来球 photo by Kikuchi Takahiro
山下は自身の目指す選手像を、このように語っている。
「西川龍馬選手(オリックス)や近藤健介選手(ソフトバンク)みたいに、打率を残しつつ長打も打てるようなバッターになりたいですね」
山下を見るたびに、思うことがある。「これほどの選手が高校時代は控えだったのか......」と。山下は泣く子も黙る名門・大阪桐蔭の出身である。
3年前の大阪桐蔭外野陣を振り返ってみよう。レフトは高校球界屈指の快足を武器にする野間翔一郎(現・近畿大)、センターは高卒でプロ入りする強肩強打の池田陵真(現・オリックス)、ライトはポテンシャルにかけては世代屈指の花田旭(現・東洋大)。山下本人も「周りがエグすぎたんで......」と苦笑してしまう布陣だった。
「なんとか食らいついていましたけど、完全に埋もれていました。高校時代はワンバウンドでしっかりコントロールする......みたいなスローイングでしたけど、大学でトレーニングの成果が出て、肩が強くなりましたね」
ただし、「大阪桐蔭に行かなければよかった」という思いはない。山下は「それがあったから今があるんで」と胸を張る。日本一ハイレベルな競争を戦った経験が、大学野球の世界で存分に生かされている。
今春のリーグ戦で、山下はさらにレベルアップした姿を見せている。
5月8日、等々力球場での東洋大1回戦。対戦相手は今年の有力なドラフト候補に挙がる岩崎峻典(しゅんすけ)。履正社高では2年夏の甲子園で優勝投手に輝き、3年時は内星龍(楽天)、田上奏大(ソフトバンク)らを抑えてエースを張ったエリート右腕だ。大学では最速153キロとスピードアップし、スライダー、カットボールなどの変化球も精度が高い。プロ入りしても、戦力として計算が立ちやすいタイプだろう。
そんな岩崎に対して、山下は1打席目から牙をむく。1打席目は一、二塁間をゴロで抜き、2打席目はレフト前に弾き返して立て続けに2安打を放った。変化球に対して前寄りのポイントで巧みにヒットゾーンへ運ぶ、山下らしい打撃だった。
進化を見せつけたのは3打席目だった。岩崎のカットボールに対して、ステイバックのフルスイングで応戦。打球は高々とライト方向に舞い上がるも、ポール手前で切れる大ファウルになった。アベレージヒッタータイプの山下が見せた、「パワー」という新しい一面。山下は「冬の課題にしていたんです」と明かす。
「ヒットだけでなく、長打も打てるように取り組んできました。トレーニングを重点的にして、技術的にも打球に角度がつきやすいスイングを意識して練習してきました。その冬の取り組みが、いま身になっているのかなと感じます」
結果的にファウルを放ったあとはセカンドゴロに打ち取られている。4打席目は岩崎のインコースのストレートを強振し、ファースト左へ強烈な打球を放ったものの、東洋大の高中一樹(1年)の好捕に阻まれた。
試合は国士舘大の守備の乱れもあり、東洋大が4対0で勝利。それでも、東都2部を代表するドラフト候補から、全4打席で快打を放った山下のインパクトは大きかった。
【大淀ボーイズの先輩・後輩】試合後、会見場で山下と1対1で話していると、意外なことが起きた。囲み取材を終えたばかりの岩崎が通りかかり、フランクに話しかけてきたのだ。
「こいつ(山下)ナメてるっすよ。記事に書いておいてください」
すると山下は満面の笑みで、岩崎にツッコミを入れた。
「(岩崎が)めちゃくちゃ逃げるっすもん。真っすぐ勝負って前から約束してたのに、変化球で逃げるから」
ここからは漫才のような軽妙なやりとりが展開された。
岩崎 おまえ、最後(4打席目のファーストゴロ)は"インズバ"で勝負しやたん。
山下 あんなんヒットでしょ。ファーストに感謝っすよ。
岩崎 どこがやねん!(笑)
山下 甘かったぁ〜、あの球。全然ボールきてないし。
すると、岩崎はニヒルな笑顔を浮かべながら、「おまえがすごいだけや」と吐き捨てるように言った。
まるで同期生のような親しげなやりとりに、思わず「年齢は1歳違いですよね?」と確認を入れた。すると、山下は「中学で同じチームだったんですよ」と教えてくれた。岩崎も山下も大阪の大淀ボーイズ出身だったのだ。山下の言葉を受けて、岩崎は「そうっす。だからナメてるんっすよ」と続けた。お互いに自宅が近所のため、自転車で一緒にグラウンドに通うこともあったという。
大淀ボーイズ出身のふたりの「コンビプレー」は、その後も続いた。
── ということは、幼なじみのようなものですね。
山下 岩崎さんを見て育ったんで......。
岩崎 いや、「岩崎さん」なんて呼んでないっすよ。
── 大淀ボーイズは、山下選手の代で全国優勝していますよね?
山下 そうですね。(岩崎を見て)弱かったんで......。
岩崎 おい!
山下 自分たちが「先輩の分まで......」と取り返した代です。
そして、山下はしみじみと「今日は楽しかったっすね。楽しかったなぁ〜」とつぶやいた。
せっかくの機会なので、岩崎にも「山下選手の成長をどう感じていますか?」と聞いてみた。すると、岩崎は真剣なトーンでこう答えた。
「こいつ、マジでいいっすよ。打球が違うっすもん。天才っすね」
最後に山下に「来年はプロを目指しますか?」と聞くと、「もう、行きます!」と即答された。そして山下は隣の岩崎に目をやり、「先に行って、待っといてね」と笑った。
岩崎が「行けるよ、おまえは〜」と励ますと、山下は「一緒のところに行こうね」と返す。大淀ボーイズ出身の名コンビは、最後までにこやかだった。
山下来球と岩崎峻典の熱い幼なじみ対決は、今秋のリーグ戦でも繰り広げられるのか。それとも、2部優勝の可能性を残す東洋大が1部に昇格して幻に終わるのか。いずれにしても、山下はその頃には今よりもレベルアップした姿を見せてくれるはずだ。