【パリ五輪出場を決めている日本男子の戦い方】

 バレーボールの国際大会「FIVBネーションズリーグ2024」の男子大会が、現地時間5月21日にブラジルのリオデジャネイロで幕を開ける。4カ国を転戦しながら約1カ月にわたって行なわれるこの大会は、パリ五輪を前にした最後の真剣勝負の舞台。パリでの栄光を目指す男子日本代表にとっては絶好の強化の場であり、同時にメンバー選考をかけたラストサバイバルとなる。


昨年のパリ五輪予選で出場権を獲得した(左から)西田有志、郄橋藍、石川祐希 photo by Sakamoto Kiyoshi

 男子の日本代表は昨年のパリ五輪予選で、2008年の北京五輪以来となる自力での出場権を獲得。今年の代表活動はスタートから「五輪でのパフォーマンスにすべてを捧げられる」(フィリップ・ブラン監督)ことになった。予選で出場権を逃したチームは、このネーションズリーグが"ラストチャンス"。大会の予選ラウンド終了時点でFIVB(国際バレーボール連盟)が定める世界ランキング上位の国に出場権が付与されるからだ。

 その点、日本は勝敗や結果に関わらずネーションズリーグを戦える、という見方もできる。世界を転々とし、予選ラウンドとファイナルラウンドまで含めると戦いは4週間に及ぶため、疲労もかなり蓄積される。五輪までのスケジュールを考えると、ブラン監督が大会の目標を上位成績に設定しなかったのもうなずけよう。

 とはいえ、世界ランキングは五輪本番のプール分けに影響するし、何より選手たちの口からは「当然、昨年以上の成績を目指す」という野心的な言葉が聞かれる。昨年のネーションズリーグで日本史上初めての銅メダルを獲得したことは、その後のアジア選手権制覇、パリ五輪予選突破につながった。

 だからこそ今年、いや、現体制が始まってから目標に掲げてきた「パリ五輪でのメダル獲得」へ、このネーションズリーグの位置づけも大きな意味がある。「各試合の質にこだわることが重要。そのパフォーマンスが素晴らしければ、自ずと目標は達成できる」とは、ブラン監督の言葉だ。

【世界ランク上位の日本は他国の"標的"に?】

 一方で、パリ五輪の出場権を獲得できていない国にとって、世界ランキング4位(大会前時点。以下同)と上位国である日本との対戦は、世界ランキングに関わるポイントを大きく獲得するチャンスでもある。下位のチームが上位のチームに勝利すると大きなポイントが加算され、逆に上位のチームが下位のチームに敗れると大きくポイントを失うシステムになっているからだ。

 ブラジルで行なわれる予選ラウンド第1週で日本が対峙する4カ国、アルゼンチン(現地時間5月21日/世界ランキング6位)、セルビア(同23日/同9位)、キューバ(同24日/同11位)、イタリア(同25日/同3位)はいずれも切符を手にしておらず、目の色を変えて向かってくるだろう。特に、前回の東京五輪で銅メダルを獲得したアルゼンチンや、2022年の世界選手権王者であるイタリアは国の威信を賭けて"花の都"に辿り着けなければならない。

 続く予選ラウンド第2週は福岡で開催され、日本にとってはパリ五輪を前にその雄姿を自国で披露する機会になる。クラブでのシーズンを終えたばかりとあって第1週は帯同していない石川祐希や郄橋藍も合流すると見られ、本番仕様により近づくだろう。ここで対戦するドイツ(6月5日/世界ランキング10位)やポーランド(同7日/同1位)などは、パリ五輪本番でメダルを争う可能性もありえるため、"五輪前哨戦"とも言える。

 フィリピンのマニラで開催される第3週も同じように、対戦する4チームのうちカナダ(現地時間18日/世界ランキング12位)、五輪開催国のフランス(同22日/同8位)、アメリカ(同23日/同2位)と出場権をすでに獲得している国が並ぶ。カナダは、イタリア・セリエAの2023−24シーズン準優勝に輝いたモンツァで郄橋藍とチームメートだった選手たちがレギュラーを務めており、ネットを挟んでの再会は白熱必至だ。

 東京五輪金メダリストのフランスは、日本が2022年世界選手権の決勝トーナメント(ベスト16)進出をかけた激闘が記憶に新しい。その際は2−3のフルゲームで惜敗しているだけに、今回は勝利をつかみたいところだ。アメリカとは昨年のパリ五輪予選最終日に対峙したものの、ともに予選突破を果たしていたこともあって消化試合の色合いが濃かった。パリ五輪直前となるここでは、お互いの力量を最大限に見計らう場になりそう。

【パリ五輪に向けたチーム内のサバイバルも】

 パリ五輪に向けた最後の強化、調整の機会である今年のネーションズリーグだが、チーム内においてはメンバー選考の場でもある。5月7日の会見でブラン監督は「(パリ五輪の)12名とバックアップメンバー1名の選考はネーションズリーグ後に行ないます。基準はネーションズリーグでのパフォーマンスと影響力、チーム内の戦術やメンタル面における補完性です」と語っており、五輪のコートに立つためのサバイバルが繰り広げられる。

 もっとも、7日の会見に出席した16名が現時点における選考対象と言えるだろう。

 登壇した面々のポジションの内訳は【アウトサイドヒッター6名/ミドルブロッカー4名/オポジット2名/セッター2名/リベロ2名】。前回の東京五輪が【アウトサイドヒッター4名/ミドルブロッカー3名/オポジット2名/セッター2名/リベロ1名】だったことを踏まえると、オポジットとセッター以外で当落選が生じることは濃厚だ。

 中でも、ミドルブロッカーは小野寺太志、山内晶大、郄橋健太郎が、リベロは山本智大が、ここ数年は日本代表において「盤石の存在」といえるが、そこに対して引き下がるような選手はこのステージにいない。ミドルブロッカーのエバデダン ラリーは「自分の強みであるスピードと高さで勝負したい」、リベロの小川智大は「自信はある。あとは試合に"出れば"、それだけ」と言葉に力を込める。

 五輪という最高の舞台に立ち、そこで結果を残すために。コート上では列強諸国と真っ向勝負し、チーム内では力ある仲間たちと切磋琢磨する。栄光への軌跡は、このネーションズリーグからつづられる。