好投手揃う青森からまた逸材出現 八戸工大一の大型左腕・金渕光希は全国でもトップクラスのポテンシャル
長身をすくめるようにたたずむ金渕光希(かなぶち・こうき/八戸工大一)に声をかけると、気まずそうに苦笑しながら取材に応じてくれた。
「調子は悪くはなかったんですけど、気持ち的に弱気になったところがピッチングに出て、失点につながったのかなと思います」
4月5日、金渕は侍ジャパンU−18代表候補強化合宿での紅白戦に登板し、2回4失点に終わっていた。
今回39名が選出された代表候補のなかで、金渕は注目の左投手だった。身長183センチ、体重83キロと投手らしい均整のとれた体格。バランスよく、しなやかな投球フォーム。遠投をすればシュート回転が強くなる投手がほとんどのなか、金渕のボールは真っすぐの軌道で伸びていく。その将来性の高さは疑いようもない。
八戸工大一の大型左腕・金渕光希 photo by Kikuchi Takahiro
金渕は昨夏の青森大会決勝で強打を武器にする八戸学院光星を延長10回まで3失点(自責点2)と好投した実績はあるものの、甲子園出場経験はない。それだけに有望選手が集結する今回の合宿は、金渕の実力を測るにはうってつけの舞台だった。
代表候補同士の紅白戦は合宿2日目(4月5日)に組まれ、午前中は7名の右投手が2イニングずつ、午後は7名の左投手が2イニングずつ登板する形式だった。金渕は午後の紅白戦の2番手で登板することになっていた。
だが、直前に登板した高橋幸佑(北照)が強烈なインパクトを残した。高橋は金渕以上に無名の左腕だったが、紅白戦では2イニングを投げ、うなるような剛速球を武器に無失点に抑えている。試合後にはU−18代表監督の小倉全由(まさよし)監督が「ボールが力強くて、右バッターへのインコースに投げられていた。いいピッチャーだなと感じた」と絶賛したほどだった。
金渕は遠方からの参加ということもあり、合宿前日に合宿地である近畿圏に前乗りしていた。そこで同じく前乗り組である高橋と親しくなり、合宿では行動をともにすることが多くなっていた。
そんな高橋の快投を目の当たりにして、金渕の内面に「失点したらどうしよう......」という不安が広がっていた。
「合宿の雰囲気には慣れてきたんですけど、試合形式になると周りと自分を比べてしまって、消極的になっていました」
立ち上がりの1イニングでは、颯佐心汰(中央学院)から高めのストレートで空振り三振を奪うなど打者3人で退けた。
だが、2イニング目に入ると4安打を浴び、守備の乱れも絡んで4失点と崩れた。指にかかったストレートは惚れ惚れする球筋で捕手のミットに収まる反面、この日は指にうまくかからない球も目についた。
その点に触れると、金渕は「最近、指にかかる球がいってなかったんです」と明かした。今年の八戸は降雪量こそ多くなかったものの、まだ春先の調整段階だったという事情もある。この合宿にピークを持っていくのは、至難の業だった。
自分自身に言い聞かせるように、金渕は最後にこんな言葉を口にした。
「今はちょっと落ち込んでいるんですけど、引きずっていたら次につながらないので。切り替えて、次につなげていきたいです」
【春季大会で八戸学院光星を完封】結果だけを見れば、大きなアピールはできなかった。それでも、金渕の素材としてのよさはバックネット裏で見守ったスカウト陣にも十分に伝わったはずだ。
そして、合宿での結果がすべてではない。U−18代表監督の小倉監督は、紅白戦の試合後にこう語っている。
「今回の合宿に参加したメンバーで決まるわけじゃないですから、心配しなくてもいいんです。言い方が難しいですが、今回打たれたからといって、シュンとしなくていいよ。バッターと相対してくれたらそれでいいよと言ってやりたいですね」
今年の青森県は近年稀に見る群雄割拠が予想される。センバツに出場した青森山田、八戸学院光星の2校だけでなく、金渕を擁する八戸工大一、さらに弘前学院聖愛にも力がある。4校とも好投手がいる点でも共通している。そして今春の青森大会準々決勝では、金渕は八戸学院光星を完封して3対0で撃破。つばぜり合いは夏の大会まで続いていく。
金渕のポテンシャルが青森のみならず、全国でもトップクラスなのは間違いない。これからも自身が納得のいくボールをコンスタントに投げられれば、金渕光希の名前は自然と全国にとどろくはずだ。