スタッド・ランスがマルセイユを1-0で下して、3月17日以来およそ2カ月、7試合ぶりの勝利を手にした。

 スタッド・ランスは2018-19シーズンにリーグ・アン昇格後、マルセイユ戦とこれまで11回対戦して、今回の勝利で3勝3分5敗。2022年4月以降は4連敗してきただけに、重要な白星となった。

 試合終了のホイッスルがなった瞬間、相手ゴール前に詰めていた伊東純也はその場で脱力したかのように、そのままピッチに座り込んだ。75分に退いていた中村敬斗はダッシュで伊東に駆け寄り、喜びを分かち合う。


伊東純也はスタッド・ランスに欠かせない存在 photo by Watanabe Koji

 ふたりはピッチ中央に移動して味方と合流するが、90分間走りきったからだろうか、伊東はしばらくの間、嘔吐が止まらないようだった。小雨の降るなか、場内を一周する際には中村が着ていたベンチコートを借り、それを羽織って雨をしのいだ。

 試合後、中村敬斗が取材に応じる後ろを、伊東は笑顔で通りすぎていく。報道陣の呼びかけに「あ、俺、なんか(話さなくて)いいって」と返答した様子が、フランスメディアの記者によって発信されてSNSで拡散されていた。

 この日の伊東には、アシストの記録が一瞬つきかけ、すぐに消えた。33分に右SBアブドゥル・コネの縦パスを、FWウマル・ディアキテが右サイドを走る伊東の前方スペースへ展開。スピードに乗った伊東は、ペナルティエリアの外から右足のダイレクトでクロスを入れる。

 ゴール前に走り込んだのはMFマーシャル・ムネツィ。それに張りつくように背後から相手DFシャンセル・ムベンバと、左から中村が猛スピードで駆け込んだ。最初に喜んだのはムネツィだったが、結局ムベンバによるオウンゴールと確認され、伊東にアシストが記録されることはなかった。

 伊東は今シーズン、ここまで7アシストを記録。リーグ・アンのアシストランキングで2番手につけている。現在のランキング1位は8アシストなので、この日にアシストがついていればトップタイに躍り出たのだが、それは叶わなかった。

【伊東・中村のホットラインからチャンス】

 一方、大外からゴール前に走り込んだ中村も、悔しがっていた。

「手前で(ムベンバにボールを)触られてなかったら、俺、決めてました。俺も滑っていたので!」

 中村は今シーズン、ここまで4得点。残りシーズンであと1点はほしいところだ。ふたりの記録はつかなかったが、スタッド・ランスはこの1点を守りきり、勝利を掴み取った。


中村敬斗も移籍1年目ながら左サイドで存在感 photo by Watanabe Koji

 フル出場した伊東は、得点シーン以外にも多くのチャンスを作った。定位置である4-2-3-1の右MFでプレーし、前半は大外でゆったりと待ち、チャンスと見るや動き出す。16分、ペナルティエリア近くでパスを受けると、ひとり目のディフェンスをかわし、3人に囲まれながら右足シュートを放つもキーパーに阻まれる。

 37分には中央に切り込むと、テディ・テウマを経由してボールは左サイドの中村へ。伊東のサポートを受けた中村は自ら仕掛けて右足シュートも打つも、ポストの右角に弾かれた。惜しいシーンに中村は「得意の位置からだったので決めたかったですけどね」と、また悔しがった。

 多くの場面で中村は、左サイドでボールを持つと、右サイドの伊東の位置を確認する。左サイドを縦に突破するのではなく、中央もしくは右に展開した。

「純也君からチャンスになることが多いので、けっこう(伊東の)位置を見ています。僕には突破できるような絶対的なスピードがあるわけじゃないので、サイドを変えるなど展開したほうがいいと思うことが多くて」

 中村は伊東にボールを送る意図を、こう説明する。実際、伊東・中村の横のホットラインからチャンスは¬何度も生まれていた。

 中村にとってはフランスに来て最初のシーズン。現在4得点と悪くはないが、突出した成績とも言えない。中村は言う。

「アジアカップが終わったあと、苦しい時期があって......。それでちょっともがいて、ストラスブール戦(4月13日)で点を取ったあたりから、やっとひと皮むけた気がしている。リーグ・アンがどういうリーグなのか、ようやく掴めてきた。あと、チームメイトに純也君がいるのも、すごくやりやすい」

【フランス1年目の課題は「もっと数字を」】

 中村が調子を取り戻し始めた頃、チームは4月に3連敗を喫し、中村を高く評価していたウィリアム・スティル監督はリーグ戦3試合を残して電撃退団した。

「みんな衝撃だったんじゃないですかね。えーって感じ。でも、サッカーの世界ではよくあること」(中村)

 サッカーにおいて、結果を出すことの必要性、現実の厳しさを感じた。それは、自身に対しても感じたようだ。

「やっぱり、もっと数字を。ゴールとアシストですね」

 フランスリーグ1年目に感じた課題を問われ、そう答えた。伊東のような絶対的な存在になるために──。

 シーズンを通して多少の波はあったにせよ、日本人のふたりが中盤の両サイドでコンスタントに活躍したことは、スタッド・ランスの大きな力になった。来シーズンもまた、彼らの躍動する姿を目にしたい。