欧州のサッカーデータサイト「トランスファーマルクト」のスタッフが注目する次に来る日本人選手は?
サッカー選手の市場価値を掲載するデータサイト『トランスファーマルクト』のスタッフインタビュー後編。日本を担当し、驚くほど精通している3人に、Jリーガーの評価額が低い事情や、現在注目している日本人選手を聞いた。
前編「トランスファーマルクトの市場価値はどのように決めているのか」>>
『トランスファーマルクト』が発表している市場価値で、日本人選手で一番高いのは久保建英 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
――アメリカのMLSと比べても、J1の選手評価額は低いですよね。
トビアス 現在、トランスファーマルクトにおけるJ1の全選手の市場価値の総額は、2億8803万ユーロで、MLSのそれは12億4000万ユーロ。今のMLSには、リオネル・メッシを筆頭に欧州で活躍したスター選手が多いうえ、アメリカのスポーツマーケットの規模がすごく大きいことがその理由と言える。
そこでは大金が動いているし、各クラブには潤沢な資金がある。だから彼らは自らの選手たちを無理に売る必要がない。そのため、買い叩かれるようなことが少ないから、市場価値も高く設定するほかない。
――先ほどあなたが言ったように、日本人選手が欧州のクラブに移籍する際、たとえば南米出身の選手と比べると、概して移籍金はものすごく安いです。そうした背景も考慮に入れているということですね。
トビアス その通り。一例を挙げると、2020年夏に室屋成がFC東京からハノーファー96へ移った際の推定移籍金は5万ユーロ。これは元々うちが彼に付けていた評価額で、移籍した際には100万ユーロと評価を変えていたのだが、実際には元の値で取引された。当時、日本代表にも名を連ねていた優秀なサイドバックの値札としては、うちの評価額でさえ低いと思うけど、現実的な額はそれの20分の1だったということだね。
久保建英の評価にも、当初はかなり悩んだよ。彼は日本では少年時代からものすごく期待され、スペインでもそれなりに知られていたと思うが、欧州全体ではほぼ無名だった。FC東京でプロデビューし、J3の最年少得点記録を塗り替え、メディアの注目は増すばかりだったけど、だからといってJ1で結果を出している選手より高い評価は、さすがにつけられなかった。
だから彼の場合は、レアル・マドリードに移籍して、欧州のクラブでプレーするようになってから、評価額を高めていった。なぜなら、欧州には基準となる選手がほかにいて、そうした選手よりもコンスタントに活躍していたら、必然的に高めていくほかないからだ。
【欧州でプレーしないと評価額が上がらない】――久保は現在、6000万ユーロと日本人最高の評価額になっています。実はこれに関連することで、個人的に訊きたいことがありまして。今年のアジアカップのグループステージで、日本はイラクに1−2で敗れました。この時、私は初めてイラクのFWアイメン・フセイン――2得点を決めたストライカー――を観たのですが、いつもの習性ですぐにトランスファーマルクトを開いて彼のプロフィールを見たら、評価額はたったの45万ユーロでした(現在は60万ユーロ)。つまり久保の評価額の100分の1以下だったわけですが、少なくともあの試合では同じピッチに立っていた久保よりも、はるかにフセインのほうが優れていました。やはり、イラクの選手は評価が難しいのでしょうか。
ティベリウス アイメン・フセインは私も大好きな選手です。アジアカップの活躍は鮮烈でしたね。ただおっしゃる通り、彼は評価するのが非常に難しい選手です。なぜなら、彼はイラクの国内リーグでプレーしている。それは情報が得にくいリーグで、トランスファーマルクトもまだカバーできていない。だから基準がほとんどない。
彼はこれまでにチュニジアやカタール、UAE、モロッコでもプレーしていますが、直近となる昨夏のラジャ・カサブランカへの移籍はうまくいかず、2カ月と経たないうちに母国の古巣アル・クワ・アル・ジャウィヤに戻ってきている。もしかしたら、ちょっと内弁慶なところがあるのかもしれませんが、帰国してからはゴールを量産しています。
そしてイラク代表は、2022年11月にヘスス・カサス監督が率いるようになってから、格段にいいチームになっています。2023年には、サウジアラビアやカタールなどを破ってガルフカップで優勝。それでも、アジアカップでのフセインの大活躍――4試合で6得点――は、予想以上でした。私たちの評価額の低さを弁明するわけではありませんが。
――欧州でプレーするか、欧州人選手がいるリーグでプレーしていないと、基準の設定が難しく、なかなか評価額が上がらないということなのですね。
トビアス 今のところ、それは否めない。ただ一方で、こんなケースもある。昨シーズンの日本の東北2部リーグ南(6部リーグに相当)の得点王になったガーナ人FWマクスウェル・アンサ(みちのく仙台FC)という選手が、私たちのX(旧Twitter)に直接連絡してきて、自身の評価額を修正してほしいと言ってきたんだ。残念ながら、我々は基本的に3部リーグ以上の選手にしか市場価値をつけないんだけど、そうした選手にとっても、うちの評価が重要視されていることがわかった。
【日本通の3人の推し選手は?】――そうだと思います。では、最後にみなさんが注目している日本人選手を挙げていただけますか。
シュテファン リトアニアのトップクラブ、ジャルギリス・ヴィルニュスの辛島侑烈。最初は苦労しながらも、今ではアンカーの主力となり、引き続きFCへゲルマン時代のようなパフォーマンスができている。本当はAリーガよりもレベルの高いリーグでもやっていけるはず。セルティックの前田大然にも注目している。サイドであれほどエネルギッシュに動き回れるのはいい選手だね。
日本国内の選手だと、柏レイソルの細谷真大。これからいかに成熟していくのか、楽しみです。数年前に同じ質問をされていたら、本間至恩(クラブ・ブルッヘ)と三戸舜介(スパルタ・ロッテルダム)と答えていたと思う。
トビアス 僕が面白いと思うのは、欧州5大リーグ以外でプレーする選手たち。特にベルギー、オランダ、ポルトガルは、日本人選手のアピールの場になることが多い。ポルトガルのジル・ヴィセンテで4シーズン目を迎えている藤本寛也は、リーガで3得点7アシストと過去最高の記録を残している。
オランダのAZで5シーズン目の菅原由勢も、若い(23歳)のに、欧州での経歴が長い。現行の契約は2025年に満了するので、そろそろステップアップの時期かもしれない。
それから、我が広島の満田誠が欧州に来るのを待っている。攻撃に特長のある選手だと思っているが、現在は守備的MFを任されている。少し驚きだけど、ミヒャエル・スキッベ監督には何か考えがあるのだろう。広島はFCケルンと育成業務提携をしているから、ドイツに来てくれたらいいのだが。
ティベリウス 浅野拓磨。ブンデスリーガの中位以下のチームには、もったいないと感じる選手だ。もっと早く、ずっと上の順位にいるクラブで見てみたかった。残念ながらすでに29歳。今季でボーフムとの契約が切れるので、どうなるのか注目している。
それから、U−23日本代表のFW内野航太郎は、U−23アジアカップで好印象を残した。いつプロになるのか。その日が待ち遠しいよ。