サッカー選手を値付けする「トランスファーマルクト」の中の人に聞く どのように価値を決めるのか
今からちょうど24年前にドイツで始まったフットボールのデータサイト、
『トランスファーマルクト』
(ドイツ語版https://www.transfermarkt.de/)
(日本語版https://www.transfermarkt.jp/)
※ドイツ、日本含め、世界25カ国のバージョンがある。
は、日本のサッカーファンにもお馴染みだろう。そこには市場価値の付いた100万人以上の選手のプロフィールや、2000以上の大会、約200万に及ぶマッチレポートなどが掲載され、月間のユーザー数は6000万人を超える。このスポーツのデータサイトとして、世界最大だ。
およそ四半世紀の間に評判が高まり、今ではファンだけでなく、クラブやエージェント、スカウト、メディア、ジャーナリストといったプロフェッショナルにも信頼される情報源となっている。筆者もほぼ毎日、少なくとも一度は訪れている。
世界最大のサッカーデータサイト『トランスファーマルクト』は、現在日本でプレーする選手たちの情報もカバーしている photo by Getty Images
サッカー好きや関係者の"バイブル"とも言えるトランスファーマルクトは、実際にどのように運営されているのか。特に選手の評価額の算定方法は気になるところだ。折に触れてそんなことを思っていたところ、先方から連絡があり、"中の人"にインタビューする機会を得た。
今回は日本のデータスカウトのトビアスさんとシュテファンさん、そしてアジア地域のチーフを務めるティベリウスさんに話を聞いた。3人とも、日本とアジアに驚くほど精通している人たちだ。
【日本とアジアに驚くほど精通】――まずはそれぞれに、現在の担当を始めた経緯を教えてください。
トビアス 以前から日本に興味があり、旅行に行った時はJリーグの試合も現地で観戦した。その後、2010年に香川真司がボルシア・ドルトムントにやってきて、ユルゲン・クロップ監督のもとで大活躍した彼の経歴や過去の記録などを調べ始めたんだ。そしてトランスファーマルクトのフォーラムを見つけて、そこに日本サッカーがテーマのものを立ち上げ、関わっていくようになり、2014年にJ3ができた時にデータスカウトとしてボランティアを始めた。
シュテファン 子どもの頃からフットボールが好きで、今年でレフェリーを始めて24年になる。同時に漫画など、日本のカルチャーもずっと好きで、見てもらえるとわかるように、アルビレックス新潟のファンだよ(この日はオレンジ色のホームシャツを着用)。データや文献にも興味があって、『Wikipedia』のボランティアもしていて、2016年の夏にここにも同じ形で参加するようになったんだ。
ティベリウス 私はノルウェーにルーツを持つドイツ人で、元から外国に興味があり、特にアジアが好きなんだ。地理や異文化、そしてフットボールとそのデータが、子どもの頃から大好きだった。私も最初はデータスカウトとしてボランティアで参加し、その後にスタッフとして今のポジションに迎えてもらいました。
――ドイツにはブンデスリーガやチャンピオンズリーグといったトップレベルのフットボールがありますが、日本やアジアにより高い興味を持ったのはなぜですか?
トビアス 自分はサンフレッチェ広島のファンで、日本のフットボールをもっと知りたいと思い、歴史や文化なども調べるようになり、知れば知るほど、欧州のフットボールがつまらなくなってきたんだ。特に今の欧州フットボールは商業的にすぎるし、色々と飽和状態にあり、大会も試合数も多すぎる。そんななか、Jリーグを見ると、新鮮な気持ちになるんだ。
シュテファン 同様です。
ティベリウス 私はウィンタースポーツも好きで、2018年の平昌オリンピックを見て、アジアに惹かれた。ただそれ以上の動機は、説明するのは難しい。おそらくただただ、アジアとそのフットボールにのめり込んでいったということだと思います。
【日本は6部リーグまでカバー】――現在、トランスファーマルクトで日本とアジアはどれほどカバーされているのでしょうか。
トビアス 日本はJ1、J2、J3、JFL、地域リーグの1部と2部まで掲載している。つまり6部リーグまでカバーしていることになるね。トランスファーマルクトにおけるアジア最大の国だよ。
シュテファン 加えて、天皇杯とリーグカップ、それから高円宮杯U−18プレミアリーグも。
ティベリウス AFCに加盟している国と地域は47。そのすべてのリーグを掲載したいと思っていますが、なかには北朝鮮やトルクメニスタンのように、手がかりさえ掴みづらいところもあります。それでも開拓を続けていて、最近ではラオスやオマーンのリーグを公開できるようになりました。
――先ほどトビアスさんが言ったように、「Jリーグには欧州のトップリーグにないよさがある」と言う外国人の方は少なくありません。特に、「欧州の主要リーグと異なり、予想が困難なところが面白い」と言う人は多い。今シーズンも、J1に初昇格したばかりのFC町田ゼルビアが首位に立っているように。
トビアス その通り。ただトランスファーマルクト的には、FC町田ゼルビアの躍進は、それほど大きな驚きではないんだ。なぜなら、私たちが付けている選手の評価額において、町田の総額は1720万ユーロで、浦和レッズ(2435万ユーロ)とヴィッセル神戸(1723万ユーロ)に次ぐ3位。昇格してきたばかりのチームとはいえ、クラブの規模は日本屈指だよね。逆に、少し前の神戸やサガン鳥栖のように、欧州で名を成したスター選手を擁しても――そうなると選手の総評価額は上がる――、リーグ優勝できなかったりする。あなたが言うように、Jリーグは本当に予想の難しいリーグだ。
【市場価値の最終決定には数週間を要している】――その選手の市場価値は、どのように算出されているのでしょうか。
ティベリウス それを決める要素は、実に多岐にわたります。年齢やポジション、パフォーマンス、成績、ポテンシャル、契約年数、過去のケガ、リーグのレベル、全体の移籍金の推移といった主要なものから、たとえばコロナのパンデミックのような外的なものもある。内部スタッフで議論し、最終的に決定するまでには数週間を要している。基本的に半年ごとにアップデートしています。
――日本のリーグに所属する選手は、欧州の選手と比べると市場価値が低いという意見もあります。それはやはり、フットボールがユーロセントリック(西洋中心主義)なものだからでしょうか。
トビアス それは、私たちも正直に認めなければいけないと思う。確かにユーロセントリックな観点で、市場価値を定めているところは否めない。その一方で、これまでにJリーグから欧州のリーグに移籍した選手の移籍金が安いため、現実に即したものにしようとすると、どうしても低くなってしまうんだ。
ティベリウス 残念ながら、そうした状況にありますが、少しずつ変わってきているとも思います。たとえば、近年では中東やアメリカなど、欧州以外の国がフットボールに巨額の投資をしている。また、日本や韓国のリーグが成熟してきている印象も受けます。