今季J1は第13節が終了。シーズンのおよそ3分の1を消化した時点で、今季J2から昇格したばかりのFC町田ゼルビアが、首位ヴィッセル神戸と同じ勝ち点26で並んで2位につけている。

 昨季J2では独走優勝を飾った町田。堅実さとハードワークを主体としたサッカーで、J1のクラブ相手にどこまでできるのか、未知数な部分があった。だが、ふたを開けてみれば、前評判を覆して開幕直後から躍動。今なおその勢いは衰えず、このまま最後まで優勝争いを演じていきそうだ。

 J2からJ1に昇格したシーズンに優勝した例は、2011年の柏レイソルと2014年のガンバ大阪と2度あるが、町田もそれに続く快挙を果たしても不思議ではない。それほど、町田の戦いは安定している。

 その根本にあるのは、チームを率いて2年目の黒田剛監督が培ってきた"町田サッカー"だ。

 主な攻撃のスタイルは、前線のオ・セフンを起点にロングボールやクロスなどを多用した展開。2列目の選手がセカンドボールの回収に尽力し、そこからドリブルやパスを駆使した素早い仕掛けでゴールに迫っていく。

 守備でも、セカンドボールへの意識が高く、球際で激しく、バイタルエリアを締めてシュートを打たせない。そのうえで、町田の強さは「徹底力にある」と、キャプテンの昌子源は言う。

「(チームとして)『これを徹底しよう』と言われても、なかなかできるもんじゃない。その徹底することのベースになっているのが、監督、コーチの厳しさです。監督やコーチが甘かったら、彼らが見ていないところでサボろうとする選手も出てくると思うんですよ。

 でも町田は、監督、コーチがふだんから厳しく、いろいろなことを要求してくるので、サボれないんです。まあ、そもそもサボったら、試合には出られないですから。

 だから、言われたことを徹底してやる。しかも、『これをやれば勝てる』『これをやればやられない』ということが、勝つことで成功体験として積み重なっている。

 逆に『これを徹底しよう』ということをやらずにサボったときは、(相手に)やられてしまうし、失点してしまう。そういう経験が蓄積されているから、みんなやるべきことを徹底してやっているんです」


新加入ながらキャプテンを任された昌子源 photo by Yamazoe Toshio

 昌子は今季加入したばかりだが、鹿島アントラーズやガンバ大阪など歴史あるクラブでプレーし、日本代表でも2018年ロシアW杯に出場。そうした経験が評価されて、キャプテンに指名された。黒田監督には、キャンプ中からキャプテンとしての振る舞いやプレーについて厳しく求められたという。

「監督からはキャンプのときに、『よくも悪くも、全員がおまえを見ている。特に若くて、おまえと同じポジションの選手は、意識して見ている。おまえや経験のある選手は、相手のボールの持ち方や顔の上げ方を見て、(ボールが)"ここにくる""ここにはこない"というのがわかると思うけど、そこでフッと息をつかず、サボらずに厳しくプレーしてほしい』と言われました。

 シーズンが始まっても、同じことを言われましたね。言われたからじゃないですけど、僕は常日頃から、監督に言われたことを意識して、やるようにしています」

 町田は、代表歴がない若い選手が多い。昌子はその手本となることが求められているというが、一方で昌子は、町田の若手についてどう見ているのだろうか。

「みんな、よく意見を言うし、(監督や先輩から言われたことに対しては)素直に聞きますね。僕に対しても、『源さん、こうしてほしいです』と要求してきます。

 代表歴のない選手がほとんどですが、僕や(谷)晃生に対して、何も言えないようではダメだと思うんです。代表選手とかに遠慮してしまうようなチームには未来はないです。でも、ウチのチームに限っては、それはない。

 もちろん、オフになればリスペクトしてくれて、W杯やアジアカップに行ったときの話を聞いてくる選手もいる。鹿島ほど個性派ぞろいではないですし、ふだんはおとなしいチームです。でも、試合になれば別。みんな、堂々とプレーしています」

 実際、町田には有望な若手がズラリ。先のU23アジアカップの優勝メンバーであるMF平河悠、FW藤尾翔太をはじめ、最近売り出し中のFW荒木駿太や、将来性あるDF望月ヘンリー海輝ら、近いうちに日本代表に名を連ねるかもしれない逸材がそろっている。そうしたこともあって、昌子は鹿島やガンバでプレーしていたときとはまた違う、やりがいも感じているという。

「町田はこれからのチーム。その一員として、鹿島やガンバに追いついていきたいので、すごくやりがいを感じています。

 鹿島は20冠もしているバケモノみたいなチームで、僕はそういうチームの空気感に触れさせてもらい、ミツさん(小笠原満男)やその年代の人たちとサッカーをやらせてもらって結果を出してきた。そうやって常に勝ってきたからこそ、負けに対するアレルギーがすごかった。

 町田も、監督やコーチが負けに対するアレルギーがすごく強いんですよ。負けることが嫌いですし、ひとつ勝っても満足しない。町田も強い時代の鹿島やガンバのように、基本的に勝てるチームになって、チームとして『勝つのが当たり前』と言えるところまでいくのが理想です」

 現状、その理想に着実に近づいているように見える。町田はリアルに"強いチーム""勝てるチーム"になりつつある。現に13節を終えて、一度も連敗はない。

 昨季、リーグ優勝を遂げた神戸の選手たちは「連敗しないのが、優勝の絶対条件」と口をそろえていたが、町田もこのまま連敗せずに勝ち点を稼いでいけば、さらなる高みが見えてくるはずだ。

「38節すべて終わった時点でどの順位にいるかわからないですし、今年優勝争いをして、来年もまた優勝争いができるほど甘いリーグではないと思うんですけど、僕は何年も続けて優勝争いができるようになりたい。

 そのためには、1試合1試合が勝負だと思うので、(これまでどおり)あまり先を見ずに目の前の試合に集中して戦っていきたい。そして、そういうチームにしたいと思っています」

「目の前の試合に集中する」とは、黒田監督もよく言っていることだ。指揮官とキャプテンの考え方、方向性にはズレがなく、ほかの選手も同じ方向を見ている。それに加えて、"常勝軍団"の魂を知る昌子が、そのスピリットを町田にも植えつけることができれば、Jリーグの歴史で3例目となる快挙達成の現実味も増すかもしれない。