ヤクルト丸山和郁がプロ3年目のレギュラー奪取 「どうすれば打てるのか...」を追い求めた試行錯誤の日々
ヤクルト・丸山和郁(かずや)が打撃好調で、外野のレギュラーをつかみつつある。
大松尚逸打撃コーチは「タイミングの取り方がシンプルになりましたよね」と語る。
「今はタイミングが合っているので、バットの軌道が安定しています。そして去年と一番違うのは、ピッチャーのボールを速く感じていないところじゃないでしょうか。余裕を持ってボールを見逃していますし、追い込まれてもしっかりカウントを整えて、逆方向へアプローチしたり、自分が狙っているポイントでスイングできています。ゲームのなかでそういうことを体現して、どんどん成長してくれています」
ここまで打撃好調のヤクルト・丸山和郁 photo by Koike Yoshihiro
丸山は明治大から2021年ドラフト2位で入団。1年目はリーグ優勝を決めるサヨナラ安打、日本シリーズでも全試合に出場し8打数4安打。昨年は飛躍が期待されたが、ケガもあり思うような成績は残せなかった。
「去年は速い球を空振りしたり、ファウルにしたりが目立ってしまいました。やっぱり速い球を打てないと変化球も打てません。打率もほぼ1割台だったので、そのことを痛感しました」
どうすれば打てるのか......丸山は10月のフェニックスリーグから自分のバッティングを追い求めて、バットを振り続け、考え続けた。
「フェニックスではスイングどうこうより、速い真っすぐをしっかり引っ張って打ってみよう」と、ある試合で5打数4安打。すべてがライト方向への打球だった。それでも丸山は納得していなかった。
「あの試合はたまたまヒットになった感が強かったので、あまり納得する打席ではなかったですね。フェニックスは結果を求める場所ではないですし、速い真っすぐを前に飛ばす感覚をつかみたかったので『これはちょっと違うな』と」
11月の松山での秋季キャンプでは「練習でしかつかめないこともかなりあったので......」と、反復練習の日々。一日1000スイングを超える日もあった。そのなかで試行錯誤を繰り返し、バットを肩に担ぐフォームにも取り組んだ。
「ロングティーをしているときに、力まないでボールをつかまえようと思ったら、ああいうスイングになっていったんです。ただ、自分の理想と現実とのギャップがありすぎて......。半信半疑だったのですが、大松コーチが『そこから何かが見つかるかもしれないからやってみなさい』と。実際に飛距離も出ていたので続けてみようと」
バットを肩に担ぎはじめてから数日後、丸山は「あれはやめました」と言った。
「やっぱりプロでバットを肩に担いでいる選手はあまりいないじゃないですか。ということは、何かデメリットがある。大松コーチともそういう話になって、じゃあバットを少しずつ立てていって、担いだときと同じ感覚でやってみようと。でも、いま考えれば、手を使わないで打っていたので、あの練習も必要なことだったんだと思っています」
松山では、自身のバッティング動画を見ながら「ようやくプロのバッターらしくなってきた」と頷いた日があった。
「キャンプの打ち上げ前日の練習だったですかね。上半身と下半身の連動がつかめた感じのスイングがあって、『これなのかな』と。ただ、その感覚は練習のときでしかなかったので、試合でそれを体現できるのかどうか。そんなことを考えてキャンプは終わったんです」
【転機となった一軍離脱】12月は母校の明治大で、1月は青木宣親、村上宗隆らと自主トレを行なった。2月の沖縄・浦添キャンプでは、体が沈み込むフォームにモデルチェンジしていた。自主トレでは、腕が伸びない、タイミングをしっかりとること、体が伸びきらないことを課題に練習に取り組んだ。
「青木さんやムネ(村上)に教わったことをミックスして、『これやればいいのかな』と。実際、キャンプでも飛距離は出るし、強いスイングもできていい感じでした。当時は手を胸元あたりに置いてタイミングを取っていたのですが、どうしても手に意識がいって力が入ってしまう。実際、オープン戦で結果は出なかったですし、去年とまったく同じような打ち取られ方だったので、『これも違うな』と。今は下半身でタイミングを取るようにして、上は動かさない意識でやっています」
丸山はオープン戦の途中で軽いコンディション不良もあり、一軍から離脱。結果的にこのことが、丸山に大きなプラスをもたらした。
「ファームに行ったことで、いろいろな気持ちが一新されました。この2年間『こういう打球が打ちたい』『ここはつなごう』『ランナーを還してやろう』と、どうしても打席で力が入ってしまいました。そのことで動きが鈍くなったりしたので、そういった自分の欲を消してやってみようと。自分のような打者は塁に出るのが仕事でホームランはいらないですし、まずはタイミングを合わせてバットに当てることを意識しました」
そうしたなかで手応えを感じたのが、3月22日のロッテ戦だった。丸山によれば、予兆は前々日(3月20日)の日本ハム戦からあったという。
「この時は打撃練習ではいいけど、試合では真っすぐをどのタイミングで合わせていいのかわからなかったんです。バットを折られたりもしたんですけど、山本拓実投手の低めの真っすぐをパチーンをレフト前に打って、『これでいいのかな』と。ちょっと手は動いちゃったんですけど、バットを上から出しても間に合った。で、そこから練習をやって、浦和(ロッテの二軍球場)に行きました。先発は中森俊介投手で、1打席目に真ん中やや内よりの真っすぐを右中間にヒットを打ちました。手を使わずにちゃんとタイミングが取れたので、『あぁ、こういう感じだ』と。よし、このままいこうとなったんです」
【すでにキャリアハイの安打数】オープン戦終盤に一軍に合流し、そのまま開幕を迎えると、3月30日の中日戦で代走出場からその後の打席でヒット。4月18日の中日戦では途中出場で2打数2安打。同21日のDeNA戦で代打ヒットを放つと、その時点で9打数6安打となり打率は.667に。そうして、23日の広島戦で「2番・ライト」でスタメン起用。この試合から16試合連続で先発出場となっている。
丸山は「今は開き直って打席に立てているのがよかったのかな」と話し、こう続ける。
「これまでやってきたことを、自分のなかで初めて信じられているというか......。一軍だからといって力む必要はないし、ファームでやってきたことをそのまま出せばいいんだと。それで打てなかったら、また考えようと思えたんです。もちろん、ヒットが出なくて『どうしよう、どうしよう』という日もありましたし、真っすぐに振り負けないと思ったときにまだ力が入る打席があるので、そのへんはまだまだですね」
この先の戦いで、大事にしていくことは何かと尋ねると、丸山は「まずはケガをしないこと」と言った。
「これだけ試合に出続けるのは3年目にして初めてのことなので、未知数のことが多く、自分のコンディションというところで、どこでブレーキをかけ、どこまで攻めるのかを考えながらやっていきたい。そして、凡打やエラーをしても、新しい瞬間はどんどんどんどんやってくるので、下を向かずに反省して、次に生かしていきたいと思っています」
バットを肩に担いだり、体を沈めたり、いろいろなフォームを模索した丸山だったが、いま打席に立つ姿には力みがなく、まさに"自然体"という言葉がぴったりはまる。そうしてヒットが生まれるときは、バットとボールが出会うべくして出会ったような印象が強い。タイミングがしっかり取れているからだろう。
「タイミングは自分主導で仕掛けているようにしていますが、もちろん相手にも合わせていきます。矛盾してしますが(笑)。今のところは、それでいろいろなピッチャーに対応できていると思います」
5月12日の巨人戦(神宮)では『1番・センター』で先発。3打数無安打に終わるも「プロに入って初めて申告敬遠をされました(笑)」など、2つの四球を選んでその役割を果たした。打率も.347(75打数26安打)と、高い数字を維持している。
「とくに数字は意識していません。数字を見てしまうと力みにつながるので、今は目の前の1打席、1打席に集中しているだけです」
シーズンは始まったばかり。この先、丸山がどんなバッティングをするのか、注目して見ていきたい。