ユニオン・サンジロワーズがアントワープを1-0で下し、ベルギーカップ優勝を決めた。

 クラブにとって110年ぶりのカップ戦制覇──その決勝点を決めたのが町田浩樹だった。前半終了間際、コーナーキックをグスタフ・ニルソンがニアから頭でそらし、中央に走り込んだ町田が左足で押し込んだ。

「グスタフ・ニルソンがニアで触った瞬間、ちょっと感じるものあって、『あ、そこ来そうだな』って思ったところにボールが来たんで、いやー、本当に持っているなって」

 町田は笑顔で得点を振り返った。


町田浩樹が自らのゴールで110年ぶりの優勝を掴み取った photo by Watanabe Koji

 身長190cm──。町田はベルギーリーグのなかでも高さで勝負できる部類のCBだが、不思議なことに得点シーンではその高さを活かしきれてない。

「このカップ戦で2回、点を取っているんですけど、ふたつとも足。ヘディングで決めろよって感じなんですけど。けど、よかったです」

 てへへ......と、つけ足したくなるような、そんなおどけた調子で語った。

 決勝戦ではあるものの、落ち着いた精神状態だったことが幸いしたのかもしれない。

「『カップファイナル!』って感じで、すごい気持ちが上がっていたわけじゃなかったんです。逆に落ち着きすぎていて、もっと熱量がほしいくらいだったんですけど。ボールがこぼれてきてくれてよかったです」

 この優勝はクラブにとっても、町田にとっても大きな意味のあるものだ。

 ユニオン・サンジロワーズは1897年に創設された古豪クラブ。1903-04シーズンから1934-35シーズンまで合計11度のリーグ優勝を果たし、ベルギーカップも2度優勝している。だが、この2度のベルギーカップ制覇は1912-13と1913-14の、なんと110年も前の話。その後は最下層リーグまで降格するなど、短くない停滞期を過ごした。

 しかし2018年、プレミアリーグのブライトンのオーナーがサンジロワーズも所有したことをきっかけに、クラブの躍進が始まる。2020-21シーズンには38年ぶりの1部昇格を果たし、2021-22シーズンはブライトンからレンタルで三笘薫を獲得。レギュラーシーズンを1位で終え、プレーオフは敗れて優勝できなかったが、この年から3シーズン連続でプレーオフに進出している。

【僕にとって違う意味のこもったタイトル】

 そんな2018年からの取り組みがひとつの形となったのが、このベルギーカップ優勝だ。その決勝点を町田が決めた。ゴール直後はチームメイトにもみくちゃにされ、カメラに向かってポーズも決めたが、そのあたりの記憶はあまりないという。

「興奮していたので覚えてないですけど、サポーターも本当に待ち望んでいたことだと思いますので、ああいう状況のなかで先制点を取れてよかったです」

 後半は冷静になって危なげなく守りきり、この先制点が決勝点になった。

 町田自身はプロ入り後、これで4度目の優勝経験となる。しかし今回の優勝は、それまでとは違って大きな意味を持つ。町田が言う。

「鹿島時代は自分の力でタイトルを取れなかったんで。それをすごい、根に持っていたというか。何だろう......ずっと心の奥にわだかまりがあったんですよ。そういう意味で、自分がタイトルをもたらせたってことは、すごくうれしいです」

 鹿島アントラーズのアカデミー育ちで、2種登録選手を経て2016年からトップチームに昇格。町田は鹿島という強豪クラブ在籍時、タイトルに手をかけた過去が4度ある。

 1度目は2016年のリーグ優勝。しかし、この年はシーズンを通してリーグ戦の出場時間がなく、ルヴァンカップに2試合出場しただけだった。2度目は2017年2月、浦和レッズとのゼロックススーパーカップ。決勝はベンチ入りを果たしたものの、ピッチに立つ機会はなかった。

 3度目は2018年11月のACL。ペルセポリスとの決勝戦はホーム・アウェーともに「たぶん19人目だった」(町田)ベンチ外。そして4度目は2020年1月。ヴィッセル神戸に敗れた天皇杯決勝もベンチ外だった。

 2022年1月からサンジロワーズに移籍したあとも、負傷などで出場時間は増えず苦しんだ。そして3シーズン目の今季、ようやく主力としてコンスタントに戦えた。

「初めてピッチで優勝を経験できたので、それはよかったです。自分で(タイトルを)もぎとれたのはアメージング。初めてなので感慨深いし、ちょっと違う意味のこもったタイトル......僕にとっても、クラブにとっても」

 心底噛みしめるように、そう話した。

【大岩剛・羽田憲司の恩師に必要とされれば...】

 そして今、町田に関する話題がふたつある。移籍の話と、五輪オーバーエイジの話だ。

 パリ五輪代表チームは、町田の鹿島時代に指揮官を務めた大岩剛と、コーチだった羽田憲司がいる。そのふたりがいるだけに「パリ五輪代表に呼ばれるのでは?」とメディアが色めき立っている。

「(五輪の時期は)インターナショナルウィークじゃないので(代表に拘束力がない)、そこは僕自身だけで決められることではない。また移籍期間でもあるので、もう少し様子は見たいなと思います。まあでも、剛さんと羽田さんはお世話になった恩師みたいなものなので、必要とされればちょっと考えます」

 移籍の話も、オーバーエイジの話も、否定しなかった。しかしそれよりも、町田には気になるテーマがある。

「ユニオンでもう1個、タイトルを取れるチャンスがあるので(取材時はリーグ1位のクラブ・ブルージュと勝ち点3差の3位)。残りあと3試合が終わるまでは、ユニオンのためにプレーしたい。移籍とかオーバーエイジとかは、そのあとかなと」

 地元メディアに「今日だけは喜びたい」と話した町田は、明日から気持ちを切り替え、リーグ優勝に向けて集中する。