「鎌田大地を巡るすべてが残留の方向を示している」ラツィオ番記者が現地から最新レポート
ラツィオの監督イゴール・トゥドールはこう語った。
「私は鎌田が10人ほしい」
鎌田の未来が変わりつつあることが、この言葉によく表されている。フランクフルトでの16ゴールという実績を引っさげてラツィオにやって来た鎌田だが、約半年の間、彼は海のものとも山のものともわからない、ミステリアスな存在だった。だが、トゥドールがマウリツィオ・サッリに代わってベンチに座って以来、鎌田は常にピッチに立っている。第33節ジェノア戦では、ユベントス戦に続く今季2度目のアシストをマーク。前節のモンツァ戦では、彼の強力なシュートが惜しくもクロスバーを叩いたが、それがキャプテンであるチーロ・インモービレのゴールを生む助けとなった。
ラツィアーレ(ラツィオサポーター)たちの鎌田への見方も変わってきている。デビュー当初は拍手喝采を送っていたサポーターたちだが、その後、ぱっとしない試合を繰り返す間に、いつの間にか鎌田に「役立たず」の烙印を押すようになっていた。しかし、今は風向きが変わった。誰もが彼に期待している。
前節モンツァ戦に先発した鎌田大地。試合は2−2の引き分けだった photo by REX/AFLO
ラツィオのスポーツディレクター、アンジェロ・ファビアーニが1カ月前にこうコメントしたことは、以前の記事でも紹介した。
「鎌田との契約は1年だが、我々だけで決めるのだったら、もう少し長い契約をしていた。しかし彼は、1年試してみて、その後、更新するかどうかを決めたいと希望し、我々も彼を獲得するためにその条件を認めた。彼が今後どうしたいかは、シーズン終盤にわかるだろう」
そしてまさに今がその時というわけだ。
噂として流れた、鎌田がラツィオに100万ユーロ(約1億6800万円)を払えば契約が更新できるという不思議な契約については、選手側もチームもきっぱり否定しているが、しかし現在、ボールが鎌田の足元にあるのは確かだ。ラツィオはもちろん契約を更新したい。つまり、来シーズンもラツィオに残るのか、それとも新天地を探すのかは鎌田次第なのである。
【トゥドールの何が鎌田を変えたのか】
そしてトゥドールの就任は鎌田の未来を大きく変えた。シーズン末に出ていくことが濃厚と言われていたが、今は限りなくラツィオ残留に近いと言っていいだろう。鎌田を取り巻く状況はサッリの時代と180度異なる。4月末のオリンピコでの第34節ヴェローナ戦の後、クラウディオ・ロティート会長は、この試合の鎌田はラツィオに来て以来最高だったと絶賛した。
「トゥドールは鎌田をラツィオの未来の軸にしようとしている。あとは鎌田の決断次第だ」
この会長の発言も鎌田の残留を後押しするだろう。ただし、ラツィオは3年の契約更新を希望しているが、鎌田自身は1年を希望していると伝えられている。またも「とにかくトゥドールとうまくいくかどうかを見てから決める」ということなのだろう。
今季の鎌田の成績は、第35節終了時点でリーグ戦に26試合出場し、1ゴール、2アシスト。しかし監督が代わってからはほとんどの試合で主力としてプレーしている。勝利したユベントス戦、ローマとのダービーでもスタメン入りし、その後もサレルニターナ、ジェノア、ヴェローナ、モンツァ戦に先発。6試合のうち4試合はフル出場だ。そして彼の『ガゼッタ・デロ・スポルト』紙の評価の平均も、トゥドールに代わってからは6を下回ることはない。それどころか、最近の3試合だけでいえば常に6.5以上、ヴェローナ戦は7だった。つまり鎌田は甦ったというわけだ。
もし鎌田がラツィオに残るとしたら――すべての状況は残留の方向を示しているが??その功績はすべてトゥドールのものだ。彼は選手たちの心の琴線に触れることができる数少ない監督だ。
選手とトゥドールの関係を物語るのにこんなエピソードがある。ユベントス戦の前、ウォーミングアップするアルゼンチン人ストライカー、バレンティン・カステジャーノスをこう言って鼓舞した。
「大変だな、君が対峙するのは世界最高のDFのひとり、ブレメルだ。でもそんな彼にアタッカーとして挑めるなんて、私だったら、うれしくて身震いしてしまうね」
トゥドールのこんなコミュニケーションのとり方が鎌田を変身させた。ラツィオの練習場「フォルメッロ」では、トゥドールが鎌田に話しかけている姿がよく見かけられる。時には叱咤し、時には指示を細かく説明している。信頼関係は最高潮に達していると言っていいだろう。
【タイムリミットは5月15日】
噂によるとトゥドールはロティート会長との最初のミーティングでこう言ったらしい。
「会長、鎌田は先発です」
スタメンを選ぶにも、最初に鎌田を据え、そして他の選手を配するという感じだ。鎌田がヴェローナ戦で最高のプレーを見せた時には、こうも言っていた。
「たぶん以前のプレースタイルは、今に比べると彼に合っていなかったのだろう。私にとって、彼はすばらしい選手だ。どこでもプレーできるし、メンタリティーは10点満点だ。まるで頭のなかにコンピューターが入っているようだ。もし鎌田がたくさんいたら、すべての監督は、ひとりは自分のチームにほしいと思うだろうね。まあ私の場合は、あと10人、鎌田がほしいが」
最高の賛辞であり、これを聞いた鎌田が奮起しないわけはないだろう。
いずれにせよ、5月15日までに、鎌田は今後について決断しなければならない。
5月に入って、クラブは鎌田を事務所に呼び出し、ローマでの生活はどうか、そして今後はどうしたいかを率直に尋ねた。鎌田は決断するまでにもう少し時間がほしい様子だったが、ラツィオもそう待ってはいられない。その時点でチームは期限を区切った。
5月15日までに、鎌田はラツィオに残留するかどうか、そして残留するならどのような形でするかを伝えること。テーブルの上には、ラツィオの用意した1シーズンあたり約300万ユーロ(約5億円)の3年契約が乗っている(先述のように、鎌田の意向はやはりまずは1年契約のようだが)。
鎌田自身はこう言っている。
「ようやくチームの力になれて、本当にうれしい。ドイツでもこんなプレーをしていたので、今はとても居心地がいい。自分だけでなく、ラツィオの選手たちとも、とても良くなってきている。次の移籍先としていくつかのクラブの名前が挙がっているが、まだ何も決めてはいない。今は、監督が僕を信頼し、気にかけていてくれると感じているし、いろいろな意味で彼のサッカーは僕に合っていると思う」
決断の時は近い。