2018年の「サントリー ドリームマッチ」で「ピッカリ投法」を披露する佐野慈紀氏

 近鉄、中日などで投手として活躍した佐野慈紀氏が、右腕を手術で切断したことを報告した。

 4月30日に56歳の誕生日を迎えた佐野氏。翌5月1日に、糖尿病による感染症が進行したため、右腕の切断手術を受けると、自身のオフィシャルブログ『佐野慈紀のピッカリブログ』で告白。このときは、手術への不安も吐露していた。

 手術を終えた後の、7日のブログでは《皆さんからの温かいたくさんのメッセージに感激と感謝がやみません》と経過報告。

《今日初めて切った腕と対面しました。感想は短くなったなぁですね。痛みもなく順調なようです。受け入れようと思いつつもやっぱり観てみぬふり なかなか弱気なハゲオヤジです。まだまだ先は長いですが変わらず前を向いて 生きますね。健康第一 みんなかがや毛〜!》

 と、ユーモアをまじえて心境を吐露している。

 腕の切断を余儀なくされた佐野氏は、1年前に「重症下肢虚血」と診断され、右足中指を切断。治療のため、入院生活を続けていたが、2023年12月、足の小さな傷からの感染によって指先が壊死し、2本の指先を切断していたという。さらに2024年、1月には心臓弁膜症が発覚し、血流不全による体調不良を訴えていた。

 立て続けに起こる不調の原因は、糖尿病の合併症だ。糖尿病の三大合併症について、五良会クリニック白金高輪理事長の五藤良将医師が解説する。

「合併症の発症までの期間は、個人の血糖コントロール、糖尿病のタイプ、生活習慣、遺伝的要因、および治療経過によって大きく異なります。佐野氏が、いつ糖尿病と診断されていたのか気になるところですが、足の指の壊死が始まる数年前には、すでに糖尿病が進んだ状態だったのではないかと推測します」

「三大合併症」とは、以下の3つだ。

・糖尿病性網膜症

「糖尿病性網膜症は、糖尿病診断後、5年以内に発症することがありますが、症状が顕著になるまでには10年以上かかることもあります。1型糖尿病の場合、診断から20年後には約80%の人が、何らかの網膜症を発症しています。2型糖尿病では、診断時にすでに重症網膜症となっており、視力低下や失明に近い状態のこともあります」(以下、カッコ内は五藤医師)

・糖尿病性腎症

「糖尿病性腎症の発症は通常、糖尿病診断後10年から15年の間に始まります。1型糖尿病患者の約25〜40%が、20年以内に腎症を発症するとされています。2型糖尿病では、診断時にすでに腎症を有している場合があります。患者さんに自覚がないこともありますが、すぐに透析が必要という深刻なケースもあります」

・糖尿病性神経障害

「糖尿病性神経障害は、診断後5年以内に発症することがありますが、多くの場合は診断から10年以上経過してから、明らかになります。糖尿病の管理が不十分な場合、発症が早まることが知られています。また、罹病期間にかかわらず、糖尿病と診断されて早期に神経障害になったり、血糖管理がよくても突然、視力障害になったりもします」

 佐野氏の場合は腕の切断だったが、足を切断した場合には、その後の余命にも影響することが分かっているという。

「糖尿病の合併症で足を切断する患者は、年間約3000人と言われます。神経障害によって感覚が鈍くなり、手足のけがや炎症に気づかず、悪化が進んでいきます。切断した場合は寝たきりになるケースが多く、5年生存率は約4割といわれます」

 最近では、認知症やがんの発症にも、糖尿病が大きなリスクとなることが分かってきた。

「認知症やがんも、糖尿病の合併症ととらえることができます。逆にいえば、糖尿病を予防、治療することで、健康を維持できるともいえます。初期段階では、糖尿病には自覚症状がありませんが、検査値を指標として、しっかりと治療をおこなってほしいと思います」