ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

――東京・芝1600mを舞台とした2週連続のGI開催。先週のNHKマイルCはクラシックでも活躍した上位人気2頭、ジャンタルマンタルとアスコリピチェーノがワンツーフィニッシュを決めました。

大西直宏(以下、大西)強い馬が能力を出しきっての結果だったと思います。良馬場で1分32秒4という勝ちタイムは、ほぼ例年どおり。そうした馬場状態や時計の出方は、今週も参考になりそうですね。

――今週は古馬牝馬によるマイル女王決定戦、GIヴィクトリアマイル(5月12日)です。雨さえ降らなければ、速いタイムが計測されそうです。

大西 NHKマイルCとヴィクトリアマイルの走破タイムを比較すると、過去18年間でヴィクトリアマイルのほうが速い時計を14度も記録しています。牝馬同士の争いとはいえ、さすが歴戦の古馬による一戦ですね。

 単純なイメージとして、今年もNHKマイルCより速いタイムでの決着を想定すると、勝負になりそうな馬はだいぶ限られてくるかもしれません。

――スピード勝負となると、やはり重賞で1分31秒台を2度記録しているナミュール(牝5歳)が有力視されるのでしょうか。

大西 昨春の東京マイルのGI2戦、ヴィクトリアマイル(7着)と安田記念(16着)は、ともに不利を受けて不完全燃焼に終わりました。しかしその後、立て直しに成功。昨秋のGIマイルチャンピオンシップ(11月19日/京都・芝1600m)では、並み居る強豪牡馬を退けて、GI初制覇を飾りました。

 直近2戦も、海外GIで好勝負を披露。競走馬として、今まさにピークを迎えているかもしれません。

 今回は初めて武豊騎手とのコンビで臨みますが、僕のイメージでは、末脚の反応がいいこの馬と武豊騎手の騎乗はかなりマッチするのではないか、と前向きに捉えています。V候補の有力な1頭であることは間違いありません。

――他では、昨秋のGIIローズS(9月17日/阪神・芝1800m)で日本レコードを記録したマスクトディーヴァ(牝4歳)も上位人気が予想されます。

大西 この馬は今年に入ってマイル戦を2度使って、明らかにヴィクトリアマイルを意識した使い方をしています。

 2走前のGIII東京新聞杯(6着。2月4日/東京・芝1600m)では出遅れが響いて人気を裏切ってしまいましたが、前走のGII阪神牝馬S(1着。4月6日/阪神・芝1600m)では課題のゲートも改善されて結果を出しました。前哨戦を制して、いいリズムのまま本番を迎えられそうです。

 芝1800mで驚異的なレコードをマークしたのですから、マイルの時計勝負も苦にするとは思えません。1分31秒台の決着となったとしても、高い確率で対応できるのはないでしょうか。

――この人気2頭が能力を出しきれば、NHKマイルC同様、平穏な決着に終わりそうですが、これらに割って入るような存在、大西さんが注目している伏兵馬はいませんか。

大西 昨年の牝馬クラシックで、"ナンバー2"級の評価を得ていたハーパー(牝4歳)は侮れないと思います。昨秋以降、芝の中距離路線を歩んでいますが、この馬はもともとマイルの重賞ウイナー(今回と同じ舞台のGIIIクイーンC)。GI桜花賞(阪神・芝1600m)でも4着と好走した実力馬ですからね。


「2強」の一角崩しが期待されるハーパー。photo by Yasuo Ito/AFLO

 また、同馬を管理する友道康夫厩舎と言えば、2013年、2014年とヴィルシーナで当レースを連覇した実績があります。そして、ヴィルシーナが4歳時に勝った時の臨戦パターン(秋華賞後、エリザベス女王杯→大阪杯)が、今回のハーパーの臨戦(秋華賞後、エリザベス女王杯→有馬記念→大阪杯)と似ている、というのも気になるところです。

 実際、東京のマイル戦はバックストレッチが長く、特にGIではタフな流れになります。そのラップを維持したままラスト600mの攻防に向かっていくため、スピード、キレだけでは通用しません。総合力が要求されるレースになるので、中距離からの臨戦は悪くないんですよね。

 友道厩舎は他にも、2021年にランブリングアレーが10番人気で2着と好走した実績があります。同馬も中距離路線からの距離短縮ローテで結果を出したように、この臨戦パターンは要注意と言えます。

 ということで、直近の成績から人気の盲点になりそうなハーパーを今回の「ヒモ穴」に指名したいと思います。