【過去3年の成績との比較で見えたアップデート】

 大谷翔平がロサンゼルス・ドジャースの一員として迎えた2024年シーズンも1カ月が過ぎた。10年総額7億ドル(約1050億円)という北米スポーツ史上最高額の契約でチームに加わった日本のスーパースターは、5月に入ってその真価を見せ始めている。

 大谷の存在感は、世界一を目指すドジャースの強力なチームメイトの中でも群を抜く。打者専念のシーズンで指名打者として、過去最高と言っていい好スタートを切った。


開幕から好調をキープする大谷 photo by 三尾圭

 大谷は38試合(日本時間5月9日)に出場した時点で、打率.355、11本塁打、27打点。首位打者は同僚のムーキー・ベッツ、本塁打ではアトランタ・ブレーブスのマルセル・オズナらと激しいトップ争いを繰り広げている。さらに、54安打、14二塁打、OPS(出塁率+長打率)1.103でもナ・リーグ首位に立ち、盗塁は早くも9個(ナ・リーグ9位)を決めるなど俊足ぶりも光る。

 大谷の数字を語るうえで言及したいのが、年々凄みを増す成長ぶりだ。

 ロサンゼルス・エンゼルス時代の2021年は投手として9勝を挙げ、打者として46本塁打を放ち、タイトル争いを演じてメジャーでは自身初のMVPに輝いた。そこから1年ずつ、打者としてアップデートした姿を見せてきた。

<大谷翔平 2021年以降の38試合を消化した時点の主な打撃成績>

●2021年シーズン

152打数40安打、打率.263、13本塁打、32打点

48三振、8四球、6盗塁、出塁率.313、長打率.612、OPS.925

●2022年シーズン

153打数40安打、打率.261、8本塁打、27打点

38三振、13四球、5盗塁、出塁率.319、長打率.471、OPS.790

●2023年シーズン

147打数42安打、打率.288、8本塁打、25打点

32三振、14四球、5盗塁、出塁率.364、長打率.521、OPS.885

●2024年シーズン

152打数54安打、打率.355、11本塁打、27打点

33三振、20四球、9盗塁、出塁率.425、長打率.678、OPS 1.103

 初の規定打席を達成した2021年の開幕38試合の成績を見てみると、打率.263、13本塁打、32打点で、ホームランと打点は2024年を上回るペースで推移している。一方で確実性は低く、48三振と粗さも目立つ。四球もわずか8つと、相手に与える脅威が今に比べると小さかった(今シーズンは同33三振、20四球)。エンゼルス打線との兼ね合いもあるが、「ホームランもあれば三振あるバッター」という印象もあった。

 その後の3年間の数字も見てみたい。46本塁打を放ってタイトル争いに絡み、MVPを受賞して迎えた2022年シーズンは、開幕から38試合で打率.261、8本塁打、27打点。打率や本塁打、打点に大きな変化は見られないが、注目したいのは三振数と四球数だ。三振は38で前年より10個減らし、四球も13と5つ増えている。

 大谷はこのシーズン、年間の本塁打は34本に減らしたものの、トータルの打率は.273と前年の.257から大幅に上げ、三振数も161個と189個から大きく減らしている。粗さもあるパワーヒッターから、確実性も備えたバッターへと成長していった。

 2023年になると、その傾向はより顕著になる。このシーズンは開幕38試合で打率.288、8本塁打、25打点。三振の数は32で四球の数は18とさらなる改善が見られた。

 大谷は2023年シーズン、44本塁打で日本人初のホームラン王のタイトルを獲得したが、打率も.304と、規定打席に到達したシーズンのなかではプロ入り初の3割を達成。メジャーに渡った日本人選手ではイチロー(2001年から10年連続)、松井秀喜(2005年)しか成し遂げてない領域に足を踏み入れた。

 そして今シーズンは、打者に専念するという過去3年にはないアドバンテージはあるものの、安打を積み重ねて高打率をキープし、本塁打も量産態勢に入っている。大谷が打者としてより高みを求め、取り組んできた成果がひとつの形になり始めている。

【強力なチームメートのおかげで負担が軽減】

 もちろん、大谷の好調を語るうえで、新たなチームメートの存在は欠かすことができない。1番を打つベッツは開幕から5試合で4本塁打を放つロケットスタートを切り、3月、4月は打率.377、6本塁打、OPS1.101で自身3度目の月間MVPを受賞した。大谷も「ほぼ間違いなくムーキーが塁に出てくれるので、ポジティブな形で打席に立てている」と語るが、この驚異の1、2番コンビは引き続きドジャースの武器となるだろう。

 ベッツ、大谷とともに「MVPトリオ」呼ばれる3番のフレディ・フリーマンは、打率.301、3本塁打、21打点とベッツや大谷に比べると数字は見劣りする。だが、2022年は打率.325、昨年は打率.331と安定感ある打撃を見せているだけに、シーズントータルではよりよい数字を残すことが期待される。

 ほかにも、正捕手を務めるウィル・スミスは打率.331、6番または4番で起用されるテオスカー・ヘルナンデスが10本塁打を放つなど、誰かが不調に陥ったとしても少々のことでは崩れない質、量ともに十分な選手が揃っている。昨シーズンまで所属したエンゼルスは、大谷とマイク・トラウトのふたりに依存することが多く、そのトラウトも故障離脱が多かったため、大谷にマークが集中していた。しかし、ドジャースではその負担が軽減され、自身の好結果につながっている。

 打者・投手として結果を残してきた2021年からの3年間を経て、打者に専念する移籍1年目で最高の滑り出しを見せた大谷。リーグをまたいでの2年連続本塁打王やMVP獲得、トリプルスリー達成にも期待が膨らむ。ドジャーブルーのユニフォームを身にまとった大谷の躍動から目が離せない。