第1戦をドルトムントがパリ・サンジェルマン(PSG)に1−0とホームで先勝して迎えたこの第2戦。チャンピオンズリーグ(CL)準決勝は、内容と結果が一致しない、ある意味でサッカーらしい一戦となった。

 シュート数28対4で、「4」の側が勝利した試合と言えば、日本がブラジルを倒したマイアミの奇跡(1996年アトランタ五輪)。サッカー史に残る番狂わせのひとつと言える。シュート数31対6だったPSG対ドルトムントの一戦は、さすがにその域にまでは達しない。しかし、PKか否かの微妙な判定に加え、ゴールの枠を直撃したシュートがその31本のなかに4本含まれるとなると、話はだいぶ変わってくる。

 PSGのインサイドハーフ、ウォーレン・ザイール・エメリ(フランス代表)がキリアン・エムバペ(フランス代表)の折り返しから、ポスト直撃弾を放ったのは後半3分。PSGの攻勢は強まるばかりだったが、合計スコアを2−0とするドルトムントの先制弾は、その2分後に生まれている。


ドルトムントに敗れ、キリアン・エムバペをなぐさめるルイス・エンリケ監督(パリ・サンジェルマン)photo by AP/AFLO

 ドルトムントの左ウイング、カリム・アデイェミ(ドイツ代表)と、PSGの右サイドバック(SB)アクラフ・ハキミ(モロッコ代表)の1対1で、勝ったのはハキミだった。ところがハキミは奪ったボールをGKジャンルイジ・ドンナルンマ(イタリア代表)に戻し損ねる。PSGはドルトムントにCKを与えることになった。

 キッカーはユリアン・ブラント(ドイツ代表)。それをファーサイドで待ち受けたマッツ・フンメルス(ドイツ代表)がヘディングで沈めてゴールとした。後半開始早々に起きたこの攻防が、この試合の明暗を分けるキープレーとなった。

 PSGは後半16分、左SBヌーノ・メンデス(ポルトガル代表)が、この日2本目となるバー直撃弾を放つ。さらには後半20分、ウスマン・デンベレ(フランス代表)の深々とした切り返しをペナルティエリアのライン上でフンメルスが倒す。PKを取られてもおかしくない微妙なシーンだったが、ドルトムントはラインの外とする判定に救われた。

【一方的なPSGペースの戦いだったが...】

 すると、ドルトムントのエディン・テルジッチ監督は、たまらず5バックに変更。守り倒す作戦に出た。結果的にはこれが奏功したわけだが、PSGのチャンスは増えるばかりとなった。

 後半41分にはゴール前でエムバペが放った枠内シュートは、GKグレゴール・コベル(スイス代表)に触れながらポストを叩く。その2分後にもMFビティーニャ(ポルトガル代表)のミドルシュートがバーを叩いた。残り数分という段階でも、合計スコアで1点差に詰めれば、同点の可能性はありそうな、それほど一方的なペースの戦いだった。

 PSGの敗因を、運のなさ以外にあえて挙げるならば、1トップに起用したゴンサロ・ラモス(ポルトガル代表)が機能しなかったことにある。前線に右からデンベレ、エムバペ、ブラッドリー・バルコラ(U−21フランス代表)を並べた第1戦では、後半バルコラに代えて投入したランダル・コロ・ムアニ(フランス代表)がブレーキになったが、デンベレ、ラモス、エムバペに入れ替えて臨んだこの日は、ラモスに活躍の機会が訪れなかった。

 ネイマール、リオネル・メッシを放出。今季、戦力ダウンが心配されるなかで監督の座に就いたルイス・エンリケは、見事にスーパースター頼みのサッカーから脱却。好チームに変身させた。CLベスト4は合格点と言えるが、エムバペが抜けるとされる来季は、今季以上に厳しい戦いになることが予想される。

 中東の資本が入り、金満クラブと言われるようになって10数年。毎シーズンのように優勝候補に挙げられながら、あと一歩のところで欧州一の座を逃し続けてきたPSG。同類の金満チームであるチェルシーは2度、マンチェスター・シティも昨季、念願の初優勝を飾っている。歴史ある欧州サッカーにいずれも新風を巻き起こしてきた。PSGも欧州王者は時間の問題かと思われていた。

 だが、無冠のままメッシ、ネイマールが抜け、来季はエムバペも抜けようとしている。仕切り直しが迫られている。来季も続投すると思われるルイス・エンリケは、どんなカラーのチームに再建していくのか。

【初優勝時を想起させるドルトムント】

 一方、ドルトムントは優勝した1996−97シーズン、準優勝した2012−13シーズンに続く3度目のCL決勝進出だ。11シーズン前はバイエルンとのドイツ勢対決だったが、今回もその再戦となる可能性を50%前後、残している。決勝の舞台も11年前と同様、ウェンブリーという奇遇だ。

 今季のブンデスリーガにおけるドルトムントの成績は現在5位。だが、そうは思えないサッカーをこの準決勝では披露した。直近の成績を見ても特段、好調とは思えぬ伏兵チームが、あれよ、あれよという間に決勝に進出したわけだ。サッカーは番狂わせが多いとされるが、こうした例は過去にけっして多くない。準決勝の初戦を2−2で引き分けているレアル・マドリード、バイエルンの勝者に対し、ドルトムントは無欲で決勝の90分1本勝負に臨むことになる。

 想起するのは1996−97シーズンの決勝だ。前評判は、CLになって初の連覇を狙うユベントスのほうが圧倒的に高かった。舞台はミュンヘン五輪スタジアムで、スタンドの3分の1を埋めた地元のファンは、全員ユベントスを応援していた。そうした逆風が吹き荒れるなか、ドルトムントは3−1で勝利。初めて欧州一に輝いた。その再来なるか、である。チャンス到来である。レアル・マドリード、バイエルン、どちらと対戦しても好勝負になると見る。

 ドイツ勢は今季好調で、ヨーロッパリーグでもレバークーゼンが準決勝の初戦でローマにアウェーで0−2と完勝している。現在4位のUEFAランキングをどこまで上げられるか。2位イタリア、3位スペインとの差はわずか。首位イングランドにも結果次第では肉迫できる。最終盤を迎えたいま、CLなどの出場枠などに大きな影響を与えるこのリーグランキングにも目を凝らしたい。