スタートアップブランドは何年ものあいだ、主要都市での屋外(out-of-home、以下OOH)広告キャンペーンを利用して、人々の話題を集めていた。

下着メーカーシンクス(Thinx)の挑発的な地下鉄広告から、マットレスブランドのキャスパー(Casper)によるブロードウェイにインスピレーションを得た広告看板キャンペーンに至るまで、多くのOOHキャンペーンの目標は、より多くの人にブランドを覚えてもらい、ソーシャルメディアでキャンペーンの写真をシェアしてもらい、うまくいけば売上につなげることだった。

広告を出す多くの新ブランドにとって、大部分は今も同じだ。しかし、収益性がより大きな関心事となり、マーケティング予算が縮小されるにつれて、派手な広告看板に費用をかける価値があるかどうかを検討するブランドが増えてきた。OOH広告はますます、単なるトップオブファネルチャネルを超えるものとして見られている。

現在では、ブランドは特定の顧客グループをターゲットにしたり、商品の保管場所に近いエリアでOOH広告キャンペーンを実施することで、販売促進に役立てているという。

D2CブランドにとってマイルストーンとなるOOH広告



たとえば、アイスティーブランドのセントジェームス(Saint James)、バッグブランドのダグネドーバー(Dagne Dover)、おむつメーカーのコーテリ(Coterie)などのブランドは、ブランド認知度を高めるだけでなく、特定のイベントでの販売促進、新商品の発売宣伝、ブランドに対する人々のイメージを変えるためにOOH広告を利用している。

地域密着型広告を専門とするOOHメディア会社、ケバニ(Kevani)の創業者であるケビン・バータニアン氏は、「OOH広告はもともと、1800年代後半に方向案内としてはじめられ、明確な行動喚起のメッセージがあった」と語った。しかしD2Cブランドが数年前にこのチャネルを採用しはじめると、巧妙な、つまり挑発的なキャンペーンを仕掛けるチャンスだと考えた。

ベンチャーキャピタルの支援のおかげで、これらのブランドは大きな看板広告を設置できる資金を持っていた。特にD2Cブランドにとって、OOHキャンペーンはオフラインで実社会に自社の存在を示す方法であったため、会社の重要なマイルストーンとみなされていた。

しかし近年、OOHキャンペーンの目標はより細分化されている。

「現実世界には、活用できる現実の『クッキー(cookies)』がある」とバータニアン氏は話す。たとえば、ブランドは各都市の現地の人々をターゲットにするようにプログラムされたAIデジタルディスプレイを使用し、買い物客が商品を購入できる近くの小売店を宣伝できるという。

インスタグラムから現実世界への進出



実際、OOHを試しているデジタルネイティブのブランドは、このチャネルへの投資をより意図的に行おうとしている。

その一例として、2022年に創業したおむつメーカーのコーテリは、同社の投資家でブランドアンバサダーでもあるカーリー・クロスの支援を得て、ブランド認知を確立するために初の大規模なOOHキャンペーンを実施している。

より具体的にいえば、コーテリのおむつに興味を持ちそうな高所得者層の親やその子どもたちがが頻繁に訪れる地域をターゲットにしたテストだ。コーテリは2月5日から4週間にわたり、ニューヨーク市とロサンゼルスの主要マーケットで、クロスとコーテリを着用した数人の乳児を起用したOOHキャンペーンを開始した。

同社のブランドマーケティング担当ディレクターであるブリタニー・ディームズ氏は米モダンリテールに、これはストーリーテリングを利用して現代的な子育てを紹介するというアイデアだと語った。ディームズ氏は、ファッションブランドを宣伝する広告看板にキャリアを通じて数え切れないほど登場してきたクロスを起用すれば、通行人に少なくとも彼女が宣伝しているブランドを調べさせるだけの関心を呼び起こせるだろうと話した。

「カーリーはこれまで多数の広告塔を務めてきたが、赤ん坊と一緒に登場したことはないだろう。また、おむつブランドのOOH広告はあまり見ないので、目立つには良いメディアだ」と同氏は語る。ディームズ氏によると、このコンセプトのテーマは、現代の出産後の子育てに関する誤解を覆すことだという。「赤ん坊と格闘するカーリーの姿を通じて、親になっても自分のキャリアが奪われるわけではないと我々は伝えている」のだとディームズ氏は説明した。

最大クラスのコーテリの看板は、ロサンゼルスのサンセット大通りにあるシティナショナルバンク(City National Bank)の壁やウィリアムズバーグのワイスアベニュー&ノース12thストリート(Wythe Ave & N. 12th)などに掲げられている。また、トパンガのセンチュリーシティ(Century City)やサンディエゴのウェストフィールド(Westfields)など一部のショッピングモールでは、デジタルビデオのOOH広告が設置された。さらにこのキャンペーンは、コーテリのソーシャルチャネル、Eメール、インスタグラム、TikTokでクロスプロモーションされ、閲覧数とエンゲージメントをさらに増やしている。

同社はキャンペーン終了後に指標を評価する予定だ。しかしディームズ氏によると、これまでのところ、ニューヨークとロサンゼルスではコーテリのウェブサイトの平均セッション数が前週比でそれぞれ20%と18%増加しているという。

小売バイヤーやクライアントもターゲット



一方、2022年創業のアイスティーブランドであるセントジェームスもOOH広告に取り組んでいる企業のひとつだが、特定のパフォーマンス目標を念頭に置いて広告のタイミングを決めている。

セントジェームスのプレジデント兼CEOを務めるブラッド・ニューマン氏は、同社にとってOOH広告のパフォーマンスは良好だと語った。最初の取り組みは、ブランドの立ち上げを告知するタイムズスクエアの広告だった。OOHキャンペーンの成果を把握するために、同社は広告看板やワイルドポスティング(壁や塀に掲示するポスター)にQRコードクーポンを掲載している。

セントジェームスの次の大規模なOOH広告はこの春に予定されている。ニューマン氏によると、音楽フェスティバルのステージコーチ(Stagecoach)とコーチェラ(Coachella)について、「イベントに向かう砂漠のルート沿いに広告看板」を設置し、コーチェラのフェスティバル会場での同社のサンプリング活動を宣伝するという。ライドシェアのウーバー(Uber)の一部車両はセントジェームスの広告でラッピングされ、車内ではアイスティー入りのクーラーボックスが提供される。「コーチェラで配布されたボトルとサンプル数と、ステージコーチでの純売上を調査するつもりだ。ステージコーチでは、すべての売店で販売する予定だ」とニューマン氏は語った。

さらにニューマン氏によると、同社のOOH戦略は小売バイヤーや顧客をターゲットにする手段も兼ねているという。2月末には倉庫型量販店コストコ(Costco)での展開を開始し、全米でもっとも総収益が高いコストコ店舗の近くでOOH広告を実施している。

「当社は現在、食品スーパーのホールフーズ(Whole Foods)に参入しようとしている。そこで、ホールフーズ本社近くのオースティン地区にたくさんの看板を出している」とニューマン氏は語り、バイヤーがセントジェームスの紅茶を毎日目にすることになれば、「私の電話に折り返してくるだろう」と冗談めかして笑った。

コンバージョンツールとしてのOOH



一方でOOH広告の経験が豊富なブランドは、その役割を単なる認知度向上の手段ではなく、効果的な顧客コンバージョンツールと捉えている。

10年近く広告看板や地下鉄広告を掲出してきたバッグブランドのダグネドーバーにとって、OOH広告は新しいものではない。ダグネドーバーの共同創設者兼COOであるディーパ・ガンジー氏によると、同社の最新のOOHキャンペーンは新しいトラベルバッグコレクションの宣伝が中心だったという。このキャンペーンは、新商品発売とホリデーシーズンに合わせて、2023年度第4四半期を通じて実施された。

「同社は2023年後半にトラベル1.0(Travel 1.0)コレクションを発表したが、これは通勤者と旅行者が多い場所をターゲットとしたOOH広告を通じて、ダグネドーバーと新しいコレクションのストーリーを語るのに絶好のタイミングだった」とガンジー氏は話す。ニューヨーク市でターゲットとなった場所としては、モイニハン駅(Moynihan Station)、ロングアイランド鉄道(Long Island Rail Road、以下LIRR)の列車、JFK国際空港(JFK International Airport)などがある。

「キャンペーンの焦点は、強烈な視覚イメージと魅力的なコピーを通じて、潜在顧客の興味を喚起させ、当社の素晴らしい商品についてもっと知ってもらうことだった」と同氏は語る。ダグネドーバーのバッグが備える整頓機能は強調すべきもっとも重要な特徴であるため、広告は特に旅行者のライフスタイルニーズをターゲットとした。たとえば、LIRRのデジタルスクリーンでは、ダグネドーバーのベストセラーである通勤バッグを使ったパッキング動画を放映した。

ターゲティングの実現も可能か



ガンジー氏は、時間の経過とともにOOH広告の効果に対するブランドの期待が徐々にレベルアップしてきて、バッグを購入する可能性が高い、より特定の層をターゲットにするという狙いが強まったという。

「確実に進化している。ニューヨーク市の地下鉄にはじめて掲出したときは、当社もまだ新しいブランドだったので、ラッシュアワーのニューヨーク市でのトラフィックが即座に増加するのを目の当たりにした」とガンジー氏は話す。同社は、OOH広告を展開した地域でトラフィックが着実に増加しているかどうかをチェックしはじめた。ガンジー氏によると、今では同社がブランドとして確立し、「すべての主要マーケットからサイトへのトラフィックの流れが常に安定している」ためだという。

最近の旅行をテーマにしたキャンペーンで、都市部の若い専門家というターゲット顧客以外の層からの関心も高まったとガンジー氏は語る。その結果、新たなコンバージョンは郊外の通勤者が中心となった。

OOHのようなチャネルに参入する際は、ブランドのトップオブファネルのリーチ拡大が期待されるとガンジー氏は話す。「当社の『規範』外の層にアピールできたのは大きな勝利だった」と同氏は言う。また、もうひとつの現場での発見は、LIRRの通勤電車内など長期間展開したエリアでは、ダグネドーバーの商品を実際に見かけることが増えはじめたことだ。「これは、OOH広告が特定オーディエンスの共感を呼んでいることを示す最高の証拠だ」と同氏は語る。この勢いをさらに加速させるために、同社は全米に拠点を拡大し続けると同時に、ダラスやオースティンなど特定の主要マーケット地域の一部でもキャンペーンを拡大した。

高まるOOH広告への期待



データを使用して特定マーケットをターゲットとすることが増えているにもかかわらず、OOHのフォーマットは数十年前からほとんど同じ認識のまま、つまり、単なる認知度向上のための活動と見なされてきた。

「OOH広告の根本はほとんど変わっていない」とバータニアン氏は話す。「OOH広告は現実世界の人々にリーチする1対多の方法だが、現在は、このチャネルをより先進的で効果的な新しい方法で活用することが課題となっている」。

しかし、その考え方は変わりつつあるのかもしれない。

セントジェームスのニューマン氏は、広告看板への投資は新しいブランドにすぐに正当な認知をもたらすが、特定の事例で使用することで、効果的なコンバージョンツールとしても機能すると語る。「これは認知度向上と、近隣の小売店で商品を宣伝する直接的な行動喚起とのあいだにあるギャップを埋める方法だ」。

[原文:Brands are rethinking their out-of-home advertising strategies to focus less on awareness and more on conversion]

Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:都築成果)
Illustration by Ivy Liu