頭痛、後鼻漏、アトピー、肩こり、めまい、掌蹠膿疱症、潰瘍性大腸炎、咳ぜんそく、月経異常…。

一見、関連のないこれらの症状ですが、じつは大元の原因は「慢性上咽頭炎(まんせいじょういんとうえん)」にあるかもしれません。

今回は、慢性上咽頭炎治療の第一人者であり、4000人以上の患者さんを診てきた医師・堀田修先生の新刊『その不調の原因は慢性上咽頭炎にあった』(扶桑社)より、一部を紹介します。

「上咽頭」は、異物と接する最初の場所

上咽頭とは鼻の奥にあり、鼻から吸い込まれた空気中のホコリやダニ、細菌やウイルスといった、“異物”を入れないための「関所」の役割をしています。

アーンと口を開けた奥が「中咽頭」、その上の口蓋垂(のどちんこ)の裏側あたりが「上咽頭」です。そこに慢性的な炎症が起きた状態を「慢性上咽頭炎」と呼び、冒頭で挙げたような症状を引き起こしてしまうのです。

まずは、こちらのチェックリストをお試しください。 

<チェックリスト>

朝起きると、のどがイガイガする、痰がからむ 鼻水がのどを流れ落ちてくる 咳がいつまでも続いている 疲れ、頭痛、肩こりがとれない しょっちゅう風邪をひく 口を閉じると、あごに梅干しのようなしわができる 唇がいつも乾燥している 耳の下(胸鎖乳突筋)を触ると痛みがある 睡眠中、いびきや歯ぎしりがある すっぱいものがこみ上げることがある 舌の側面に歯形がついている 煙草を吸っている

2つ以上当てはまる場合は、慢性上咽頭炎の可能性があります。

痛いけれど有効な治療法「EAT」

慢性上咽頭炎には現在、処方できる薬はありません。ですが、とても有効な治療法があります。それが「EAT」(イート・上咽頭擦過療法)です。

手法としては単純なもので、塩化亜鉛の溶液を浸み込ませた綿棒を鼻から、咽頭捲綿子(いんとうけんめんし・のどの奥に薬を塗るための医療器具)を口から直接入れ、上咽頭にこすりつけるという治療法です。

EATを行ったとき、慢性上咽頭炎がある人と、そうでない人とでは、反応がまったく違います。

上咽頭は常に体外からの異物の侵入にさらされているため、健康な人でもある程度の炎症があるものです。しかし、それが病的な炎症でない限り、EATを行ってもさほどの痛みはありません。出血もないか、あっても軽度なのです。

ところが、上咽頭に病的な炎症が起こっていると、綿棒をこすりつけることで激しい痛みを感じるのです。炎症が激しいほど大量の出血が起こり、挿入した綿棒に血が付着します。

「とても痛い、出血する」と聞いて、怖くなってしまう人もいるかもしれませんが、EATは高い治療効果を発揮します。

口呼吸を予防する「かにゆで体操」

慢性上咽頭炎を治療するには、医療機関でEATを受けるのがベストですが、痛みを伴うことや、正しい知識を持つ医師でないと行えないという側面もあります。

そこで、慢性上咽頭炎を予防し、症状の悪化を防ぐのにおすすめのセルフケア、「かにゆで体操」を紹介します。

立ったまま「かにゆで」と発声

(1)<か>舌先を上あごに当てるようにする
(2)<に>口角を左右に思い切り広げる
(3)<ゆ>唇の先を突き出す
(4)<で>下あごを上にあげ、舌をとがらせてまっすぐ上に向かって突き出す

下あごや頬のたるみの改善効果も期待できますよ。

「かにゆで体操」は口の周りの筋肉(口輪筋)をやわらかくして、舌の位置を正常化し、自然と鼻呼吸を促します。口呼吸は慢性上咽頭炎の一因となるので、普段から鼻呼吸を意識することが大切です。

自律神経障害の原因が、慢性上咽頭炎のことも

慢性上咽頭炎は自律神経の調節異常を引き起こし、めまい、吐き気、便通異常、胃の不快感、全身倦怠感、うつなどの症状を招くこともあります。

実際に、めまいや片頭痛など自律神経の乱れが関わると考えられる患者さんには、激しい上咽頭炎が認められることがよくあり、EATを行うと症状が軽快します。

詳しい理由は割愛しますが、上咽頭に慢性的な炎症があるということは、その炎症による刺激が常にストレスになり続けるということです。結果、自律神経の障害とそれに伴う多くの病気や不調を招くのだと考えられます。

自律神経障害による不調を訴える患者さんは、検査をしても異常が見つからないことが多く、不定愁訴と片づけられてしまうことも少なくありません。ですが、もし、そこに慢性上咽頭炎が関わっているのであれば、EATによる診断・治療が容易で、しかも即効性も期待できます。

そのため、自律神経障害が関わっていると思われる不調で、他の原因が特定できない場合には、慢性上咽頭炎を疑ってみて、EATを実施できる医療機関を受診することをおすすめします。