休み明けや、ふとしたときに「なぜかやる気が出ない…」なんて気持ちを経験されたことがある人も多いのでは? 精神科医で杏林大学名誉教授の古賀良彦先生によれば、そんなときにぴったりなのが「音読」なのだそう。

ここでは、大東文化大学文学部教授の山口謠司先生の監修で、1日1分読めば五感が活性化されて活力がアップする名文を51編収録した『もう一度読みたい国語の教科書音読ブック』(扶桑社刊)より、一部抜粋し、再編集してお送りします。

1日1分の「音読」で活力アップ!

古賀先生によれば、音読には、「元気や、やる気の源である脳の働きを活性化させてくれる効果がある」と言います。

“目の前にある文章を声に出して読む”。だれでも何気なくできることですが、じつはこの音読の過程で、脳のさまざまな部分が使われているのです。

<ステップ1>文字を見る

まず、文字を見るときに「後頭葉(こうとうよう)」という部分を使います。大脳の後ろにある後頭葉は、目で見たものを感じる働きするため、ここで漢字、ひらがな、カタカナ…といった、いろいろな種類の文字を瞬時に認識します。

<ステップ2>文字を理解して記憶する

そして次に「頭頂葉(とうちょうよう)」という部分を使います。文頭のてっぺんにある頭頂葉は、字のバランスを把握するので、文字を読み書きするときに機能します。また、音読する時には一時的に文章の一部を記憶する必要があり、このときに機能するのが、脳の側面の「側頭葉(そくとうよう)」。側頭葉で文章を記憶します。

<ステップ3>声に出して読む

最後に機能するのが「左前頭葉(ひだりぜんとうよう)」。大脳の左前にある左前頭葉は、話したり、考えたり、運動するために欠かせない部分。音読のときにも、自分のイメージどおりの声の大きさやテンポで読むように身体に指令を出してくれます。

つまり、音読は脳全体を使うため、活力アップにつながるそうです。

「音読」4つのメリット

さらに、「ひとつひとつの文字は、単なる記号でしかありませんが、脳の機能により、文字が連なって単語となり、その単語が組み合わさり、意味のある文章になります。このように、音読では脳のさまざまな部分を使うため、脳が活性化して、ストレス解消になったり、認知症予防にもなる」と、古賀先生。音読には認知症予防のほかにも、以下の4つのメリットがあります。

<活力アップ>

音読では脳の全体を使うため、読めば読むほど脳が活性化します。声に出すときに、どういう声色にするか、どのくらいの音量にするか、どんなテンポで読むか意識する必要があります。そしてなにより声に出そうという意欲も必要。そして音読を続けていくと元気ややる気といった活力がわいてきます。

<ストレス解消>

文章を声に出して読むことで、自分でも気づかないうちに気持ちが高まることがあります。しっかり口を開いて音読し、ストレスを解消しましょう。

<情緒が豊かに>

音読では脳だけでなく、口や耳も使うため、五感が敏感になります。情緒が豊かになることで毎日の生活がより楽しくなるでしょう。それだけでなく食事のおいしさ、花の美しさや香りも、より鮮明に感じられるようになります。

<認知症予防に>

音読は、見る、話す、聞くを同時に行うため、脳に刺激が与えられ認知症予防にもなります。また、言葉が出やすくなる効果もあります。

音読は1人でできるものですが、夫婦で音読し合ったり、仲間やパートナーと音読会を開くのも効果的です。自分の声を相手にどのように伝えるか意識するため、音読の効果はより高まります。

音読するときは正しい姿勢で

本書で、古今の名文を厳選した監修者の山口先生は、音読するときのポイントを次のように教えてくれました。

「音読をするときは背筋を伸ばして口を大きくあけましょう。そして、息をゆっくり吐くように読むと効果的です。読む時間帯は朝がおすすめです。音読で心も身体もシャキっとします」

音読のコツが分かったところで、早速音読を始めてみましょう。

●宮沢賢治『雨ニモマケズ』

まずは、宮沢賢治の『雨ニモマケズ』。これは、“元気になるテンポの音読”に最適な作品です。しっかり音読をすると、頭と心が活性化。そして、活力がわいてきて、ポジティブな気持ちになります。

<山口先生による音読ポイント>

どんな人になりたいか、と考えたときに、こんなふうに書いて、自分を鼓舞することができたらいいなと思います。宮沢賢治のように、自分でも「雨ニモマケズ」のような言葉を書いて、毎日音読してみてはいかがでしょうか。

●島崎藤村『初恋』

2つ目は、島崎藤村の『初恋』。こちらは、“リフレッシュする音読”として向いている作品です。大きな声を出すと、それだけでストレス解消になります。音読することでさらに気持ちをリフレッシュさせて、心身ともに健やかに過ごしましょう。

<山口先生による音読ポイント>

七五調で書かれた淡い恋。初めて人を好きになったときのこと、覚えていますか? 初めてデートして歩いたときのことは? この道が永遠に続けばいいなと思ったのは? 初恋の思い出を胸に読んでみてください。若返りますよ!

●高村光太郎『智恵子抄 あどけない話』

最後は、高村光太郎の『智恵子抄 あどけない話』です。こちらは、“心が落ち着く音読”になります。心が不安定なときや、心がざわざわして落ち着かないときには、こちらをゆっくりと音読をしてみましょう。自然と心が穏やかになります。

<山口先生による音読ポイント>

都会のビルの中にいると、空の大きさを忘れてしまうことがあります。すると心もしょんぼりしてしまいます。会津の美しい自然に囲まれて育った智恵子は、東京で心を病んだのでした。空の大きさを思いながら読んでみましょう。

新聞で音読の楽しみを見つける

じつは昭和の初めまでは、「新聞」も音読をしていました。というのも、日本で新聞が生まれたのは明治時代で、この時代には、「書生」と呼ばれる学生たちが、多くの家に間借りをしたり下宿をして住んでいました。

書生さんは、中学生だったり高校生だったり大学生だったり。本を読んで勉強をし、時勢を読んで、これからの社会を支えなければならない存在でした。山口先生によると、書生さんは下宿先、間借り先で、そこに住む家族やみんなのために、大きな声で新聞を読んで聞かせていたそう。

今なら、ラジオやテレビのニュースがありますが、そんなメデイアがまだなかった時代、書生さんが新聞を読んで、その代わりをしていたのです。

自分が読めない漢字があることに気がついたり、最新の言葉を知ることができたり、時代の動きをニュースレポーターになったつもりで読むことができ、「新聞を音読することは、とっても楽しいことだ」と山口先生。

また、新聞によっては小説も連載され、毎日少しずつ進んでいく小説を読む楽しみもあります。最近は新聞を定期購読する人も少なくなってきましたが、新聞には、ネット上で読む「ニュース」や「情報」とは違った「文化」が、総合的に盛り込まれています。新聞を音読して、そのおもしろさに気がつけば、あなたは「音読マスター」になるでしょう!

みなさん、「音読」に興味がわいてきましたか? 山口先生は「1分の音読で、あなたは変わります。とっても気持ちのいい力が、あなたの中にみなぎります。1分音読は、人生を変える力なのです」と言います。ぜひ、気になった人は試してみてはいかがでしょうか。