自分が病気になってしまったとき、病院や医者をどのように選べばいいのか知っておきたいですよね。そこで、これまでに6000人以上の高齢者を診断。中高年世代の病院との向き合い方を記した『医者という病』(扶桑社刊)を上梓した、精神科医の和田秀樹先生に詳しくお聞きました。

人生のステージが変われば、病気との向き合い方も変わる

「病院とのつき合い方は、年を取るほどに変えていくべき」。和田先生がそう語る大きな理由は、年齢が変わるごとに、人生のステージが変わっていくからです。

「40代で大病にかかると、子どもの将来が心配ですし、家のローンもどうなるかわからない…など、いろいろな懸念があるでしょう。手術や投薬などでリスクを少しでも払拭できるなら、そうしたいと思うのは当然のことと言えます」(和田先生。以下同)

しかし、60代以降の方の場合はどうでしょうか? 日本人の60歳時点での平均余命は、男性で約24年、女性は約29年です。

「つまり、あと30年経ったら、病気をしてもしなくても、医者の治療を受けても受けなくても、どちらにしてもこの世を去っている可能性が高まります。自分が子どもを育て終え、仕事も第一線を退いていて、隠居生活を送っているのであれば、自身の死による周囲への影響は、若いときよりも小さいと考えられます」

そこで、すべての中高年世代にとって大切なのは、自分の人生のQOL(クオリティ・オブ・ライフの略。生活、人生、生命の質を指す)を考えることです。

「現代医療というシステムのなかで、私が気になるのは、血圧が高かったら薬を飲ませたり、酒を取り上げたりする行為が当たり前になっている点です。これは、『患者のQOLが下がったとしても長生きさせたい』という医者の希望があるからこそ。でも、QOLが下がった患者さんが本当に幸せなのかと言われると、首をかしげたくなることもあります」

 

治療法は他人の医者より自分で選ぼう

では、60代以降、医療とはどのように向き合えばよいのでしょうか?

「『医者がこう言うからこうしよう』とするよりも、残りの人生をどう生きるかを重視してほしいです。薬を飲んで生活を変えたところで、病気になる確率を数割下げることはあってもゼロにすることはできません。自分を担当する医者の言葉を、信じたい人は信じたらいいですし、自分の人生をより豊かに過ごすため、やりたい放題の人生を歩むという選択もいいでしょう。気分よく過ごせる状態をあと20年(もっと長いかもしれません)続けるのか、それとも、薬の副作用で気分が悪くなったり、食べたいものも食べられなくなったりする状態を30年続けるのか。どちらを選ぶかは、ご自身の判断次第です」

いちばんやってはいけないのは、自分の価値観で治療を選ぶことをせず、「医者がこう言うから」という理由だけで治療方針をゆだねてしまうことです。

「いろいろな我慢に我慢を重ね、薬の副作用に耐えながら、塩分を控えて、酒もやめていては、かえってストレスで免疫力が落ちるケースもあるかもしれません。その結果、がんや肺炎などの病気を患ったら、悲しくないでしょうか? 私自身、子どもを育てている間は、家族や会社に責任があるので、多少は一般的な医学常識に従うこともありました。しかし、60代になって、年を取って子どもが大きくなって独立し、会社にも迷惑をかけない状況をつくり上げた人ならば、薬や生活習慣を自分で選んでもよいと思います」

パフォーマンスがいい状態で幸せに生きるのか、パフォーマンスを下げて日々節制しながら少しでも長く生きるのか。それは自分で選ぶことが重要になってくるのだとか。

「医者は、所詮は他人です。ですから、他人の生活にそこまで影響を与える権利はありません。だからこそ、医者には積極的に選択肢を提示してもらい、そのなかから自分自身が判断する姿勢を持ってもいいのではないかと私は思います」

頼りになるのは「かかりつけの町医者」

では、いざ自分が病気になったときに、どうやって病院やお医者さんを選べばいいのかと不安になってしまうところですが、おすすめの方法のひとつはシンプルに「地元で評判のいい町医者の病院に行くこと」。

「大学病院などで働く専門医師ほど、地域に根差した総合診療を行う開業医、いわゆる町医者を『二流、三流だ』と下に見る傾向があります。たしかに、本当に深刻な病気を患った場合は、先進的な治療法を行う専門医に頼るべきかもしれません。ただ、実際に患者の寿命を延ばしているのは、じつは町医者なのです。地元で評判のいい開業医をかかりつけ医にして、仲よくしておくのがよいと私は思っています」

メディアなどで、いい病院ランキングや名医ランキングなどがよく紹介されていますが、その内容をすべて鵜呑みにしてはいけないのだとか。

「これらの情報ソースはどこかというと、大半は医者や病院側が出した情報に基づいています。あくまで医者の価値観に基づいてつくったガイドなので、患者目線でいい医者、いい病院かというと必ずしもそうではない場合も多いです」

 

ランキングでの医者の意見が当てにならない理由

また、こうしたランキングで重視されるのは「施術や治療自体の成功」であることが多く、「治療を受けた患者さんたちが健康に過ごせているか」という視点が抜けているのも問題点のひとつだと和田先生は指摘します。

「たとえば、胃がんの手術をして、胃を三分の二切除した高齢の患者さんがいるとします。手術自体は成功して、がん自体は取り除くことができても、高齢者の場合、手術のせいでガリガリにやせ、体力が戻らず、その後寝たきりになったり、体がヨボヨボになったりする人はかなり多いものです。また、そもそもこれを『手術は成功』したと判断していいのかは議論の余地があります」

医者側からは「胃がんの手術は成功した」と見える場合でも、患者側からは「あの病院は胃がんの手術は大成功ですって誇らしげに公言しているけど、あそこで手術受けてからヨボヨボになってしまった」という声が出てくることも。

「その場限りの手術がうまくいっても、術後に体力や身体機能が落ちて、QOLが下がるケースは非常にたくさんあります。ですから、素人であっても、実際に治療を受けた患者さんの情報の方を当てにする視点を忘れてはいけないのです」