浦和レッズの今季補強に福田正博が感じる優勝への本気度とビッグクラブ化への期待
■間もなく2024年のJリーグがスタートするが、今オフの移籍市場で積極的な姿勢を見せ、効果的な補強と評価されているのが浦和レッズだ。この状況をクラブOBの「ミスター・レッズ」福田正博氏はどう見ているのか。
【本気で優勝を狙うと感じている】「今年はやってくれるんじゃないか!」
そう期待させるだけの動きを、浦和レッズがようやくシーズンオフに見せてくれた。
今季の浦和レッズを率いるペア・マティアス・ヘグモ新監督 photo by AFLO
しかし、クラブ一丸となって、本気でその目標に向けて取り組んでいたのかと言えば、懐疑的にならざるを得ない。実際、何シーズンにもわたってJ1では、いい時もあるものの最終コーナーを迎える前に失速する光景が繰り返された。
それが、である。
今年の浦和からは、ひと味もふた味も違う意気込みが感じられるのだ。
昨季は新たに迎えたマチェイ・スコルジャ前監督のもとで4位になった浦和だが、スコルジャ監督は一身上の都合によって退任となった。この報道を知った時は、個人的にはもう1年、スコルジャ監督のもとで浦和がどう変貌するかを見たかっただけに残念に思ったし、2024年シーズンの浦和を思い描くと厳しい戦いになる気もしていた。
その後、今季の新監督はペア・マティアス・へグモに決まり、シーズンオフでの浦和の補強を目の当たりにするにつれ、「これは本気で優勝を狙いにきている」と感じるようになったのだ。
へグモ監督のサッカーは、攻撃ではシンプルにサイドを使って崩していき、守備では中央を厚くして守るというもの。この守備は浦和のメンバーを見ると、不安なくできるだろう。
GKの西川周作とセンターバックのアレクサンダー・ショルツ、マリウス・ホイブラーテンという、昨シーズンのJリーグベストイレブンに輝いた3選手が、2024年シーズンもゴール前を固める。さらに、アンカーには、新加入のMFサミュエル・グスタフソン(←ヘッケン/スウェーデン)が入ると予想するが、中盤の底に187cmの高さが加わるメリットは大きいものがある。
【真の意味でチーム力向上になる補強とは】また補強というのは、昨年までの主力をベンチに追いやるほどのメンバーを獲得できてこそ、真の意味でチーム力向上につながると考えるが、今年の浦和の攻撃陣の補強は見事なまでにこれを体現していると感じる。
まずFWにはチアゴ・サンタナ(←清水エスパルス)を加えた。2022年にJ1得点王になった力のある選手が1トップに入る脅威は相手にとってこのうえない。そのうえでFW興梠慎三やFWブライアン・リンセンが控えているのは理想的と言える。
サイドアタッカー陣も、昨季は主軸として起用された選手が控えに回る可能性は高い。セリエAのローマからノルウェー代表のMFオラ・ソルバッケンやFW前田直輝(←名古屋グランパス)を獲得し、MF松尾佑介(←ウェステルロー/ベルギー)も復帰した。
新監督がどう判断するかはわからないが、昨季まで攻撃陣を牽引したMF大久保智明やMF小泉佳穂といった選手がベンチに座って出場をうかがうような状況になれば、チーム力は大きく底上げされることになる。仮に新戦力がうまくハマらなかったとしても、ベンチには実績のある選手が控えているのは心強い。
ただし、これはあくまでも起用側の視点であって、選手はベンチに甘んじることを良しとはしない。そのためチームのマネジメントは難しさが発生するが、今年の浦和はそこへのチャレンジもしていると解釈ができる。
今年の浦和はサイドから崩すという王道サッカーをするため、攻撃的なポジションに起用される選手は特長を発揮しやすいはずだ。コンビネーションうんぬんよりも、個として何ができたのかが問われれることになる。
それだけに起用された選手はパフォーマンスが良ければ続けて試合に使われるし、悪ければベンチを温める。そういうマネジメントでシーズンを通じて選手のモチベーションを高く保てれば、シーズン途中に力が落ちていくこともないと感じる。
【Jリーグで浦和にしかできない役割がある】いずれにしろ、こうした補強敢行から汲み取れるのは、クラブの各セクションが自分たちの責任をしっかり果たしたということだろう。
強化部は「優勝できるメンバーを揃えました」と胸を張れる仕事をし、バトンは現場の監督に渡された。そこで結果を出せるかは監督次第というわけだ。
もちろん、「選手は揃えましたので、仕事はおしまい」ではない。シーズンが始まってみれば、補強した選手では足りない部分が見えてきたり、ケガ人が出たりしたら強化部は次の一手を打たなければならない。この点で浦和には、横浜F.マリノスのようなフロントと現場の高い総合力といったものを手にしてもらいたいと思う。
これだけの補強は、当然ながら大きな予算があるからできるもので、それを実現可能なクラブはJリーグでは限られている。浦和のように予算があって、多くの熱狂的なサポーターがいるクラブが、予算の小さいクラブと同じような補強をしていては、Jリーグ全体のスケール感が小さくなってしまう。
Jリーグ全体のことを考えた時、浦和には浦和にしかできない役割があると思っている。
浦和が大きな予算を使って補強をし、他クラブを圧倒するような力を手に入れる。そうなることでJリーグの魅力は、もっと鮮明になるのではないかと思っている。
「Jリーグにビッグクラブは不要だ」という意見があるが、例えば私が試合を解説する際に、ビッグクラブ対スモールクラブの構図などが明確にあれば、サッカーをあまり知らない人たちも含めたもっと多くの人に、サッカーの面白さやJリーグの魅力が伝わると思うことが往々にしてある。
ジャイアントキリングが海外で盛り上がるのは、ビッグクラブが負けると思わない相手に足元をすくわれるからだ。これが成立するには、誰もが認識するビッグクラブの存在が不可欠だろう。
昨シーズン、Jリーグでは優勝に邁進する首位のヴィッセル神戸を下位に沈んでいた(当時16位)横浜FCが破ったことがあった。しかし、その試合は「ジャイアントキリングだ」とは受け取られなかった。もしはっきりとしたビッグクラブが存在していれば、違った驚きを持って扱われるニュースになったのではと思うのだ。
【浦和にはビッグクラブになれるポテンシャルがある】もちろん、ビッグクラブというものは無理につくるものではないだろう。ただ、時代の流れのなかでそうした存在が必要になれば、おのずと現れるものだと思っている。サポーター数や熱量を考えた時に、それになれるポテンシャルを秘めたクラブのひとつは、浦和レッズだと思っている。
だからこそ、これまでのシーズンは優勝を口にしながらそうした雰囲気のない強化に歯がゆさを覚えてきたわけであり、今年の取り組みには期待感を膨らませているわけだ。
圧倒的な強さを誇るビッグクラブへと変貌できるか。そうした観点からも、今シーズンの浦和レッズの戦いぶりには注目している。
福田正博
ふくだ・まさひろ/1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008〜10年は浦和のコーチも務めている。