画廊と美術館での学芸員経験をもち、現在は美術エッセイストとして活躍中の小笠原洋子さん。高齢者向けの3DK団地でひとり暮らしをしています。昨今増加傾向にあるという高齢者のひとり暮らしですが、健康問題を不安はないのでしょうか? 健康に備えた自身の習慣について語ってもらいました。

高齢者がひとりで暮らす選択をするということ

私は74歳でひとり暮らしです。45歳で、正規雇用の専門職を辞職し、その後フリーランスとして旅や執筆活動をしながら、パートやアルバイトで生計を立ててきました。そして65歳のとき、働くことをやめてすべての仕事から離れ、わずかな年金で生活する人生を選びました。

【写真】小笠原さんの寝室。災害に備えて防災グッズも常備

当時は、老人のひとり暮らしは、あまり感心できないこととされていましたが、私のような団塊世代が高齢に達した今日、その人口数に伴ってひとり暮らしを自分から選択したり余儀なくされたりする人が増え、大家族の価値観も変わってきました。

そんな時代をかいくぐってきた私たちは、後期高齢者があふれる老年期をどう乗り越えるかが課題になっていくことでしょう。それはたとえば社会保障面など、高齢者過剰人口と少数化する若者数のバランスが及ぼす社会的影響に対応しなければならないと思っています。

ひとり暮らしの難点は健康面。でもメリットも…

さて、老いれば健康面で若い頃と同じようにいられなくなる場合が多いので、生活面に支障が出ることが増えます。近年は、若者に負けない元気な高齢者が増えているのも実情ですが、なんと言っても歳は歳。体力は徐々に落ちていきます。

とくにひとり暮らしの高齢者にとっては切実です。一例をあげると、お餅が喉に詰まった場合の対処法は、背中を叩いてあげるだの胸を押してやれだのと、解説されていますが、ひとり者はどうするのか、いっさい示されていないように思います。

そうひねくれずとも、高齢のひとり暮らしには、よい面も多いと思っています。私が考える高齢期の楽しさとは、「寿命」という限られた時間において発揮されるものと考えています。若い頃は、大袈裟に言えば永遠に命が続いていくほど長く感じていたものです。たとえば「試験勉強の一夜漬け」を例にしてみると、勉強するのがいやで延ばしているだけでなく、時間が迫らないと力を発揮できないからでもあるのです。

つまり、“高齢者の元気”は、この迫りくる“期限"にあるのではないでしょうか。そういう考えの方が、心身の痛みにとりつかれているより、健康的であるように思います。そしてとかく“わびしい”ととらえがちなひとり暮らしを、「自由の謳歌」と変換させみようではありませんか。

健康のために意識している3つのこと

そんな私自身は、昨今体のあちこちが故障し、決してお友達になりたくなかった「クリニックさん」と親密になってきました。種類が増していく投薬を並べて数える自分の指先は、もっとも“いただけない”姿です。ゆるやかにも薬が効くものの、それでも進行する老化をゆるやかに受け入れ、かつて発揮した若い力をわずかでもとり戻していきたいものです。

さて、健康の三大要素は、睡眠、栄養、運動と言われています。私も日々それを忘れないように心がけ、日課として実行することが大事だと思っています。そんな私なりに意識している習慣をご紹介します。

●睡眠

じつは私は睡眠には自信がありません。その理由は、古い団地は防音設備ができていないため、周囲の部屋の物音がダイレクトに伝わり、棟内にその音が回ります。私には、どこから聞こえるのかキャッチすることができません。なお、同居の家族でもいれば、多少なりともよその音に対して気が紛れるのでしょうが、ひとり者の古住宅は、睡眠にとって最大の難所かもしれません。

睡眠のよしあしは、翌日の体調にも影響します。少しでもよい睡眠がとれるよう、朝の光を15 分は浴びる習慣。ゆったり、ぬるめのバスタイム、就寝前の無食などに精いっぱい気をつけています。

●栄養

食事のメニューは、栄養本位で決めています。私はこれをしっかり守っています。時季的におでんが食べたくなったり、冷や麦が食べたくなったりして、季節の到来を胃袋が感じていることに気がつくことはありますが、好き嫌いもなく、昨日も食べたけれど今日もまたどうしてもあれが食べたいという偏りもあまりないので助かります。

また、手の込んだ料理をするために必要な食材を全品買いそろえることができにくい経済状態もあって、簡素ながら、肉や魚からのタンパク質に野菜や卵などのビタミン、海藻類などのミネラル、オメガ3や6の良質脂質に乾物などから食物繊維など、いっぺんに摂れなくても、昨日今日の食べ物を思い出して欠けた栄養素をできるだけ摂取するようにしています。

でも、たまには羽目を外すことも大事ですね。

●運動

運動は…大の苦手です。手も足も出ません。長年、10キロほどの長歩きを励行してきましたが、最近は2~3キロしか歩けなくなりました。翌日足腰がひどく痛むようになったので、年齢を考えて無理はしないようにしています。

在宅時は、なるべく動き回るようにしています。周辺を片づけたり、こまめに床をふいたり、また外したりかけたりする眼鏡や、よく使うメモ帳やハサミや爪切りやハンドクリームなども、またすぐ使うからといって手近には置かないで、使ったら所定の位置に戻し、使うときに歩いて取りに行くよう心がけています。

夜のくつろぎタイムに、思い出したように軽いストレッチ運動をすることがあります。じっとしている時間が長引いたときや、たまに元気を持て余しているときは、ラジオ体操のようなことで体をほぐしています。

日本人は世界の中でも、座っている時間がとても長い国民だそうです。たとえば江戸時代、ヨーロッパでは立って読書をする机を用いていたのに、日本の武士は畳にべったり。それを思い起こすたび私は椅子を離れ、立ったままテレビを見たりしています。

とにかく、なんといっても姿勢が大事で、よくない姿勢は、脚にも喉にも悪い影響を与えることを知りました。併せて心の姿勢もなんとかしたいものです。

 

小笠原さんの新刊『財布は軽く、暮らしはシンプル。74歳、心はいつもエレガンス』(扶桑社刊)は、2月21日に発売です。