アジアカップ後、チームに合流して最初に迎えた前戦、トッテナム・ホットスパー戦でいきなりフル出場を果たした三笘薫は、今節も順当に先発を飾った。

 相手は「ブレイズ」の愛称で知られるシェフィールド・ユナイテッド。プレミアでは古参として知られるが、今季は目下、最下位で、9位のブライトンをホームに迎えたこの一戦でも、クリス・ワイルダー監督は迷うことなく5バックで守りを固めてきた。

 引いた相手にはサイドを崩せ。ブライトンは鉄則どおり、開始3分、サイドを突いた。タッチライン際に張って構えた左SBタリク・ランプティ(ガーナ代表)は、左CBルイス・ダンク(元イングランド代表)からパスを受けると、内側から外に開くように走った三笘に糸を引くような縦パスを送った。

 対峙する相手の右ウイングバックと右CBは、このランプティと三笘の連係に、いとも簡単に崩されてしまう。三笘が最深部から折り返したボールはゴール前を強襲。CKに繋がった。

 事件が起きたのはその9分後だった。三笘を危険なタックルで止めた右CB、メイソン・ホルゲイト(元U−21イングランド代表)が「一発レッド」となったのだ。開始3分、三笘のウイングプレーに翻弄された焦りから生まれた反則行為。勝負はこの瞬間に決まったも同然だった。


シェフィールド戦に先発、大勝に貢献した三笘薫(ブライトン) photo by ProSports Images/AFLO

 ブライトンに先制点が生まれたのは前半20分。ファーサイドに飛んだパスカル・グロス(ドイツ代表)のCKを、ルイス・ダンクが頭で折り返すと、ファクンド・ボナノッテ(アルゼンチン代表)がゴール前で押し込んだ。

 その4分後に生まれた2点目には三笘も絡んだ。グロスからファーポストに送り込まれたクロスボールに、三笘はスライディングシュートで反応。相手GKのファインプレーに阻まれたものの、次の瞬間、ダニー・ウェルベック(元イングランド代表)がこれを詰めた。

 5バックで守りを固める相手に対し、三笘のポジションは通常より内寄りで構えることが多かった。ライン際で大外に張って構えたのは左SBのランプティで、相手の右ウイングバックはそちらのマークにつくことになった。するとその背後は空く。三笘はそのスペースを狙っていた。内で構えながら外に流れると、相手の右CBもそれについて行かざるを得なくなる。

【完璧に相手を出し抜くフェイント】

 開始3分のシーンがそうだったように、CBはウイングバックやSBに比べると、サイドで踏むステップがドタドタしがちだ。体格の問題もあるが、巧緻性という点で、CBはSBやウイングバックに劣りがちだ。

 5人で守りながら2人がサイドにおびき出されれば、真ん中の守りは2人になる。逆サイドのウイングバックがそこに加わるケースはさほどないが、それを加えても3人だ。

 引いた相手に対してどう攻めるか。「相手が引いてしまったのでスペースがなかった」とは、たとえば日本代表が弱者相手に苦戦したとき、聞こえてくる言い訳だ。これはまさに、大外から薄皮を1枚1枚剥ぐように丹念に崩していくことで活路が見出せるとの概念が浸透していない、何よりの証拠になる。スペースがなかった、で話が完結。思考を停止させる。解決策を探ろうと、そこから先に進もうとしない。

 その点については森保ジャパンも追究は甘い。筆者がバルセロナ監督だったヨハン・クライフに話を聞いたのは、いまからおよそ30年前になるが、彼は当時からそれについて、「重要なことだ」と口にしていた。弟子のジョゼップ・グアルディオラしかり。監督になった瞬間から相手のウイングバック、SBの裏を意図的に突こうとした。大外に狙いをつける攻撃については、現地のメディアの間でさえ常識として浸透していた。

 ブライトンの左SBと左ウイングは、森保ジャパンにはないアイデアを発揮。ブレイズを翻弄した。

 三笘にこの日一番の見せ場が訪れたのは前半29分だった。ダンクのパスを大外で受けると、相手の右ウイングバック、ジェイデン・ボーグル(元U−20イングランド代表)と1対1の関係になった。三笘は例によって仕掛けた。いたぶるような動きで縦抜けの機をうかがった。カバーに入った相手のMFグスタボ・ハメル(元U−20オランダ代表)が、楽観的にも縦を切らず、カットインを警戒するポジションを取ったことも幸いした。

 三笘は次の瞬間、自慢のマジックを披露した。内に行くと見せて切り返し、縦を突いた。ボーグルの逆を100%突く圧倒的な切り返し。逆取りのアクションだった。ここまで完璧に相手を出し抜けるフェイントを持つ選手はザラにいない。まさしく絵になる、芸術の域に達するフェイントだった。

 縦突破を決め、最深部に侵入すると今度は方向を変え、ゴールラインと並行にドリブルを開始。右足でゴール前にシュート気味の折り返しを送った。結果はこれもゴールには至らなかったが。

 相手がひとりならほぼ抜ける。これが当たり前の観戦の基準になっているので、要求はおのずと高くなる。ほしいのはゴールだ。ブライトンは結果的に5−0で大勝しただけに、1点ぐらいは決めたかった。それができればスーパースターとなるのだが......。

 ブライトンの順位は、この大勝劇で9位から7位に上昇(第25節終了時点)。ヨーロッパリーグ(EL)出場圏内が見えてきた。ここからどこまで追い込めるか。そのカギを握るのが三笘のウイングプレー&得点力になる。