毎年、Jリーグではシーズンが終わりに近づくと、優勝の行方とともに「今季のMVPは誰か?」が話題になる。複数の候補選手がいて、予想が難しいこともあれば、誰もが「今季は彼で決まり!」と予想がひとりに集中することもあるのだが、昨季のJ1は間違いなく後者に当たるシーズンだった。

 ヴィッセル神戸のFW大迫勇也が手のつけられない大活躍を見せ、しかも、神戸をクラブ史上初のJ1優勝に導いたからだ。

 苦しい試合展開であろうと、前線に向かってロングボールを放り込めば、大迫が何とかしてくれる。キャリアハイの22ゴールを叩き出し、得点王を獲得した決定力もさることながら、相対するDFに手も足も出させずにボールをキープし、確実に味方につなぐポストプレーは圧巻のひと言だった。

 もしかすると、神戸が優勝を逃していてもMVPに選ばれたかもしれない。それくらい、昨季の大迫は別格だった。

 だからこそ、今季のJ1優勝の行方を占ううえでも、大迫のパフォーマンスは注目の的となる。神戸の連覇がなるか否かは、背番号10の出来にかかっている――そう言っても、決して大げさではないだろう。


昨季は別格の活躍を見せてMVPに輝いた大迫勇也。photo by Kishiku Torao

 そして迎えた、今季初の公式戦となるFUJI FILM SUPER CUP。

 新シーズン開幕の時を告げる晴れ舞台で、昨季天皇杯王者の川崎フロンターレと対戦した神戸は、しかし、0−1で敗れた。

 最少得点差での敗戦であり、決勝点も神戸にとっては不運なもの(ゴール前でのクリアボールが相手に当たり、そのままゴールに入った)だったとはいえ、相対的に見て試合の主導権を握っていたのは川崎である。結果は妥当なものだったと言っていいだろう。

 大迫個人にしても、必ずしも良好とは言い難いパフォーマンスに終始していた。前半22分に訪れた(大迫のみならず、チームとしても)この試合最大の得点機にゴールを決めることができなかったばかりか、前線で相手DFにつぶされるシーンが目についた。

「いつものような速いサッカー、速い展開に持っていけなかったことは反省」

 試合後、神戸の吉田孝行監督はそう話していたが、最前線の大迫になかなかボールが収まらなかったことは、神戸が速い展開に持ち込むことができなかった一因になっただろう。

 しかしながら、長いシーズンはまだ始まったばかり。J1のリーグ戦に関していえば、まだ始まってもいないのである。

 今年5月に34歳になる大迫が、いきなりシーズン初戦からキレキレの動きを見せていたら、むしろ、これでシーズンの最後まで持つのだろうかと心配になってしまう。シーズンを通して攻撃の軸として戦い続けてもらうためには、ここから徐々にギアを上げていくくらいでちょうどいいのかもしれない。

 連覇を狙う一方で、AFCチャンピオンズリーグという別の戦いも加わる今季の神戸にとって、それほど大迫という存在は必要不可欠なものなのだ。

 今季、神戸に新加入したFW宮代大聖も、先輩ストライカーへの信頼を口にするひとりだ。川崎から移籍してきた23歳は、「サコくん(大迫)の近くでいい関係を作ることは、もっとできる感覚がある」と言い、こう続ける。

「(自分が大迫に)合わせようとするんじゃなくて、自分は自由にやって、あっち(大迫)が合わせてくれる感覚のほうがいいと思う。自分がやりたいように、いいポジションをとって、そのなかで(大迫を)見ながらやれたらいい」

 また、大迫のパフォーマンスが気になるという点においては、神戸だけでなく、アジアカップでの惨敗で、にわかに周囲のムードが暗転し始めた日本代表も同じなのかもしれない。

 大迫の日本代表入りについては、すでに森保一監督の構想外になっているのだとか、吉田麻也らと同様、ベテランだから今は選ばれていないだけだとか、さまざまな憶測が飛び交っているが、昨季の大迫を見る限り、J1で他を寄せつけないプレーを見せていることだけは間違いない。

 いつまでも大迫頼みでいいのか、という問題はあるにしても、実力的に言えば、日本代表に選ばれても何ら不思議はない選手なのである。

 現在の日本代表のFW陣は、上田綺世をはじめとする20代半ばの選手が中心になってきてはいるが、彼らが今後も順調に成長し続ける保証はなく、ワールドカップ直前にケガをしてしまう可能性だってないわけではない。

 そんな時、国際経験も豊富で安定したパフォーマンスが計算できるベテランが後ろに控えていることは、戦略上、やはり心強いものだろう。

 まもなく新たな戦いがスタートする今季、神戸の連覇の可能性を語るうえでも、日本代表の未来を語るうえでも、"ハンパない"ストライカーはどうしても目が離せない存在となるのである。