「今、親御さんに伝えたいのは、子育ては“がんばりすぎたらアカン”ということ。ムリしない、期待しない、心配しない、それでも子どもは楽しく育ちますから!」。そう語るのは、芸人として活躍する一方、大阪市淀川区で、小・中学生向けの格安学習塾「寺子屋こやや」を開いている漫才師、笑い飯の哲夫さん。子育てに悩む親たちへ、ゆるくやさしく、ときに厳しいアドバイスをまとめた著書『がんばらない教育』(扶桑社刊)も注目を集めています。今回、哲夫さん自身の子育てについてインタビューしました。

哲夫流「がんばりすぎない教育哲学」とは?

――「子育ては、がんばりすぎたらアカン」と語る哲夫さんですが、プライベートではどのような子育てをしているのでしょうか?

【写真】ツッコミの重要さを説く哲夫さん

哲夫:5歳と3歳と0歳の子どもがいるんですけど、なるべくスマートフォンは持たせないですし、YouTubeも見せない。だって、単純に『目、悪うなるやん』って思いますし、なにかをするときに“ちょっと回りくどい方がええ”な、と。欲してる情報がすぐに手に入るんじゃなくて、「手に入らないな」って経験を子どもでもしておいて欲しいな、って思うんですよ。

――子ども自身が調べたり、考えたりする“プロセス”が大事とお考えなんですね。

哲夫:そうですね。だから“子どものほっとき方”というか、遊ばせるのも、タブレットやスマホじゃなくて、真っ白のお絵描き帳やブロックを渡します。遊び方もとくに教えないし、『これつくってみ〜』ってお手本になるようなものも与えない。正解なんてないです。もちろん、不正解だってありません。

僕も子どもの頃、親戚から説明書のないお下がりのブロックをもらって、何時間もつくっていました。ひとりで、「ああじゃない、こうじゃない」っていいながら、パトカーとか電話ボックスを何時間も夢中でつくったり。お手本になるような画像も、今みたくスマホやタブレットでパッと検索できないから、「なんかいつか、どっかで見たやつ」を頭の中で必死にイメージして。

なにかが欠けてる、たりない、時間がかかるっていうのは、“子どもが自分で考えて、工夫をする大チャンス”です。だから、親がすべてを用意するような過保護さよりも、ある種の不自由さがきっと大切だと思うんです。

子どものことは、ほめて伸ばします

――遊びや勉強も含めて、子どものやる気をさらに絶妙に刺激するような、声のかけ方などはあるのでしょうか。たとえば、ほめ方など、どのようにされていますか?

哲夫:そうですね、子どもにはなんかしらほめるというのは大事ですね。なんでもいいんです。「字がめっちゃキレイだ」とか、「うまくなった」とか。ただそこでやってはいけないのは、兄弟や親戚、子どもの友達と比べてほめること。

子どもは純粋に、親にほめられたらうれしくて、それだけで自信がつくものです。そこに比較は必要ない。そんなことより、「前よりも〇〇になった」とか、子どもの“伸び率”や成長をほめてほしいです。

僕がブロックに夢中になっていたときも、ばあちゃんが「哲夫は大汗をかきながら、何時間も黙ってブロックに夢中になってる。きっとこの子、将来賢くなるんちゃうかな〜」「上手にできてるやん」ってずっとほめてくれていたんですよ。僕の場合は大人になってから、ばあちゃんが昔を振り返って「あのときの哲夫はすごかった」とめっちゃほめてくれました。大人の僕でもほめられたことがうれしくていつまでも覚えているので、子どもだったらさらに効果があるんじゃないかな。

「字をきれいに書きなさい」じゃなくて、「字、前よりめっちゃキレイに書けてるやん」とほめられた方が、子どもはうれしくなってさらにキレイに書こうとする。大事なのは、「こうしなさい」よりも、ほめ、です。

自分で熱中して考える、なにかひとつをとことん追求する、そしてほめられることで自然と自信が生まれる。そんな楽しさを教わった気がします。

日常で使える“ツッコミ”を、子どもに覚えさせてみる

――ほめ以外、たとえば子どもがなにか失敗したときなど、効果的な励まし方などはありますか?

哲夫:子どもの励まし方…というと、状況によってさまざまだと思いますが、早いうちから「ツッコミを覚えさせる」というのもひとつの手です。

たとえば嫌なことがあったり、深刻になりそうなことも、ツッコミだったらそれを笑いに変えたり、和やかにできることもある。僕自身が、子どもに注意するときもツッコミ口調になっているかもしれません。

子どもがなにかを落としたら、「落としたらあかんやろ!」ではなくて、「なに落としとんねーん」って、失敗を“ボケ”として遊んじゃうというか。なにも難しいことはなくて、言い方や口調を変えるだけ。結構なんでもツッコミに変換できるんですよ。それに、失敗を和やかな笑いに変えることができれば、子どもは失敗することを恐れなくなります。

――子どもは、身近な大人の口調をマネしますよね。

哲夫:そう、子どもが“ツッコミ”を使えるようになれば、失敗した友達も傷つかない。失敗は尊いんですよ。人生の糧(かて)になる。場を明るく変換するツッコミを覚えてくれたら、これから培っていくコミュニケーションも、いい方向に向いてくれるんじゃないかなあとちょっと期待してます。

子どもが使う言葉や口調の、いちばんの仕入れ先は“親”である

――哲夫さんはご家庭でも日常的に自然なツッコみをされていて、それを子どもたちがマネをするのですね。子どもたちは、かなり親の言動も見ているということでしょうか。

哲夫:それはほんまにそうです。子どもは親が思っている以上に、親を見て、分析して、その言動をマネています。子どもの口調はいろんな人やものから影響を受けて形成されますが、いちばんの仕入れ先はやっぱり親です。ツッコミもしかり、親は子どもに「こんな口調になってほしい」という期待を、自分が率先して子どもにぶつけるべきだと思います。

子どもの頃、僕の友達にどことなく高圧的にしゃべる子がいて。その子の家に遊びに行ったら、お父さんが子どもにも奥さんにも高圧的な言葉を使っていたんです。家の空気がなんかもうピリピリしているというか。

ほかにも、自分から質問してるのに、相手の言葉をさえぎってずっとしゃべりまくる子もいました。案の定、その友達のお母さんに会ったら、まあ人の話を聞かないでしゃべる、しゃべる(笑)。めっちゃそっくりやん、って。親は子どもになにかを伝える前に、自分自身を振り返ってみた方がいいかもしません。

子どもが「言ってはいけない言葉」を使ったら…?

――子どもの言動を注意する前に、親は今一度自分を見つめなおすことが大切ですね。ただどこから教わったのか、いつの間にか子どもがよくない言葉や、激しい言葉を使ったときはどう注意をするのが効果的なのでしょうか。

哲夫:もし子どもが言ってはいけない言葉を使ったときは、僕の場合は徹底的に“しばき”ます。しばくといっても感情的に怒鳴るのではなくて、テンションとトーンを下げて冷静に怒る。こういうときは、さっきのツッコミはいったん忘れてください。

感情的になってもなにもいいことはないし、子どもにはなにも伝わりません。それより、いつもと違う淡々とした口調で「あ、自分は本当にいけないことを言ったんだな」とドキッとさせることが大切です。

…とまあ、僕の子育て論はこんな感じです。でももちろん、人それぞれだと思います。僕のアドバイスは、“独り言のおなら”くらいに爆笑していただけたら助かります。共感できないことや、できること、僕の本を読んだ人にも、いろんな感情を持ってもらえたら大変ありがたいです。子どもにツッコミ、教えましょ。