女優として数々の作品に出演してきた小林聡美さん。この4月に、なんと人生で初めての音楽コンサートに挑戦します。「もともと歌うことは好きだった」という小林さんの今の思い、そして50代後半を迎えて、ご自身の暮らし方や生き方について感じていることを伺いました。

小林聡美さんインタビュー。40年以上のキャリアを経た中での「初挑戦」

――俳優がコンサートをするWOWOW「NIGHT SPECTACLES」シリーズ。その第二弾の主役として、ステージに立つ小林さん。意外にも小林さん、歌い手は初挑戦。演技とは異なるジャンルのお仕事を引き受けた理由とは?

【写真】白いパンツがおしゃれな小林聡美さん

小林聡美さん(以下小林):人前で“歌手”として歌った経験がないな、それってどんな感じなんだろう…? と、具体的な想像がつかなかったからこそ、あまり考えずに前に進んでみようと思ったんです。ステージに立つまでに、できることは準備して臨もうと、ボイストレーニングにも通い始めました。人生初のボイトレは、楽しいなんて言っていられる余裕はない。そして「なんだか私、来るべき試合に備えるアスリートみたいじゃない?」と。もともとアスリートの方のようなストイックさとは、まったく無縁なタイプなんですけどね。そんな己の生活サイクルの変化も含めて、私自身がこの状況に、いちばん驚いています。

「チャッピー小林」という名の“衣装”をまとい、歌う世界にワクワクしてます

――ステージはバンド形式で、その名前は「チャッピー小林と東京ツタンカーメンズ」と、大人の遊び心が随所に光るステージですが、この個性的な名前はどこから生まれたものなのでしょうか。

小林:みんなで意見を出し合ったんですが、バンド名のツタンカーメンズは、ふっと自分の中にイメージが降りてきました(笑)。チャッピー小林は、だれかが言い出したんじゃないかな。今回、小泉今日子さんに演出をしていただくのですが、小泉さんも「チャッピーって耳に残る。軽やかだし、いいよね」っておっしゃっていましたね。そういえば昔、私のことをチャッピーってあだ名で呼んでくれた友人が2人ぐらいたんですよ。「さとみ」=「ちゃとみ」が転じたあだ名だったのかな。

ステージネームとバンド名がついたことで、小林聡美がチャッピー小林を演じる感覚で舞台に立つ、という心もちにもなれて。やや気恥ずかしくも、すてきな舞台衣装を皆さんに着せていただいた感じです。

ドラマチックな世界観とリズムやテンポに魅せられた、昭和の歌

――そんな“大型新人歌手”、チャッピー小林さんが歌い上げるのは昭和歌謡の世界。

小林:私自身が昭和歌謡の中で育ってきた世代です。昭和歌謡ってメロディーやリズムが優しい曲が多いですよね。とくにキャンディーズの3人のハーモニーが好きでした。今でも、一緒に歌ってくれる方がいれば、カラオケで歌ったりしますよ。ただし今回の公演では、私が生まれる前の、かなりディープな昭和歌謡が中心。明るい気分になったり、ドラマチックな気持ちにさせてくれる曲もあります。それに今回、ゲストとして阿部サダヲさんもご出演いただくことになりまして。新人歌手のチャッピーと、ステージ上でどんなグルーヴが生まれるのか楽しみですね(笑)。

等身大の自分でいられる50代。小学生時代の友人と“再集合”の機会も!

――10代で女優デビューをしてから、執筆業、そして45歳のときには日本文化を学ぶために大学へ通うなど、フィールドにこだわることなく、活動をしている小林さん。30代、40代、50代と時を重ねて、気がついたこともたくさんあるのだとか。

小林:その年代ごとに、いろいろな方々の中で成長させていただいたと思います。そんな中、大人になるにつれて、いい意味で気疲れすることがなくなりました。若い頃は「私は気が利かないなあ〜」、「見当違いなことを言って空回りしてしまった」なんて落ち込んだり…。もちろん今でもそういう気持ちになることはありますけれど、その上で「まあ、等身大の自分でもいいよね」と感じられる余裕が出てきました。

人づきあいの面でいえば、50代を過ぎると、友達づきあいにもまた楽しい変化が生まれてきて。40代で通った大学の同級生たちとは、親子ほど年齢が離れていますが、知り合ってから15年近くを経てもいまだに交流がありますし、さらにさかのぼると、お仕事を始める前の、小学校からの同級生たちとも、いまだに仲がいいんです。

――同い年の同級生たちは、人生の様々な波を経験し「再集合した感がある」とも。

小林:子育てに忙しかった人、仕事に夢中だった人…。それぞれが忙しく疎遠になっていた時期を経て、50代なってまた自然と集まれるように。小学校の頃の文集をいまだに持っている人がいて、みんなでながめては「こんなこと書いてる!」なんて盛り上がったりもしましたね。ちなみに私は“将来の夢”を「カメラマンになりたい」と書いていました。世界を駆け巡って写真を撮りたかったようです(笑)。そんな幼い頃の夢や、たわいもない昔話を語れる仲間たち…。時間が醸す人間関係っておもしろいなと思いますね。

父から学んだ「手放さないもの」

――さらに小林さんは、3年前にお父様を看取った経験からも、「大事にするもの」の見極め方を学んだそう。

小林:自宅療養をしていた父でしたが、ほんの短い期間だけ病院でお世話になるつもりで慌ただしく準備して入院したのですが、結局そのまま病院で息を引き取ったんです。入院前に父が自宅から持っていったのは、身の回りのわずかなものだけ。もともと、必要以上のものは持たない父でしたが、それでもこの世を去るときに手元に置けるものってすごく少ないのだな、と実感。同時に、親しくしていた方々には、悔いのないように挨拶していた父の姿も見ていて。「ものは手放すのが必要なこともあるけれども、友情やお世話になった関係は簡単に手放してはいけない」というのもあらためて教えられた気がします。

――そんな“見極め上手”な小林さんが唯一、悩んでいることと言えば…。

小林:猫です。25歳ぐらいから猫と一緒の生活を続けていて、今も一匹と同居中。この猫が最後なのか? と。 私が先か、猫が先か、という年齢が、いつかは必ずやってくるんですよね。猫を愛し、慈しむ気持ちを手放さず、彼らといつまでも元気で一緒にいられる暮らし方を、自分なりに考えたりします。

<公演情報>

小林聡美 NIGHT SPECTACLES チャッピー小林と東京ツタンカーメンズ

日程:2024年 4月6日(土)、7日(日)1日2回、全4公演
場所:横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール
チケット情報はイベント公式サイトへ

出演:小林聡美、東京ツタンカーメンズ
ゲスト:阿部サダヲ
演出:小泉今日子
制作協力:大人計画/モチロン
企画・製作・主催:WOWOW

公式サイト:https://www.chappy-kobayashi.com