河村勇輝が「苦しむことを望んでいた」と言える理由 バスケW杯の映像は「恥ずかしくて見ない」
河村勇輝インタビュー前編
2022-23シーズンのBリーグでは横浜ビー・コルセアーズを率いてクラブ初のチャンピオンシップに進出。その後、男子日本代表チームの一員として出場したFIBAバスケワールドカップでも大きな躍進を遂げた。河村勇輝は今や、この国を代表するバスケ界の「顔」の筆頭格となった。
進化を続ける22歳のポイントガードは、休む間もなく2023-24シーズンに入り、さらなる高みを目指して精進を欠かさない。インタビュー前編では、今シーズンのBリーグでの苦闘ぶりや、ワールドカップ後の環境の変化、注目必至なパリオリンピックへの想いを聞いた。
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河村勇輝にバスケW杯後の心境を聞いた photo by Kai Keijiro
── まずは、今シーズンについて。ここまでなかなか思うような成績が残せていない(17勝22敗/2月13日時点)状況ですが、率直にどう感じていますか?
「......苦しいですね。昨シーズンは天皇杯でもチャンピオンシップでもベスト4という、クラブとして本当にいい結果でした。もちろん、最終的には悔しい気持ちで終わりましたけど、当初に掲げていた目標以上のものを達成できたというところで、すばらしいシーズンになったんじゃないかなとは思うんです。
だけど、今シーズンは『優勝』という、もう1個上の目標を掲げて始まったシーズン。なので今、そこからは程遠い結果になってしまっているので、本当に苦しいですね」
── これまでも自身の成長に関して、悩んできた時期はあったと思います。しかし、今の苦しみはまた別種の悩みなのではないかとも推察します。
「そうですね。どうすることがチームにとってベストなんだろうと、常々そう考えてプレーしています。だけど、僕が30点取って勝つ試合もあれば、30点取っても勝てない試合もあって、『どういうチームの勝ち方が今シーズンのビーコルなんだろう』というところが定まってなくて、それが一番苦しいところです。
昨シーズンは勝ち方が典型的だったんですけど、今シーズンは勝っている試合でも形が定まってなく、同じ勝ち方じゃない試合のほうが多い。チームとしてどうすれば勝てるのか、そういうところが見えてこない」
── 今シーズンはより、自他ともに認めるチームのエースとなった河村選手ですが、シーズンでの戦いぶりで苦悩する一方、Bリーグのハイレベルな試合のなかでやれることが「楽しい」とも口にしています。
「その気持ちは本当にあります。『苦しむことを望んでいた』というのもおかしいかもしれないですけど、シーズンが始まってそう簡単にいくとも思っておらず、そのなかで『どれだけ自分たちはできるんだろう』『簡単にはいかないシーズンだろうけど、それを乗り越えてこそ優勝できるのではないか』という期待感を持ってシーズンに入りました。
なかなか結果がついてきていない苦しさはあるものの、最初からそういった可能性があるなか、どれだけできるかっていう楽しさの部分も僕のなかにはあったので。苦しさのなかでチームが勝つために何ができるのかを考えながら日々を過ごすのは、自身の成長にすごくつながっているなと思っています」
── 今シーズンは昨夏のワールドカップでの日本代表の活躍によって、Bリーグ全体の観客数も増えています。そうした盛り上がりは感じていますか?
「本当に感じていますね。ホームの試合も毎回、満員のなかでプレーできていますし、僕たちの試合だけでなく、どこの会場でもたくさんのファンの方々が足を運んでくれているのを見ています。新規の方々も絶対にたくさんいらっしゃると思うので、だからこそ熱い試合を繰り広げて、バスケットボールの魅力をBリーグで感じてもらえればいいなと思っています」
── 河村選手は今のバスケットボール人気の中心人物です。街を出歩くにしても周囲に気づかれて大変ではないですか?
「いや全然、そんなことはないですね(笑)」
── 本当ですか?
「はい。本当に全然。身長の大きな選手と歩いていたら気づかれることもあるんですけど、ひとりで歩いていたら、マスクをしなくても全然気づかれないですし。(身長208cmの)ジョシュ・ホーキンソン選手(サンロッカーズ渋谷)と話したら、彼は『大変だ』って言っていましたけど(笑)。それに比べたら、息苦しいことは一切ないですよ」
── ワールドカップの試合映像を振り返って見たりしますか?
「いやぁ、特に(大逆転を演出した)フィンランド戦などはあまり見ていないですね。なんか、ちょっと恥ずかしくて......(苦笑)。どちらかというと(見るのであればオリンピックを考えて)ドイツ戦やオーストラリア戦のほうを見ますね」
── 今夏にはオリンピックが待ち受けています。河村選手は東海大学を離れてプロに転向した際、「パリオリンピックで日本を代表するようなポイントガードになることが目標」と言っていました。ワールドカップはすでに経験しましたが、オリンピックに臨む気持ちとはまた違ったものでしょうか?
「そうですね。オリンピックというのは、本当にワールドカップとは別なもの、異なるものだと思っています。同じ期間にバスケットボール以外のほかのスポーツもひとつの場所に集まるので、バスケットボールというだけでなく、日本というチームの一員として戦いに行かないといけない部分もある。また違った緊張感があるのではないかと思っています」
── 32チームが参加するワールドカップと違い、オリンピックはわずか12カ国しか出場できないため、より厳しい戦いが予想されます。河村選手はその舞台で何を見せ、何を成し遂げたいと考えていますか?
「トム(・ホーバスHC)さんに求められるハイレベルなプレーをしたいなと思っています。世界に僕の存在を見てもらいたいというより、とにかくトムさんに求められることを遂行する。トムさんが掲げる目標はまだわかりませんが、その目標に対して見合った『最高水準レベル』でプレーがしたいなと思っています」
── 河村選手にワールドカップの話を聞いていると、自身は「まだまだ課題が多い」と感じているように思えます。
「はい。課題しかないと思っています。ドイツやオーストラリアには大敗して、まったく何もできなかったという悔しい思いがありますし。オリンピックはその2チームのような高いレベルの国しかいない大会になると思っています。逆に楽しみでもあるんですけど」
── 河村選手が足りていないと感じていることは何ですか?
「1対1で抜ききることは、ドイツ相手にもオーストラリア相手にもできると思っています。実際にできた部分も多かったとは思うのですが、やはりその後の判断が今の僕には一番必要なことかなと思っています」
── ワールドカップ期間中も、ドイツ選手の「バスケIQ」について語っていましたね。
「そうですね。ディフェンスの駆け引きなどはうまかったなと思いました。あと、抜き去ったあとのフィニッシュの精度や相手のヘルプが来た時の一瞬の判断力は、今後さらに磨きをかけていかないといけないです」
(後編につづく)
◆河村勇輝・後編>>渡邊雄太からもらった「すごく参考になる」アドバイス
【profile】
河村勇輝(かわむら・ゆうき)
2001年5月2日生まれ、山口県柳井市出身。柳井中時代に全中ベスト16となり、福岡第一高ではウインターカップ2連覇を含める全国大会のタイトルを4度獲得する。高校3年時の2020年1月に特別指定選手として三遠ネオフェニックスに加入し、当時のB1史上最年少出場記録(18歳8カ月23日)を更新。2020年4月から東海大に進学するも2022年3月に中退。大学在学時から特別指定選手としてプレーしていた横浜ビー・コルセアーズとプロ契約を結ぶ。2022-23シーズンはBリーグMVPや新人賞を受賞。2022年7月にA代表デビューを果たし、2023年のFIBAバスケワールドカップでは司令塔として日本代表のパリ五輪出場権獲得に貢献した。ポジション=ポイントガード。身長172cm、体重72kg。