Cebu International Academyのキャンパス(筆者撮影)

ようやく自由に海外に渡航できるようになり、留学業界に活気が戻ってきています。

2023年に実施されたオーストラリアやニュージーランド、カナダの大使館主催の留学フェアの会場には、これから留学をしようとする学生や保護者であふれかえっていました。

岸田政権も「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ」の中で、日本人学生の派遣者数を2033年までに50万人(コロナ前22.2万人)にするという計画を打ち出しています。これから官民一体となって盛り上げていこうという機運が高まってきているのですが、これらは海外の初等中等教育機関や高等教育機関への留学が念頭におかれた奨学金や学習支援がメインとなります。

フィリピン・セブ島への留学が奇跡的に復活

一方で、日本ならではの留学事情として、学生・社会人ともに大学ではなく語学学校へ留学する人が多いのも特徴の一つです。この要因として、非英語圏の中でも英語力が低いというのが挙げられます(EF EPI英語能力指数<2023年版>によると日本の順位は113カ国・地域中87位)。

海外の語学学校の中でもフィリピンは日本からも比較的アクセスが良く、リーズナブルに英語学習ができるデスティネーション(旅行先)として近年渡航者が増加傾向にありました。

コロナ前の2019年では、留学者数6950名(「一般社団法人海外留学協議会(JAOS)による日本人留学生数調査2019」調査レポートより)とアメリカ、オーストラリア、カナダに次いで第4位の人気国となっていたほどです。ただ、2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大、2021年12月にフィリピン中部地域を襲った台風22号「ライ」(フィリピン名:オデット)の甚大な被害により、現地の語学学校もほとんどが閉校する事態となっていたのです。

ところが、今また関係者の中でフィリピン・セブ島への留学が奇跡的に復活したと聞き、実情を探るため4年ぶりに現地に赴きました。

大変化を遂げたセブ・マクタン島の学校

一口にセブ留学と言っても大きく2つのデスティネーションに分かれます。セブの中心街であるセブシティと、空港も位置しているリゾート感もあるマクタン島です。

特に2021年の台風の影響が甚大だったエリアの一つがマクタン島です。海に面したリゾートエリアは、ほぼ壊滅状態となってしまいました。

しかしながら、現地入りして驚きました。ここの語学学校が見事に復活していたのです。しかもパンデミック前にはなかったメガ級の豪華なキャンパスがそこにはありました。

中でも一際目を引くのがCebu International Academy(CIA)です。

セミスパルタ式の韓国資本の語学学校として知られる同校では、リゾートホテル並みの施設を誇ります。キャンパス内には、ホテル並の学生寮、お洒落なプール、学生寮、スポーツジム、ビリヤード台、そしてなんとカラオケルームまであります。食堂も自前のシェフが作った、留学生の宗教や文化に対応したものが3食提供されています。


Cebu International Academyの寮(筆者撮影)

今までフィリピン留学というと、スパルタ式でとにかく詰め込み型の教育と、食生活や滞在は我慢を強いられるイメージがありましたが、ここはそのイメージを覆すものでした。

同じくマクタン島にあるPhilinterは、とにかく真面目に英語学習に取り組みたい人向けの老舗校。通常の一般英語に加えて、会話力を伸ばすためのIntensive Power Speaking、IELTS、TOEICなどの試験対策、ビジネス英語などのコース、生徒一人につき担任の先生が一人つくバディ・ティーチャー制度には定評があります。ここの経営者、崔仁(チェ・イン)氏はフィリピン留学がまだ始まっていない頃からのパイオニア的存在です。そんな崔氏もコロナと台風により学校が壊滅的な被害を受け、一時は閉校しようかと真剣に考えていたと当時の心情を話してくれました。

しかしもう一度だけやってみようと決断、学校施設や寮を新たに建設して、日本人を最大のターゲットとして学校を現在再開しています。

コロナ前と現在変わったこととして、今回訪問した学校の多くが韓国人ではなくて日本を第一優先としたマーケティングを行っていることを感じました。同時に台湾やサウジアラビアなどの国の留学生も増えているそうです。

セブシティの学校も独自の進化が

一方、セブシティの学校も独自の進化を遂げています。

中心部のビジネス街ITパークに位置するQQEnglishは、コロナ前からオンライン英会話の最大手の一つ。対面でも授業を実施し、セブ留学の中でも最も人気のある語学学校の一つでしたが、パンデミックから現在に至る変遷をCEOの藤岡頼光氏は次のように話してくれました。

「実質的に世界で一番長いロックダウンがあったのがフィリピンではないかと思います。パンデミックになり常時500〜600名いた留学生は1週間以内に帰国せざるを得なくなり、本当に大変でした。ただ我々にはオンライン留学がありました」


QQEnglishのオフィス(筆者撮影)

パンデミックの間に同校のオンライン英会話は実に以前の4倍の規模になったと言います。正社員として雇用していた1800名以上のフィリピン人講師を空いた学生寮を活用しながら共同生活をして、先生のトレーニングをしながら品質管理を整え、この難局を乗り越えたと言います。

現在はオンライン英会話、現地対面での授業ともに同じ教材で継続学習することができます。同校のその豊富なリソースを活かして1日単位で留学を調整できるように、よりフレキシブルに、よりリーズナブルに英語学習の機会を提供するように進化を遂げたということです。

特徴のあるコースを設けているのが、人気校のEV Academyです。フランス人・韓国人がオーナーの同校は常に受け入れの定員に達している語学学校。ソーシャルメディア運用で必要なカジュアルな英語を学ぶ専門コースは今の時代ならではのコースです。その他、IELTSのスコア保証のコース、初級から受講可能なビジネス英語コースなど実践的でフィリピンらしいフレキシブルな授業のラインナップを揃えています。

セブシティにおいてもリゾート感のある学校は人気です。

Global Language Cebu(GLC)も日本人経営の語学学校。入るとプールとオープンカフェが目の前に広がり、こちらもリゾートホテルの雰囲気です。コロナ明けのオープン後、日本人を中心に留学生も増えてきており、来年はさらに受け入れ人数を拡大するとのこと。ジェネラルマネージャーの都地志保氏は、日本の学生はオーストラリアのワーキングホリデーの前に英語を学習するために「2カ国留学」として来ている人も増えていると言います。

また今後はIELTS対策や親子留学にも力を入れる予定と言い、今後、セブ留学の可能性として注目すべきは、親子での留学です。

とことこあーす株式会社(本社:大阪府大阪市)は「EARTH留学」として、セブ島での親子留学を提供しており、今回実施先の学校を訪問しました。

同社が提供するのは、子供と同年代のフィリピン人の子供をバディとして一緒に英語で遊んだり、現地校の体験入学や孤児院の訪問をしたりと、学びと体験を組み合わせたオーダーメイドプログラム。現地のホテル内に学習施設や子供の遊び場、プールがあるため、安心して親子で過ごすことができます。

同社、代表取締役CEOの戸田愛氏は次のように話します。「EARTH留学は、私自身の子供たちとの世界一周経験から生まれました。親子での海外体験が子供の成長にどれほど影響を与えるかを目の当たりにし、観光や座学ではなく実際の交流体験を通して、自己肯定感や好奇心を育むカリキュラムをお子様に合わせて届けています。親子で海外体験できる時間は限られているからこそ、EARTH留学でお子様の未来の可能性を感じていただき、親子時間を楽しんでいただけたらと思っております」。

こちらも渡航前のオンラインでの顔合わせと現地での対面を組み合わせたハイブリッド型の仕組みで、フィリピン留学の良さを十分に活かした作りとなっています。海外進学や海外移住のニーズが高まりつつある中で、親子留学の選択肢の一つになりそうです。

日本の学校法人のフィリピン進出の動きも

また新しい動きとして日本の大学・専門学校などの学校法人もフィリピンに進出を始めています。

マクタン島に位置するラプラプセブ国際大学(LCIC)は、2021年に設立されたばかりの日本資本の株式会社立大学。外国語学部、ツーリズムマネジメント学部、理学療法士学部があり、3年生までで現在約500名のフィリピン人大学生が学んでいます。2024年8月から新しく工学部も開学するということです。またここは日本人の留学生の受け入れも積極的に行っており、4週間および18週間で英語を学ぶことができます(IELTS 5.5のスコアがあればフィリピンの授業の聴講も可能ということでした)。


ラプラプセブ国際大学の大浴場(筆者撮影)

同校のユニークな点は留学中の生活環境にあります。フィリピン人学生と日本人留学生が同じ居住スペースに滞在するのです。しかも学内にある滞在施設の最上階には大浴場があり、なんと露天風呂やサウナまで完備されています。和気藹々としたいわゆる昭和の日本式コミュニケーションで、日比の学生交流を促す仕組みです。食事も日本人シェフが監修したメニューが並び、学内施設のトイレはTOTOの最新式のもの、エアコンは東芝製とMade in Japanへのこだわりを感じます。

セブ島からフェリーで約2時間のところにリゾートとして有名なボホール島があります。円錐形の丘が1000個以上も連なる「チョコレートヒルズ」の絶景や世界最小のメガネザルの「ターシャ」などの観光資源が豊富な島ですが、ここでフィリピン人が日本語を学んでいます。

学校法人青池学園(本部:福井県三方郡美浜町)が運営するAoike International Academy Philippines Inc.(以下AIAP)では、約70名のフィリピン人学生が日本語を学習していて、卒業後彼女たちは日本での就労を目指しています。彼女たちの中にはすでに国内で学位を習得している学生もおり、家族を助けるために懸命に学んでいる姿がありました。


Aoike International Academy Philippines Incのフィリピン人学生(筆者撮影)

同校も親子留学の受け入れを行っており、比較的治安も良く観光資源が豊富でコンパクトにアクティビティも満喫できるボホール島は、知られざるフィリピン留学の穴場と感じました。青池学園理事長の青池浩生氏は次のように言います。

「AIAPではタガイタイ校、ボホール校の2校で英語留学プログラムを提供しています。ボホール校はリゾート地ならではの観光資源を活かしたアクティビティ中心の英語教育プログラムが特徴です。リゾートで治安が良いこともあり、親子留学や教育機関向けの研修旅行などのニーズにも対応しています。両校とも日本人スタッフが常駐しており細かなご要望にもお応えでき安心して学べる環境を提供しています」

今後のフィリピン留学の役割は

現在の海外留学にとっての懸念点として円安に伴う留学費用の高騰が挙げられます。授業料、生活費、航空運賃・燃油サーチャージが未だかつてない水準で推移しているため、特に欧米への留学を希望する学生にとっては留学予算の確保が大きな壁となっているのです。政府が目指す留学派遣者数50万人を達成するためには、奨学金の充実はもちろん費用対効果の高い留学先の確保が必要となるでしょう。

その意味で、フィリピンは英語学習に関して高い可能性を持っていると今回感じました。従来のスパルタ式マンツーマンレッスンから、セミスパルタ式や試験対策コース、ビジネス英語コースなどより柔軟性の高いカリキュラムへと進化を遂げ、学生間交流の仕掛けや生活環境のアップグレードのための投資で日本人の受け入れを急ピッチで整えています。


*各学校の最も代表的なコースを抽出 *1ドル=140円で計算 *とことこあーす、LCICやAIAPは授業料・滞在費などもプログラム費用に含まれる

今回特にセブ島において特徴的だったのは、日本を意識した学校づくりを積極的に進める日本および韓国系語学学校の姿でした。訪問した学校の多くはコロナ前の学生数の水準に戻りつつあり、2024年はそれ以上の受け入れ人数になりそうということでした。今後はセブ島以外の留学先であるバギオやタガイタイ、ボホール島などにも特徴的な学校があり注目です。

日本からもアクセスが良くコストパフォーマンスの良い留学先として、フィリピンはさらにその役割を担うことになると思います。

(大川 彰一 : 留学ソムリエ 代表取締役)