軍用工場で新型ICBM「火星18」の発射台付き車両(後方)を視察する、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記(中央左)と娘(同右、配信元が画像の一部を加工しています)(写真・朝鮮中央通信=共同)

「大陸間弾道ミサイル(ICBM)をはじめとする多様な挑発で軍事的緊張が高まるだろう。緊張緩和のための手段が適当ではないため、当面は状況が改善することを期待できない。危機管理に集中すべきだ」

2024年・新年を迎えたが、南北関係は依然としてガチガチに凍りついたままだ。2024年1月5日には、黄海上の韓国と北朝鮮の海上での国境となる「北方限界線」(NLL)の北側で、北朝鮮が200発以上の射撃が実施されたことから見てもわかるように、2024年も2023年に劣らず、緊張が高まるだろう。外交安保分野の専門家らは、状況をどのように見ているのか。

韓国・東国大学北朝鮮学科の金榕荽(キム・ヨンヒョン)教授は「北朝鮮はアメリカのバイデン政権が『北朝鮮政策が失敗した』と思わせる方向へ動く可能性が高い。ICBMをはじめ多様な手段を活用して、軍事的脅威を加えるだろう」とみる。ただ、「核実験の可能性は高くない」と予想する。

核実験の可能性は高くないが…

韓国・外務省の高官A氏は、「金正恩総書記としては、2024年11月に行われるアメリカ大統領選挙で、バイデン大統領よりはトランプ前大統領の当選を願っているだろうが、バイデン政権に政治的な打撃を与えるためにICBMの試験覇者を続けると思う」と打ち明ける。しかし、「7回目となる核実験の可能性は高くないだろう」とも述べた。

韓国海軍の黃基鐵(ファン・ギチョル)元参謀総長は「2018年に南北間で合意され、軍事的緊張の緩和を狙った『9.19軍事合意』という安全装置がなくなり、北朝鮮が繰り出す挑発カードがとても増えた。2024年4月に行われる韓国の総選挙と11月のアメリカ大統領選挙もある。核実験までは行かないまでも、ICBMの発射などで国際社会の関心を惹くことを続けるだろう」という。

黄氏の取材は1月3日に行ったが、その2日後に「9.19軍事合意」で禁止されていた黄海上での射撃が行われた。

韓国・国防省のヨ・ソクチュ元政策室長は「北朝鮮は今がチャンスだと考え、非対称軍事力を強化しようとさらなる努力を重ねるだろう」と予想する。国防大学の権容守(クォン・ヨンス)名誉教授も同様に、「彼らはICBMをはじめSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の試験発射、極超音速ミサイル開発に集中するだろう」とみる。

韓国政府傘下のシンクタンク・統一研究院の朴泂重(パク・ヒョンジュン)研究委員は「ICBMや中距離弾道ミサイルの実験など、北朝鮮ができることはすべてできる状況になった。北朝鮮がどんな目的でいつ行うかといった程度が変数となるだろう」という。

こうしてみると、南北関係の今後もやはり明るくはない。前出の黄氏は「全般的によくならない可能性が高い」、ヨ氏も「暗鬱なシナリオ」と表現する。

5年から10年は緊張状態が続く

国際政治学会会長で韓国カトリック大学のマ・サンユン教授は「南北関係だけでなく、全般的に2024年の国際情勢がそれほど楽観的になれない」と指摘する。統一研究院のパク氏は「北朝鮮と中国、ロシアが一緒になったのは1950年代以降、初めてのことだ。北朝鮮としてはとても大きな力になるだろう。南北間は少なくとも、5〜10年は現在の状況が続くと思う」と打ち明ける。

前出の外務省A氏は、「2023年末に開催された北朝鮮の重要会議の一つ、朝鮮労働党中央委員会総会で見たように、状況が良くなるとはいえないだろう」という。「4月の韓国総選挙が終わった後から、アメリカ大統領選挙まで最悪の状況が続く。政権基盤が定まらない間に軍事挑発を行う可能性がいちばん高い時期になる」と予想する。

東国大学の金教授は「南北間が力と力で対抗する構図が相当期間続く。とくに偶発的、突発的な状況に陥る可能性が怖いが、そんな現在の局面を突破するカードが見えないのが心配だ」という。

朝鮮半島の平和と緊張緩和は、何物にも代えがたい重要なことだ。このために何をすべきか。

金教授は「危機管理、朝鮮半島平和のための管理がとても重要だ。このために、南北間が公式、非公式の対話チャネルを復旧すべきだ」と提案する。外務省のA氏は外交の経験を基に次のように苦言を呈する。「少なくとも外交安保分野では国論を統合したうえで、長い呼吸を保つ政策が必須だ。それがなくては何もできない。長期的な視野を持つ外交安保政策を行わない国に、どこの国が真摯に対話をしようと思うか」。

統一研究院の朴氏は「北朝鮮が態度を変えるまでは、韓国がどんなメッセージを出しても影響は大きくないだろう。予想できる多様な挑発可能性に備え、準備すべきだ」と指摘する。

元海軍参謀総長の黄氏は「安保の要は国民統合であり、国民統合において核になるのは政府への信頼だ。政府が平和のために努力することを国民にしっかりと見せなければならない。これが国民統合のためにも重要なことだ」と述べた。

この延長線上で、黄氏は「韓国の申源苾(シン・ウォンシク)国防相は発言を慎重にすべきだ。真に実力がある者の発言は控えめなのがつねだ。韓国の国防力が強力なことは、北朝鮮を含めて世界が知っている。北朝鮮に強硬な発言をしたからと言って、彼らが恐れるものだろうか」と付け加えた。

(ソウル新聞)