ロサンゼルスのプレミアで撮影に応じる山崎貴監督(左)と主演の神木隆之介さん(写真:REX/アフロ)

毎日が週末のように繁盛するクリスマスから正月にかけてのホリデーシーズンも終わり、北米の映画館も落ち着きを見せた。2023年最後の週末を制したのは、家族でホリデーを祝うのにふさわしいミュージカル映画『ウォンカ』。だが、その陰では、『ゴジラ-1.0』が、地道に数字を伸ばし続けた。

西海岸時間1月2日時点での北米興収は、4670万ドル。日本での興収3200万ドルを大きく上回っている。円建てである日本でのチケットの売り上げは、円安の今、ドルにすると安くはなるが、だとしても立派である。ちなみに、アメリカは日本より映画館のチケットがずっと安いと今も信じている人は多いようだが、もはやそうではない。

どの都市か、どの映画館か、週末か平日の昼かなどによって大きく変わるが、2023年におけるアメリカの映画館のチケットの平均価格は10ドル53セント。割引サービスなどが多い日本のチケット価格は平均すると1410円で、ドル換算にすると約10ドル1セントと、ほぼ同じである。

公開から時間が経っても健闘

4670万ドルというここまでの北米興収は、3位でデビューした公開初週末の売り上げ1100万ドルの4倍以上。これはかなり良い推移だ。2308スクリーンでデビューした後、2週目には2540、3週目には2622と公開規模を拡大。話題作が多数公開されるクリスマス直前の週末にはスクリーン数も減り、トップ10圏外の11位に転落したが、大晦日の週末でもまだ12位にとどまっている。

特筆すべきは、『ゴジラ-1.0』は、宣伝広告にあまりお金を使わずしてこの快挙を達成したことだ。テレビスポットがないのはもちろん、街でポスターや看板広告を見ることもなかった。これらを考慮すると、ほかの作品からしたら羨ましすぎる利益率だ。

宣伝をしていないため、この映画の存在すら知らないアメリカ人がたくさんいるというのも事実。もともと「ゴジラ」が好きな人と、彼らから口コミを聞いた人たちが観に行った、静かなるヒットといえる。

さらに注目すべきなのは、Rottentomatoes.comおける批評家の数字が公開時より上がっていることだ。公開時も批評家が97%、観客の98%が褒めていたが、現在は批評家が98%、観客は98%のまま。

通常は滑り出しが非常に良くても、批評が増えていくにつれてネガティブな評も交じってくるため、やや数字が下がってくる。事実、100%を獲得した映画のほとんどは、批評の絶対数が限られている。『ゴジラ-1.0』の場合、絶対数が増えたのに点数が上がったということは、追加された評がほぼすべて良かったということになる。

当然だが、批評家たちが投票するアワードでも健闘している。ラスベガス映画批評家協会からは最優秀外国語映画賞を受賞、サンディエゴ映画批評家協会からは視覚効果賞を受賞し、外国語映画部門では『The Zone of Interest』と並んで次点だった。

600人以上の批評家、映画ジャーナリストを会員を抱える放送映画批評家協会(Critics Choice Association)からも、外国語映画部門にノミネートされている。

アカデミー賞はどの部門で獲れる?

投票者はまるでかぶらないものの、今月14日に発表される放送映画批評家協会賞はアカデミー賞を予想するうえで指針のひとつとなる賞だ。だが、残念ながら『ゴジラ-1.0』の場合は、そこにつながることはない。

アカデミー賞の国際長編映画部門は、各国がそれぞれ1作品をエントリーするルールで、日本はヴィム・ベンダース監督、役所広司主演の『PERFECT DAYS』を選んだからだ。業界サイトDeadline.comのコメント欄には、「日本はアカデミー賞に『ゴジラ-1.0』をエントリーするべきだった。冗談を言っているんじゃないよ。あれは今年最高の映画のひとつだ」という書き込みも見られるが、もう遅い。

もちろん、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が作品、監督、脚色部門でもアカデミー賞に候補入りしたように、外国語映画であってもその他の部門への資格はある。とはいえこれらメジャーな部門の候補になるのは難しいが、視覚効果部門に関してはかなり現実味がある。

アカデミー賞のいくつかの部門では、“ショートリスト”という、ノミネーションのためのノミネーションが発表されるのだが、『ゴジラ-1.0』は、視覚効果部門のショートリスト10本に入ったのだ。

ショートリストの選考を行ったのは、この部門の会員で構成された特別委員会。ノミネーションの投票はこの部門の会員全員が行い、10本から5本に絞られる。

視覚効果で超大作と肩を並べる

ショートリストに並ぶのは、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(製作費2億9400万ドル)、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE』(製作費2億9100万ドル)、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.3』(製作費2億5000万ドル)、『ナポレオン』(製作費2億ドル)など、ほとんどがハリウッドの超大作。製作費1500万ドルと言われる『ゴジラ-1.0』がそれらと肩を並べたということにも、この部門の投票者は素直に感心するのではないか。

映画の宣伝広告同様、アワードキャンペーンに関しても、『ゴジラ-1.0』はほとんど何もやっていない。それでもちらほらと引っかかってきているというのは、作品の力だろう。

そもそも、アワードにかかるよう努力する目的は、それによって作品の知名度が上がり、見てくれる人が増えて興行成績を上げるため。すでに興行面で成功している『ゴジラ-1.0』の場合はそのモチベーションは低いだろうが、映画のレガシーのためにも健闘を祈りたいところだ。

(猿渡 由紀 : L.A.在住映画ジャーナリスト)