クラウン4兄弟の次男と三男である「スポーツ」と「セダン」がついにデビュー。ショートボディでSUV風スタイルのスポーツと、大本命ともいえるセダンが、クラウン全体のイメージに与える影響を、従来のクラウンとは「まったく別のクルマ」と評する筆者がレポートしていく。

 

■今回紹介するクルマ

トヨタ クラウン

セダン 価格:730万〜830万円

スポーツ 価格:590万〜765万円

 

デザイン第一のクラウンスポーツ

クラウンが「クラウンクロスオーバー」に生まれ変わって約1年半。SUV風になるなんてビックリ仰天したが、早くも街でしょっちゅう見かけるようになった。

 

2023年の販売台数は、約4万台。先代末期は年間2万台前後だったから倍増! と言いたいところだが、先代のピーク時には約5万台売れていたので、「微減」とも言える。クラウンの大変身は、いまのところ大成功とまでは言えない。

 

が、クロスオーバーだけで現在の16代目クラウンを語ることはできない。現行型クラウンは、4モデルへの分化が決まっている。今回は、クロスオーバーに続いて登場した「スポーツ」と「セダン」に乗ることができた。

 

クラウンスポーツは、クラウンクロスオーバーに対して、文字通り「よりスポーティ」という位置づけだ。クロスオーバーもデザイン優先で作られたが、スポーツはさらにカッコ第一。グラマラスで速そうであることを、なによりも優先して作られている。

↑クラウンスポーツ

 

「コ」の字型の薄目ヘッドライトはクロスオーバーと共通のイメージだが、ボディはコンパクトかつ豊満。特にリアフェンダーのグワッとしたふくらみは、一瞬「くどすぎないか?」と思ったりもする。

↑ヘッドライトを薄くすることで、よりシャープで精悍な表情を実現したといいます

 

↑リアフェンダーのふくらみは、スポーツの1番の特徴。大きいタイヤの存在感を高めるうえに、ダイナミックで低重心な印象を与えるとうたっています

 

ところが、実際に走っているクラウンスポーツを斜め後ろから見ると、迫力満点でカッコいい。発表当時からフェラーリの新型SUV「プロサングエ」に似ていると評判だったが、クラウンがフェラーリと比較されるだけで驚天動地だ。

↑ボディサイズは全長4720×全幅1880×全高1565mmで、車両重量は1810kg。またボディカラーは、モノトーンカラー6色とバイトーンカラー5色を用意しています

 

インテリアもスポーティ&ゴージャスで、従来のクラウンのようなおっさんくささは微塵もない。従来のクラウンファンには異世界なので、なじめないかもしれないが、それは仕方ないだろう。

↑包まれるような感覚を意識したコックピット

 

エンジンはグッと洗練、しかも燃費は21.3km/Lでかなりエコ

パワートレインは、クロスオーバーにも採用されているFFベースのエンジン横置き2・5Lハイブリッドだ。クロスオーバーでは、特にスポーティでもなく、かといって高級なフィーリングでもなく、インパクトに欠けたが、スポーツに積まれたソレは、1年半の熟成の成果なのか、ぐっと洗練されてスポーティだ。ハンドリングも明らかにスポーティなので、今どきのエリートにピッタリな雰囲気である。

↑スポーツ Zグレードのパワーユニットは2487cc直列4気筒エンジン+モーターで、エンジン最高出力は186PS/6000rpm、エンジン最大トルクは221Nm/3600-5200rpm。

 

それでいてWLTCモード燃費は21.3km/Lと良好で、実燃費でも16km/L前後は走るから、かなりエコ。システム最高出力は234馬力なので、加速がそれほど凄いわけではないが、アクセルに対する反応がいいので、クルマの流れに乗って気持ちよく走るぶんには不満はない。

 

これで590万円という価格は、輸入車のライバルたち、たとえばスポーツSUVのBMW X4(852万円〜)に比べると断然安い。もっと加速がほしい人には、今後追加される予定のPHEVモデルがおすすめだ。

ラゲージは容量397Lで、通常でゴルフバッグ1個分、後席前倒し時には4個まで収納可能とのこと

クラウンセダンは真横のシルエットはカッコいいけど……

一方のクラウンセダンは、クラウンシリーズの中で最もフォーマルなモデルだが、実物を見ると、これはこれでスポーティだ。

↑クラウンセダン

 

なにしろ全長は5mを超えている(5030mm)。それだけで「うわ、長っ!」という迫力が出る。しかもリアピラーが傾斜したファストバックスタイルなので、真横から見ると、アウディA7スポーツバックあたりがライバルというイメージ。クラウンクロスオーバーより高級なのはもちろん、クラウンスポーツと比べても、むしろシュッとスポーティに見える。

↑伸びやかで美しい佇まいを実現したというデザイン。ボディサイズは、全長5030×全幅1890×全高1475mmです

 

真横のシルエットがとてもカッコいいのに対して、フロントやリアはやや凡庸で物足りない。ヘッドライトが「コ」の字型ではなく、シンプルな薄目に見えることも、印象を薄めている。従来のクラウンのイメージはほとんど捨てているので、今後どうやってクラウンらしい「顔」を構築していくかが課題だろう。

↑縦基調のグリルを採用したフロント

 

↑リアはワイド感を強調した横一文字のテールランプを採用

 

↑スポーツのようなふくらみはなく、すっきりとした佇まいです

 

魔法の絨毯に乗っているような乗り心地

クラウンセダンは、クロスオーバーやスポーツと違って、エンジン縦置きのFR(後輪駆動)だ。つまりまったく別のクルマと言っていい。同じクラウンの中で別のモデルを作り分けるなんて、トヨタにしかできない贅沢な芸当だ。

 

FRなので、車体中央にはドライブシャフトが貫通しており(FCEVモデルは水素タンクが貫通)、リアシートの足元中央部は大きく膨らんでいる。定員は5名だが、4人乗りと考えたほうがいい。4人までならゆったりくつろげる。

↑後部座席。中央のアームレストにタッチパネルを内蔵し、オーディオをはじめ、エアコン、シート機能、リラクゼーション機能、サンシェードの操作などが可能です

 

フロントに縦置きされるのは、2.5Lのハイブリッド(730万円)だが、タンクに積んだ水素と空気中の酸素を反応させて発電してモーターを回して走るFCEV(燃料電池車:830万円)も用意される。

 

FCEVのメカは基本的にMIRAIと同じだが、これが驚くほどイイ。水素ステーションの設置が進んでいないこともあって、MIRAIは極端な販売不振に喘いでいるが、クラウンセダンのFCEVは、EVだけに静かさや滑らかさはハイブリッドとは比較にならないし、加速はダイレクトそのものだ。仮に自分が社長で、社長車にクラウンを導入するなら、FCEVがベストかもしれない。水素ステーションは運転手が探せばいいのだから。

↑FCEVのモーター最高出力は182PS/6940rpm、最大トルクは300Nm/0〜3267rpm

 

しかし自分で運転するなら、やはりハイブリッドだ。エンジンが4気筒なので、アクセルを深く踏み込んだときの唸り声が少々安っぽいのは残念だが、それを除けばとても快適で、ハンドリングもサイズを考えれば軽快だ。

↑大型の杢目調パネルを採用するなど、上質感を追求したコックピット

 

なにしろクラウンセダンは、乗り心地が素晴らしい。足まわりはクラウンらしく適度にソフトだが、ピッチング(前後の傾き)を徹底的に抑えたセッティングゆえに、魔法の絨毯に乗っているようなフラットライド感なのである。

↑ハイブリッドのラゲージ容量は450Lで、ゴルフバッグ3個を収納可能。一方のFCEVは400Lで、ゴルフバッグを2個収納できます

 

スポーツ、セダンともに断然魅力的

クラウンは、スポーツ、セダンともに、従来とはまったく別のクルマになり、断然魅力的になった。反面、クロスオーバーが中途半端な存在に思えてくる。スポーツとセダンの存在感が際立っているからだ。是非もなし。

 

若返りを目論むクラウンだが、価格を考えると、若返ってもせいぜい40代まで。しかし、おっさんは見た目が9割。クラウンスポーツやクラウンセダンなら、見た目を気にする都会派エリートのおっさんも、愛車として検討対象になるはずだ。

(セダン)SPEC【Z】●全長×全幅×全高:5030×1890×1475mm●車両重量:2020kg●パワーユニット:2487cc直列4気筒エンジン+モーター●エンジン最高出力:185PS(136kW)/6000rpm●エンジン最大トルク:225Nm/4200-5000rpm●WLTCモード燃費:18.0km/L

 

(スポーツ)SPEC【SPORT Z(ハイブリッド)】●全長×全幅×全高:4720×1880×1565mm●車両重量:1810kg●パワーユニット:2487cc直列4気筒エンジン+モーター●エンジン最高出力:186PS(137kW)/6000rpm●エンジン最大トルク:221Nm/3600-5200rpm●WLTCモード燃費:21.3km/L

 

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撮影/清水草一