三原舞依が大崩れしない理由 「最後にコンビネーションをつける予定だったんですけど...」戦略的判断で構成を変更
演技終盤、ロングスパイラルの美しさに魅了された観客から、感情があふれ返るような拍手が沸き起こった。それだけ心を揺り動かすプログラムだったと言える。最後のポーズが決まった瞬間、会場は熱気に包まれた。
三原舞依(24歳/シスメックス)は感極まったように両腕を振り下ろし、その光景のなかで笑顔の花を咲かせている。
「(グランプリシリーズ・中国杯を右足首のケガで欠場後、痛みを抱えて出場した)NHK杯が終わって、全日本まで毎日、精一杯やってきて、最後まで全力で滑ることができたのはよかったです。ケアしながら、ギリギリまで練習でやってきました。足もよく頑張ってくれたと思います」
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全日本選手権SPの三原舞依
【ここにいられてうれしいな】
12月20日、長野。大会公式前日練習でリンクに立った三原はNHK杯の時と比べると、表情が明るかった。やや重く見えたジャンプに羽がついたような軽やかさが戻っていた。
「30分間しか練習時間がなかったんで、最初から動こう、と。アップから体を温めながら会場の雰囲気を感じて、"ここにいられてうれしいな"と思いながら滑りました」
三原は弾むような声で語っていた。
「(ケガの)痛みは、まだあると言えば、あるんですが。それ以上に全日本まで必死に練習を積んできたので。1カ月はあっという間で、それほど充実していたんだなって自信になっています」
彼女は"必死に"を強調した。体調不良から1年のブランクで復帰した当時、命を削るように滑っていた彼女がそう表現するのだから、相当に懸命な日々だったのだろう。
体の負担を考慮した場合、回数をたくさん跳ぶことはできなかった。限られた本数のジャンプ、一つひとつへの集中力を高めて精度を上げた。
「集中力の天才」
そう言われる彼女ならではの、スケートへの真摯な向き合い方だ。
たとえば、動画でジャンプを細かく確認しながら、軸がどうなっているかなどをとことん研究し、「ベストのジャンプの形」を見つけていった。それは体調不良から復帰した時からの習慣だという。当時、どうしても筋力が足りずにグラグラとしてしまう着氷を、どう降りたらバランスを保てるのかと研究するうちに着地点を見出した。
「今年はシーズンインが遅れて滑り込みが足りなかったんですが、ようやく滑り込むことができています。なので、集中して滑ったら大丈夫かなと思っています!」
彼女は自らに言い聞かせるように言った。
12月22日、ショートプログラム(SP)。三原は前の滑走者と入れ替わってリンクに入った。得点が出るまでの間、入念に体を温めた。最後に黒い手袋を預け、リンクサイドで後ろ向きになって中野園子コーチに送り出される。そのルーティーンは安定した滑りでベストを出すためのものだ。
「ギリギリまで緊張しながら、ジャンプの不安もあって。なかなかはまっていなかったので」
三原は言う。
「『集中力の天才』っていうのを今回も先生が言ってくださって。『やればできる』という先生方の最後の声って、一番頭に入ってくるので。感謝する滑りをしたいって、一つひとつの要素で切り替えながらできました」
セリーヌ・ディオンの名曲『To Love You More』の旋律に乗って、冒頭のダブルアクセルを着氷。3回転ルッツ+3回転トーループは「q」(4分の1回転不足)がついたが、きれいに降りた。3回転フリップも成功。スピン、ステップはすべてレベル4で、曲の切れ目のバレエジャンプも華やかだった。曲の愛らしさを氷上に創出していた。
スコアは67.70点で4位。十分に表彰台を狙える得点で、昨年の2位も照準内だった。
「落ち着いて滑ることができました。滑り終わってアワアワとして、夢じゃないかなって」
三原はそう振り返ったが、偶然ではなかったはずだ。
「最後にコンビネーションをつける予定だったんですけど、第1ジャンプで何かあったら、コンビネーションが入らなくなるのはもったいないので。今回は確実に、最初にコンビネーションを跳んで落ち着いてって。本当は最後に(セカンドをつけて)跳びたいんですけど、朝の練習からこの構成にしようって決めていました」
戦略的判断を下せるのも、彼女が大崩れしない理由だが、まとっている空気が無垢なのだ。
「トレーニングしたらしっかりケア、を続けてきました。栄養もたくさんとって、牛乳もたくさん飲んで、カルシウムとビタミンも。コンディションを整えるため、どうしたらいいかを考えて過ごして。NHK杯より体の状態はよくなっているので、フリーに向けて準備をします!」
12月24日、フリー。三原は最終グループで『Jupiter』を滑っている。ベストコンディションではなかったが、渾身だった。
「ショートの時よりも緊張がすごかったですが、自分を信じて最後まで滑りきることができました」
冒頭から、ダブルアクセル+3回転トープをみごとに成功させた。3回転ルッツ+ダブルアクセルで高得点を記録。3回転フリップは「エッジが不明瞭」の判定でGOE(出来ばえ点)を伸ばせなかったが、3回転サルコウ、3回転ループ+2回転トーループ+2回転ループを成功。3回転ルッツは「q」がついたが、最後の3回転ループは完璧に降りた。
冒頭に記したように、プログラムの仕上がりは大会屈指で、万感に思いを託す歓声を浴びている。
ただ、スコアは131.86点で5位だった。ジャンプで回転不足がつくなど、GOEを稼げなかったことが響いた。トータル199.56点で表彰台を逃し、総合5位だ。
「NHK杯の時よりよくなっているので、年明けの試合に出させてもらえるなら全力で。今の状態でできるベストで、プログラムの完成度をさらに上げていきたいです」
そう語っていた三原は、2024年1月30日から開幕する四大陸選手権に出場が決まっている。過去に2度の優勝を誇る大会で、彼女らしい世界をつくり出すはずだ。