「クリスマスっぽい」 クリスマス広告 はもはや時代遅れ? デジタルがクリスマスをどう変えたのか

記事のポイント
欧米圏ではすっかり定番となっている、リテーラー各社のクリスマス広告。ジョンルイスに限らず、多数のブランドが個性的かつ多様なアプローチで競合している。
ブランドはデジタルコンテンツやソーシャルメディアキャンペーンを通じて、異なるプラットフォームで消費者との接触を試みており、かつてのクリスマス広告のようにテレビ広告への全振りは少なくなっている。
クリスマス広告の公開は単なるイベントではなく、ビルドアップ型の戦略へと変化しており、キャンペーンは早期から開始され、消費者の関心を長期的に引きつけるよう工夫されている。
欧米圏ではすっかり定番となっている、リテーラー各社のクリスマス広告。ジョンルイスに限らず、多数のブランドが個性的かつ多様なアプローチで競合している。
ブランドはデジタルコンテンツやソーシャルメディアキャンペーンを通じて、異なるプラットフォームで消費者との接触を試みており、かつてのクリスマス広告のようにテレビ広告への全振りは少なくなっている。
クリスマス広告の公開は単なるイベントではなく、ビルドアップ型の戦略へと変化しており、キャンペーンは早期から開始され、消費者の関心を長期的に引きつけるよう工夫されている。
とはいえ、広告の冒頭は十分にクリスマスっぽい。男の子が植木鉢に種を植え、クリスマスツリーの成長を心待ちにする。ところが、物語は古典的なモミの木から大きくはずれ、どちらかといえば「リトルショップオブホラーズ」の様相を見せはじめる。クリスマスツリーだと思って育てていた植物は、虫を捕食するハエトリソウだったのだ。最終的に、物語は晴れやかな祝祭気分で幕を閉じる。
しかし、この意外な展開は多くの人に首をかしげさせた。忘れがたい作品を作りたいという意図は分かるが、ジョンルイスの場合、それはどうやら裏目に出たようだ。
https://youtu.be/5y0fGsQU5zg?si=QZtB_p_PwqvdtDTd
共感を呼ぶ広告とは何か
クリスマス広告のシーズンはジョンルイスに始まりジョンルイスに終わるものではもはやない。彼らの広告はいまや多数のなかのひとつにすぎず、その多数はかつてないほど多様で個性的だ。
誰もがジョンルイスをまねて、いかにもクリスマスっぽいセンチメンタルな広告を作る時代は過去のものかもしれない。そして実のところ、それは衝撃でも何でもない。ジョンルイスが初めてクリスマス広告を出した2007年以来、世界は大きく変容した。そこにあるのはかつてないほどの亀裂と分断である。その結果、万人の心に響くものを作ることは、昔よりはるかに難しくなった。
今日、クリスマスシーズンの広告スペースは30社を超えるブランドがひしめき合い、クリスマスのあるべき姿について、それぞれ独自の視点で広告を展開している。そしてそれはテレビ広告に限った話ではない。各キャンペーンと紐付いたキャラクター商品なども、買い物客を店内体験に誘導するという重要な役割を担う。たとえば今年の場合、独ディスカウントチェーンのアルディ(Aldi)では「ケヴィン・ザ・キャロット」が、マークス&スペンサー(Marks & Spencer)の食品広告では「クリスマスの妖精」が、そしてジョンルイスではハエトリソウの「スナッパー」がこの役割を務めている。
メディアエコロジストで「ザ・マイヤーズ・リポート(The Myers Report)」の会長を務め、メディアヴィレッジ(MediaVillage.org)の創設者でもあるジャック・マイヤーズ氏はこう話す。「クリスマスCMに対する期待感やわくわく感は健在だが、以前ほど顕著ではないかもしれない。その背景には、クリスマス広告の開始時期が前倒し傾向にあることや、デジタルコンテンツの飽和状態などがある。それでも、巧く作られた、ノスタルジックで心温まる広告のなかには、いまも変わらず国民的な高揚感を沸き立たせるものがある」。
クリスマス広告はどこかぎこちない思春期を迎えているようだ。試行錯誤を繰り返し、加速度的に進化する環境で、自らのアイデンティティを見つけようと煩悶する。マーケターたちは既存の境界線を押し広げながら、クリスマスの伝統そのものと同じくらい多様なオーディエンスがいる世界で、共感を呼ぶ広告とは何かを模索している。創造性が支配し、予測不可能が当たり前の時代の到来だ。
「かつてはテレビ広告にすべてをつぎ込むのが定石だった」と、デジタル資産管理(DAM)を支援するビンダー(Bynder)でグローバルブランドとコミュニケーションの責任者を務めるスティーヴ・ヴァイノール氏は話す。「今はそうではなく、プラットフォームを構築し、メッセージを構築し、それを軸にソーシャルキャンペーンを構築しなければならない。アクティベーションも必要だし、そこには商品化などのチャンスもある」。
たった1本のCMに、すべての予算と労力をかけない
ブランド間の首位争いも加熱している。今一番人気の有名人をカメオ出演させたり、AI生成の広告といった新機軸に挑むなど、どのブランドもクリスマス広告の制作に全力を傾けている。それは熾烈な競争だ。ときにいつものコースから外れることもある。もしかしたら、テレビ広告のキラーコンテンツを作ることに集中しすぎたのかもしれない。マーケターたちはますます多くの視聴者が集まるデジタルをすっかり失念したようだ。
話題作りのテレビ広告がやけに多いのはそのためかもしれない。狙いは、セレブやヒット曲を使って、人々をオンラインに誘導することだ。しかし、考えることは皆一緒。マークス&スペンサーとベイリーズ(Baileys)の広告は、いずれも女優のハンナ・ワディンガムを起用している。スーパーマーケットのアズダ(Asda)のCMでは、マイケル・ブーブレが演技と歌声の二刀流を披露、高級スーパーのウェイトローズ(Waitrose)の広告には、コメディアンのグラハム・ノートンがカメオ出演している。
電通の最高戦略責任者を務めるパトリシア・マクドナルド氏によると、「いまや多くのクライアントやCMOが独自のエンターテインメントプラットフォームを作りたがる」という。「短尺動画であれドキュメンタリーであれシリーズ物であれ、たかだか60秒のCMにすべてを傾けるよりも、クリスマスを軸にもっと多様なコンテンツが作れるはずだと感じている」。
祝祭気分の広告が的外れで不出来だというわけではない。巧みに作られたクリスマスCMには不滅の力がある。ただ、環境が変化したことで、マーケターたちは誰もが今年最大と認めるキャンペーンに対して、どうアプローチすべきか再考する必要に迫られている。たとえば、ジョンルイスもそうだ。多くの小売企業と同じく、クリスマス広告のキャラクターを商品化するという新たな収益機会に眼をつけた。単発のテレビ広告から始まったアイデアが、ひとつの包括的なパッケージへと姿を変えたのだ。
「その一因はソーシャルにあり、メインストリームのオーディエンスの関心がますます断片化しているためだろう」と、ウイアーソーシャル(We Are Social)でエグゼクティブクリエイティブディレクターを務めるサイモン・リチングス氏は述べている。「あちこちで拡散する類いのコンテンツが必要だ。それなのに、誰もが見てくれると期待して、予算と労力のすべてをつぎ込み、映画のような大型のCMを作る。そしてゴールデンタイムにその全編を見てもらおうと、2分間のCM枠に巨額の媒体費を支払う。多くの人が接触しないたった1本のCMに、すべての予算と労力をかけるなど、いわゆるひとつのカゴにすべての卵というやつだ」。
クリスマスはモーメントからビルドアップへ
おそらく、もっとも重要な点は、クリスマス広告の公開が「モーメント(瞬間)」的なイベントから、「ビルドアップ(積み上げ)」型の施策へとシフトしていることだろう。心待ちにすることは、ただ漫然と待つことではない。それはデジタルでの接触が早期に始まることを意味する。マーケターたちはこのシフトを敏感に感じ取り、消費者の関心を長期的に持続させるような形で物語を展開する工夫をこらしはじめた。たとえばジョンルイスの場合、「スナッパー」というキャラクターに生気と現実味を与えるため、ハエトリソウという植物に関する重要かつ興味深い情報をインスタグラムで拡散させることにした。一方、ウェイトローズはメインのテレビ広告を削り、選りすぐりの主力製品をインスタグラムで紹介し、店頭に並ぶ時期を告知している。
リース(Wreaths)の創設者であるトム・イエイツ氏は、「広告のクリップ映像を複数のソーシャルプラットフォームで小出しにしながら話題を積み上げ、同時に、キャンペーンの開始前から実際の商品を店舗に並べはじめる」と説明する。
もちろん、こうした「小出し」戦略の結果はふたつにひとつだ。まずは、広告全編の公開に向けて、期待感や興奮が徐々に高まるケース。ほとんどのブランドはこちらに当てはまる。逆に、なかには裏目に出るケースもあり、たとえばマークス&スペンサーが今年制作したライフスタイル系のクリスマス広告はその一例となった。この広告のワンシーンをSNSに投稿したところ、炎を背景とした緑と赤(パレスチナ旗に使われている色)がガザの現状を彷彿させて不快だと、厳しい批判が殺到した。SNSのリアルタイムの反応を見れば、このキャンペーンが本格的な離陸前に中止となったのもやむを得ないだろう。
しかも、このようなキャンペーンの開始時期はかつてないほど早まっている。ハロウィーンが終わるやいなや、クリスマス広告が始まるといった感がある。実際、11月1日の朝を迎えると、カボチャの話はまったく聞かなくなった。代わりに、ライフスタイルブランドのヴェリー(Very)やスイスチョコレートのリンツ(Lindt)らは、年末の広告商戦を勝ち抜くために、早くもクリスマスCMを解禁していた。
1年の勝利がかかった時期
「クリスマス広告が重要であることに変わりはないが、それをめぐる考え方は変化している」と、グッドフィート(Good Feet)のチーフブランドオフィサーを務めるダグ・ザーキン氏は話す。「キャンペーンの開始が年々前倒しになるなか、溢れるような広告のなかで頭ひとつ抜けるには、これまで以上の努力を要する。重要なのは、いつ始めるかではなく、変容する消費者の心情にどう寄り添うかということだ」。
確かにその通りだが、多くのマーケターにとって、キャンペーン期間の長期化はきわめて重要だ。今年の勝利はおそらく、鍵となる年末の8週間をものにできるか否かにかかっている。そして勝利の行方を握るのは、これまでにため込んだリソースだ。今年前半、景気の先行き不透明感から多くの企業が広告支出を手控えた。しかしここに来て、大きな成果で一年を締めくくる、あるいは前半のダメージを回収することを期待して、主要な広告機会への追加投資を検討する企業が増えている。
「総額として見れば、前年と比べてそれほど大きな支出増ではないかもしない。しかし多くの企業で、年間予算に占める広告費の割合が第2四半期で減る一方、第4四半期で増える傾向が見られる」とザーキン氏は指摘する。「大幅な予算増の場合、第4四半期の媒体費が前年同期比で10%から20%増といったところだ。2022年第4四半期の支出が1000万ドルだとして、今年は多くのブランドが経済的な問題で上半期の支出を手控えた分、第4四半期に1500万ドルから2000万ドルを支出している」。
[原文:Here is the anatomy of the 2023 Christmas ad season]
Krystal Scanlon(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)
