パリ五輪の女子マラソン代表選手を決めるMGCが15日、8時10分スタートする。

 MGCに出場する選手は、24名。このレースで1位と2位に入った選手がパリ五輪女子マラソン代表に内定する。残り1枠はMGCファイナルチャレンジ対象大会で、設定記録(2時間21分41秒)をクリアした最上位の選手が代表となり、設定記録をクリアする選手がいない場合はMGC3位の選手が代表に選出される。


MGCで有力視される(左から)細田あい、一山麻緒、鈴木亜由子

 MGCを勝ち抜くために必要な4つのポイントを挙げ、それを踏まえつつ女子の有力選手をピックアップしていきたい。

 ひとつ目が大会での優勝、日本人トップなどの経験があること。これはレースで勝ち切れるだけの力があることの証左であり、この経験は大きい。

 ふたつ目は「粘り強さ」「スピード」を持っていること。ラスト勝負になると、このふたつが不可欠になる。

 3つ目は、セルフコントロール。レース中、冷静に自分にベクトルを向けて自分をコントロールしてレースを展開できる力は勝つために重要な要素。

 4つ目は、勢いがあること。昨年から今年にかけて結果を出している選手は、総じて調子が良い。その勢いのまま行き切ることができれば結果がついてくる可能性が高い。

この4つのポイントを照らし合わせて考えると、代表の最有力候補は一山麻緒(資生堂)だろう。

 前回MGCでは6位に終わったが、MGCファイナルチャレンジの名古屋ウイメンズで2時間20分29秒の自己ベストを出し、松田瑞生(ダイハツ)の記録を破って優勝。東京五輪の切符を獲得した。21年1月の大阪国際女子マラソンでも優勝すると、その勢いで本大会に臨み、女子では17年ぶりとなる五輪8位入賞を果たした。

 それからパリ五輪を目指してスタートするも、オレゴン世界陸上は新型コロナに罹患し、出走できず。その後、肋骨の疲労骨折などもあり、今年の東京マラソンは総合14位(2時間31分52秒)で悔し涙を流した。しかし、7月の函館ハーフで優勝するなど、調子を取り戻しつつある。

 日本記録保持者の鈴木健吾と結婚し、課題のメンタルは鈴木の刺激を受けて強くなり、意識も高くなった。「練習ではポカしない。文句のつけようがない」と永山(忠幸/資生堂)監督は語っていたが、前回のMGCファイナルの時と同様、今回も練習をしっかりと消化しているという。自信を持ってスタートラインに立てば、圧巻の走りでパリ行きを決めそうだ。

【鈴木亜由子は前回MGC出場の経験が強み】

 鈴木亜由子(日本郵政グループ)も代表候補のひとりだ。

 前回MGCでは、前田(穂南/天満屋)と優勝を争い、2位で東京五輪の女子マラソン代表の座を射止めた。東京五輪は19位に終わったが、パリを目指して始動し、22年のベルリンマラソンで今回のMGC出場権を獲得。今年3月の名古屋ウイメンズでは2時間21分52秒の自己ベストで日本人トップの総合2位に入った。「トラックのリズム感で最後まで走り切れた」と上々の手応えを得て、着実にマラソン選手としての経験値を上げている。「前回のMGCで勝ち抜いた経験は強みです」と本人が語るように、MGCでの勝ち方は理解している。名古屋の優勝から勢いがあり、トラックで磨いたスピードをマラソンにも活かせるようになった。リラックスして臨めれば優勝する力があるだけに、前回同様に2位以上に入る可能性は非常に高い。

 また、読めない存在だが他選手の脅威になっているのが、前田穂南(天満屋)だ。

 前回のMGCは、3月の東京マラソンで日本人2位となった勢いのまま臨み、後半は独走状態で優勝。東京五輪は33位に終わり悔しさを噛みしめたが、その後、その悔しさを晴らすべくパリ五輪に向けてスタートした。だが、昨年8月の北海道マラソンは新型コロナに罹患して欠場し、今年1月の大阪国際マラソンは足首を故障して回避した。うまく波に乗ることができず、一時は引退も考えたという。それでも、「もう一度五輪に出る」という自分の気持ちと向き合い、今年3月の名古屋ウイメンズで日本人2位の成績でMGC出場権を獲得した。

 今回のMGCに向けては「練習の消化率が30%」ということだが、高地の米国アルバカーキなどで練習を積んできた。ケガの影響なくスタートラインに立てれば、前回のように途中からぶっちぎりのレースを見せるかもしれない。

 ほかにも、安定感のある安藤友香(ワコール)も勝負強い選手として注目だ。

 前回MGCは8位に終わり、マラソンでは東京五輪に出場できなかったが、10000mでの五輪出場を果たし、22位で終えた。今年は大阪国際女子マラソンに出場して日本人トップの総合3位に入り、好スタートを切っている。スピードと30キロ以降の粘りをつけるために、トラックシーズンは積極的にレースに出場し、関西実業団陸上競技選手権大会では5000mと10000mで優勝。7月のホクレン千歳大会では5000mに出場し、途中まで自己ベストのペースで走り、15分22秒74。MGCは、「2番以内とかではなく、優勝を狙って、タイムも19分台を出すぐらいでいかないと勝てないと思います」と、前回の経験を活かして積極的に行くという。後半の勝負時に、安藤自身が重要と考える「勇気」を持って一歩、前に踏み出すことができれば、パリの灯が見えてくるだろう。

【細田あいなど有力選手はほかにも】

 細田あいも(エディオン)上位争いに絡んでくる選手のひとりだ。

 2019年にはケガもあり、心と体が一致せず、一度は引退も考えた。だが、「走りが見たい」という周囲の期待を実感することで翻意し、そこからはパリ五輪を目指して練習を積んできた。昨年10月のロンドンマラソンで2時間21分42秒の自己ベストを出し、今年3月の東京マラソンでは2時間22分8秒で日本人2位と好調を維持。だが、春からは故障や体調を崩すなどで「自分の思う様な流れできていない」という。その後、ホクレン深川大会の3000mに出場してレース勘を取り戻し、夏合宿で距離を踏んで練習をこなしてきた。「4年後なんてどうなるかわからない。今回、パリを狙える位置にいるので、手を伸ばしたいと思います」と今回のMGCにかける気持ちは非常に強く、強気の走りを見せられればパリ行の切符を手にできるだろう。

 さらに加世田梨花(ダイハツ)も有力選手のひとりだ。ブダペスト世界陸上のマラソンは19位に終わったが、昨年9月のベルリンマラソンでは2時間21分55秒の自己ベストを出した。小柄ながらストライドの大きなフォームで、6月の日本選手権5000mでは15分21秒72で2位になり、スピードを磨いてきた成果が出た。世界陸上から1か月半後のMGCでどこまで力を発揮できるか。

 上杉真穂(スターツ)も注目すべき選手。今年1月の大阪国際女子マラソンでは、松田の背中を追い、2時間22分29秒の自己ベストで2位に入った。ブダペスト世界陸上の参加標準記録をクリアしたが選考されず、MGCにかけてきた。7月はホクレンでトラックを走って調子はもうひとつだったが、本番までにどこまで上げられるか。大阪国際女子で見せた「攻めの走り」ができれば先頭集団で熱いレースを見せてくれるだろう。

 今回のMGCで2枠を争うという点でいえば、松田瑞生(ダイハツ)と佐藤早也伽(積水化学)の欠場は大きい。ふたりともブダペスト世界陸上からMGCという流れで五輪の出場枠を獲得することを目標としていたが、松田はケガのため、佐藤は体調不良により、断念せざるをえなくなった。

 MGC出場予定選手の持ちタイムのトップ10は、一山、安藤、細田、加世田、鈴木、上杉、前田穂南、前田彩里(ダイハツ)、松下菜摘(天満屋)、渡邊桃子(天満屋)の順になる。2時間20分52秒のタイムを持つ松田は一山に次いで2番目、2時間22分13秒のタイムを持つ佐藤は鈴木と上杉の間に入る。

 単純に強力なライバルであり、マークすべき選手が少なくなったことになり、優勝を狙う選手にとっては心理的な負担が減り、より自分の走りに集中できる。また、タイムではパリが遠かった選手も「ワンチャンあるかも」と奮い立ち、思い切ってチャレンジできる。マラソンは何が起こるか分からないだけに、ニューヒロインが出てもおかしくはない。

 レースでは国立競技場へトップで入っていくというポジティブなイメージをしている選手が多い。それを実現できるのは、果たして誰になるのだろうか。