人間の行動は大気の質や気候によって左右されることが知られており、「気温が上昇すると交通事故や暴力事件が増える」という研究結果や、「大気汚染の悪化が暴力犯罪の増加と相関している」という研究結果が報告されています。学術誌のScientific Reportsに掲載された新たな研究では、大気や気候の影響を受けるのは人間だけではなく、「犬が人間にかみつく可能性」も気温や大気汚染などに関連していることが示されました。

The risk of being bitten by a dog is higher on hot, sunny, and smoggy days | Scientific Reports



Hot days, angry dogs: How environmental factors influence canine aggression

https://www.news-medical.net/news/20230619/Hot-days-angry-dogs-How-environmental-factors-influence-canine-aggression.aspx

Dog Bites More Common on Hot, Hazy Days

https://www.usnews.com/news/health-news/articles/2023-06-16/dog-bites-more-common-on-hot-hazy-days

人間を含むさまざまな動物は生きるための領土や資源を確保したり、自身や仲間のメンバーを守るために攻撃性を発揮します。他者への攻撃は前頭前野の制御システムとトリガーとなる刺激によって引き起こされ、人間の場合はさまざまな心理的・社会的要因に加えて、気温や空気の質といった外的要因にも影響されていることがわかっています。アカゲザルやラットなどの攻撃性も気温が高いほど上昇することが示されているものの、最も人間にとって身近な動物の一種である犬の攻撃性と外的要因の関連については、あまり研究されていなかったそうです。

そこで、ハーバード大学医学部に属するブリガム・アンド・ウイメンズ病院のTanujit Dey氏らの研究チームは、2009年〜2018年までにアメリカの8つの都市(ダラス、ヒューストン、ボルチモア、バトンルージュ、シカゴ、ルイビル、ロサンゼルス、ニューヨーク)で発生した「犬が人間をかんだ事例」のデータを使用して分析を行いました。

研究チームは環境保護庁が公開しているPM2.5とオゾン濃度のデータ、さらに海洋大気庁が公開している気温や紫外線、降水量などのデータを用いて、犬が人間をかんだ事例との関連を分析しました。



分析の結果、大気中のPM2.5濃度と犬の攻撃性に関連はみられませんでしたが、紫外線レベルが高い日には犬が人間をかむ事例が11%増加することが判明。また、気温が高い日は4%、大気中のオゾン濃度が上昇した日は3%ほど犬が人間をかむ事例が増加し、降水量が多い日は1%減少することがわかりました。

感度分析からは、犬が人間をかむ事例の発生率と気温、降水量、オゾン、紫外線レベルといった個々の要因間の相関が安定しており、分散による大きな影響を受けないことも示されました。オゾンは光化学スモッグを構成する主要な物質であるため、犬は「気温が高くてスモッグが多い晴れた日」によく人間をかむと考えられます。

過去の研究ではオゾンの濃度が人間の攻撃性に影響を与えていることが示されているほか、紫外線への暴露が攻撃性に関連するステロイドホルモンの分泌量を増やすという研究結果も、今回の研究結果と一致しているとのこと。

研究チームは、「私たちは、暑くて日差しが強く、スモッグの多い日には、犬あるいは人間と犬の相互作用がより敵対的なものになると結論付けました。猛暑と大気汚染による社会的負担は、動物の攻撃性が増加するというコストも含んでいるのです」と述べました。