体についた余計な脂肪は、どうすれば落とせるのか。医療記者の朽木誠一郎さんは「ダイエットはやるべき順番が決まっている。これを守らなければ、いくら筋トレを頑張っても『太った?』と聞かれる残念な結果になりかねない」という――。

※本稿は、朽木誠一郎『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Iam Anupong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Iam Anupong

■「お尻に年齢が出る」のは科学的に証明されている

30〜40代になると、男女に限らずどうしても崩れてくるボディラインを、いかに戻すか。戻すだけでなく、今を全盛期にできるか。ある意味では永遠の課題なので、運動が習慣化した先の目標としてはちょうどよさそうです。そして、運動をすれば「体の形」を自分の好みに変えられることが、科学的にも明らかになっています。

例えばよく「お尻に年齢が出る」と言われます。実はこのことについては、科学的な研究がなされており、加齢によるお尻の形の変化には、筋肉が強く関係していることがわかっています。

それが下着メーカー・ワコールの人間科学研究所の研究(※1)です。ワコールは1950〜60年代生まれののべ4万人の女性を最長で30年間以上追跡し、そのデータから、女性の体型の変化を時系列で分析しています。

※1:坂本晶子「日本女性の加齢による体型変化」Anti-Aging- Medicine. 2014;10(6):910-915.
下着メーカー・ワコールの人間科学研究所により2014年に発表された研究。

そこでわかったのは、女性のお尻の形が加齢に伴い「ステップ0」から「ステップ3」へと崩れていく、ということでした。最初は横から見て半円形で垂れていない「ステップ0」。そこから徐々に下部がたわみ(ステップ1)、メリハリがなくなって四角形に近づき、ヒップの頂点が下がります(ステップ2)。やがて側面のボリュームが削(そ)がれて、ヒップが中央に流れる(ステップ3)のです。

■お尻以外のボディラインについても同じことが言える

お尻の形容として丸みをおびた「桃」がありますが、この変化はまずお尻が垂れて「ピーマン」のようになり、さらに頬がこけて「ムンクの叫び」のようになっていく、と表現されます。皮膚のたるみなど別の理由も関係するものの、主な原因は加齢により筋肉が衰えること。そしてお尻の筋肉は比較的、大きな筋肉に分類され、加齢で落ちやすいため、特に年齢が出やすい部位なのです。

ワコール社の分析によると、このステップの進行が小さかったグループは、多く歩くことを心がけたり、体をよく動かしたりするなど、日常生活での運動強度が高かったそう。そして、筋肉は運動刺激に対して強く大きくなり、その能力は年をとっても保たれるため、筋トレによりステップ3からステップ0に「逆行させていく」ことも可能です。女性のボディビルダーには、見事なお尻の形を保つ50代以上の選手もたくさんいますよね。

そして、お尻以外のボディラインについても、同じことが言えます。

■しかし、「部分やせ」はできない

「体の形」は自分の好みに変えられる「ボディメイク」という言葉がよく使われますが、その要素を分解してみると、「余計な部位の脂肪をなくす」「希望の部位に筋肉をつける」の2つのステップがあることがわかります。

ここで、残念ながら「部分やせ」はできません。逆に脂肪がつきやすい場所はあって、それがお腹です。内臓脂肪や皮下脂肪がつきやすく、太るとすぐにお腹が出てくるのは、みなさんが知っているとおりです。消費カロリーが摂取カロリーよりも多い状態が続けば、基本的には全身の脂肪が均等に落ちていき、最後に残ったお腹が引っ込む、という順番になります。

その先も運動をして、食事に気を配ると、お腹の脂肪が落ちきって、いわゆる「シックスパック」、つまり皮膚の下に腹筋が見えてきます。このとき、ボディラインはどうしても細くなるので、胸や背中、お尻、腕など、つけたい部位の筋トレをして、理想の体の形に近づけていくことになります。

言い換えれば、ダイエットについてはカロリーの収支で説明できるものの、体のデザインは単純なカロリーの足し算・引き算とそれによる体重の増減だけで決まらないのです。

もう一点、押さえておきたいのが、「余計な部位の脂肪をなくす」「希望の部位に筋肉をつける」ことは両立しないということです。

■ガッツリ脂肪を落とすための「ムダのない順番」

「有酸素運動をすると筋肉が落ちる」とよく言われますが、これは半分ホント、半分ウソです。なぜかと言うと、人間が活動するとき、まずは糖がエネルギー源として使用されます。血中の糖がまず消費されていくため、いきなり筋肉に影響が及ぶことはありません。また、血中の脂質なども消費されていきます。

しかし、こうした血中のエネルギー源は徐々に少なくなっていきます。そうすると、体の脂肪が分解されて血中に脂質が出てくる=脂肪が落ちるのですが、同時に筋肉が分解されて血中にアミノ酸が出てくる=筋肉も落ちるのです。体にとっては、血中にエネルギー源を送ることが最優先なので、生物の命が脅かされるエネルギー不足のときは、脂肪も筋肉も変わらないただの貯蔵庫だというわけです。

つまり、より正確に言えば、「脂肪を落とす目的で有酸素運動をするなら筋肉も落ちる」ということになります。これを防ぐためにあらかじめBCAA(アミノ酸)を飲むという手もないことはないのですが、ガッツリ脂肪を落とそうとすれば、やはりある程度は筋肉も落ちてしまう、という覚悟が必要になるでしょう。そこで、まずは有酸素運動と食事制限で脂肪をなくしてから、筋トレで筋肉をつけていく、というのが、ムダのない順番になります。

■「ウエストマイナス10センチ」を目標にする場合

そこで、まずは「余計な部位の脂肪をなくす」ことを本気で計画してみましょう。

メインになるのは有酸素運動と食事制限です。ここで、筋トレは地道に継続することで基礎代謝の面で有利になりますが、やはり短期的な消費カロリーのインパクトにおいては、有酸素運動や食事制限に及びません。有酸素運動については、「いかにこまめな移動や身体活動で消費カロリーを稼いでいくか」が勝負です。食事も同様に、無理をすることなく、平均的に量を落としていきます。

例えば、今よりも「ウエストマイナス10センチ」を目標にするとします。第1回記事〈メタボ健診の「腹囲測定」はアテにならない…そんな健康診断で「本当に注意するべき項目」を医療記者が解説する〉で便秘が腹囲を大きくすることに触れましたが、純粋な脂肪燃焼のみで「ウエストマイナス10センチ」を達成しようとすると、どうなるでしょうか。

個人差はあるものの、ウエスト1センチ減=脂肪1キロ減と言われます。つまり、「ウエストマイナス10センチ」とは「脂肪10キロ減」と同じことを意味しています。実は、わりとハードな目標であることが実感できたでしょうか。これを実現するためには、最初だけ、しっかり計画を立てることが必要です。計画さえ立ててしまえば、あとはそれに沿って生活するだけなので、安心してください。

■「7万2000キロカロリー減」という途方もない数字だが…

さて、脂肪10キロを落とすには、一体どれくらいのカロリーをマイナスにすれば良いのでしょうか。ここで、脂質1グラムは9キロカロリーです。しかし、人間の脂肪は「脂肪細胞」という細胞の中に、脂質と水が一緒に蓄えられています。このうち脂肪細胞の約8割が脂質で、残り2割ほどは水分。つまり、脂肪1キロであれば、その中にある脂質は800グラムほどで、つまり7200キロカロリーということになります。

10キロであれば7万2000キロカロリー。この分、カロリーの収支をマイナスに傾ければ、ウエストマイナス10センチを達成できることになります。

やはり途方もない数字に思われますが、それは期間を設定していないからです。

ここでもし、みなさんが健康診断の結果を受け取った後だとしたら。良いタイミングなので「次の健康診断」、仮に半年後を目標にしてみませんか。半年後なら、30日×6カ月で180日の時間があります。7万2000キロカロリーを180日で割って、1日あたりにすると400キロカロリーです。1日あたり400キロカロリー分、カロリーの摂取と消費のバランスを、消費側に傾ける、ということです。

■ご飯は小盛り、3000歩あるく、発泡酒のロング缶をやめる

私自身、この方法でマイナス5キロ、ジムに行かずに痩せる20日間ルーティンと合わせるとマイナス10キロの減量に成功しています。

出典=『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』

その実体験から例えば「夕食のご飯を小盛りにする」とマイナス50キロカロリー、「風呂(ふろ)掃除とワイパーがけをする」とマイナス50キロカロリー、「3000歩を目標に歩く」とマイナス100キロカロリー、「おやつのどら焼きを控える」とマイナス250キロカロリー、「発泡酒のロング缶を飲むのを止める」とマイナス250キロカロリーといったように、複数の方法を組み合わせていくのが戦略。

また、週2回の頻度で3カ月間の筋トレを続ければ、3カ月以降は何もしなくても1日マイナス100キロカロリー基礎代謝で消費されるので、ラクになります。

写真=iStock.com/spukkato
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/spukkato

こうして「余計な部位の脂肪をなくす」ことができたら、今度は「希望の部位に筋肉をつける」のスタートです。しかし、全身の筋肉は大小約400個もあります。いきなり希望の部位と言われても、ピンと来ない人がほとんどでしょう。その場合はまず、「大きい筋肉から鍛える」と覚えてください。大きい筋肉を鍛えれば、自然とその周囲にある小さい筋肉も鍛えられます。その中でも特におすすめなのが、次の筋肉を鍛えることです。

■「健康そうな人」と「そうじゃない人」の違いが出る

▽大胸筋:胸の大きな筋肉。男性であれば厚い胸板になり、女性であればくぼみやすいデコルテに張りを与え、バスト位置を引き上げる効果も。
▽腹直筋:いわゆる腹筋。お腹の中央かつもっとも表面にある。「シックスパック」や「縦線」が出やすくなり、ぽっこりお腹を物理的に引き締めることもできる。
▽広背筋:背中の大きな筋肉。上半身のすっきりとした印象や、さらに鍛えればいわゆる「逆三角形」のボディラインを作ることが可能。
▽大腿(だいたい)二頭筋〜大臀(だいでん)筋:太もも裏〜お尻の大きな筋肉。脚の引き締め、ヒップアップ、また姿勢を維持して将来のケガや病気を予防することにもつながる。

ボディメイクは体にメリハリを作ることでもあります。

私は『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)のまえがきで「見るからに健康そうな人と、そうじゃない人は、何が違うのか」と書いています。見た目に大きな影響を与えるのは、このメリハリがあるかどうかです。

■「太った?」と聞かれる最悪のダイエットとは

朽木誠一郎『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)

もし、「余計な部位の脂肪をなくす」ことをしないまま、「希望の部位に筋肉をつける」ことをしようとすると、どうなるでしょうか。そうすると、ただ全身が大きくなったように見えて、せっかく努力しているのに「太った?」と聞かれかねません。逆に「余計な部位の脂肪をなくす」ことだけをして、「希望の部位に筋肉をつける」ことをしないと、ガリガリでかえって不健康に見えてしまいます。

太り過ぎだけでなく、やせすぎもまた、健康には大きなリスクであることは、この機会に指摘しておきます。正しい知識をもとに、20日間プログラムやウエストマイナス10センチのための半年間のカロリー収支計画を実践し、健康的な生活が習慣化されて初めて、それぞれの理想の見た目が手に入るのです。

こう説明すると、ハードルがかなり高いように感じられてしまうかもしれません。実際、ひと昔前まではそのハードルはかなり高く、それゆえにボディビルダーやフィットネスモデルは稀有(けう)な存在だったのです。ところが、現在はガジェットやアプリの登場により、「理想の見た目」はだいぶ手に入りやすくなっています。恐れずに、貪欲(どんよく)に、進んでいきましょう。

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朽木 誠一郎(くちき・せいいちろう)
ライター・編集者
地方の国立大学医学部医学科を卒業後、新卒でメディア運営企業に入社。その後、編集プロダクション・有限会社ノオトで基礎からライティング・編集を学び直し、BuzzFeed Japan Medicalの立ち上げに従事。現在は大手報道機関に勤務しながら、個人としても雑誌『Mac Fan』や『Domani』公式サイトなどで執筆中。主著に『健康を食い物にするメディアたち』(ディスカヴァー携書)。近著に『医療記者のダイエット 最新科学を武器に40キロやせた』、『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)がある。
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(ライター・編集者 朽木 誠一郎)