コロナ禍や物価高の影響で、家で料理をする機会が増えています。それに比例して、「料理疲れ」の声も聞かれるようになりました。生徒数1万人以上という人気を誇るオンライン料理教室を運営するSHIORIさんに、日々の料理でしんどくならないためのコツや考え方を教わりました。

料理家・SHIORIさんに聞く、献立を考える苦痛の解消法

対面・オンラインのレッスンを通じて、数多くの生徒さんと向き合ってきたSHIORIさん。「料理教室の成長実感ポイント」として設定しているのは、素材の味を生かせるようになること、旬を身近なものにすること、買ったり外で食べるのが当たり前だったものがつくれるようになることだと言います。

「単においしいレシピを提供するだけではなく、“食卓から暮らしが豊かになった”という変化を感じてもらいたいと思っています」

 

●料理と一度ちゃんと向き合ってみる

たとえば、旬を取り入れることは、多くの人が「苦痛」と感じがちな献立づくりにも役立ちます。

「旬の野菜って、そのままでおいしいので、手や味を加えすぎず、冷やして切るだけ、塩もみするだけ、焼くだけ、で十分な一品になります。しかも栄養価は高いし、安価だし、何より時短で、一石三鳥。ごはんのおかずにしようとするとしっかり味が多く食卓に並びがちですが、素材の味を楽しむ料理があると、舌がリセットされます。野菜をドレッシング味で食べるのではなく、野菜本来の味を思い返すいい機会にもなり、メリットが多いと思います」

さらに長期的に「料理が苦手」という悩みを解決したいのであれば、「一度じっくり向き合ってみてほしい」とSHIORIさんは話します。

「長年たくさんの生徒さんを見てきましたが、最初は『料理が苦手で毎日献立を考えるのが苦痛。なにをつくればいいのかわからない』というお悩みが、レッスンを受けて3か月もたつと『つくりたいものが渋滞している。選択肢が増えて自分で選べることがうれしい』と多くの方が言ってくださっています。

レシピのレパートリーをやみくもに増やさなくても、料理のプロセスを本質的に理解することで応用がきくようになります。そうなるとおのずとアレンジの幅が広がり結果的に日々の料理を助けてくれるんです。自分でもおいしくつくれる! という自信がもてると、料理がどんどん楽しくなるんですよ。さらには家族やパートナーが喜んでくれたりしたら、つくる喜びが加速し、苦痛や苦手も自然と楽しいに変わることが多いです。

同じ時間キッチンに立つならせっかくなら楽しく、前向きな気持ちで過ごせると嬉しいですよね。料理がつらいという方は一度じっくり料理と向き合ってみることが根本的な解決に繋がります」

●手軽を上回るおいしさがあるから感動できる

SHIORIさんのレシピといえば、思わず「つくってみたい」と思うネーミングも印象的。「長生きカルボナーラ」「ご自愛フォー」「貴族のチャーハン」「悪戦苦闘しない蟹クリームコロッケ」などなど…。

「長生きカルボナーラ」は、“時間差で食べ始めることの多いお母さんが最後までおいしく食べられるカルボナーラをつくりたい”との想いから試作を重ね、10分たってもおいしさが続くレシピを誕生させたのだそう。

「私が紹介するレシピは、一生活者にとって現実的であることを重要視しています。家庭料理ってある程度味の想像がつくので、感動するレシピをつくるのって簡単ではないんです。それでも想像を超えたときに感動は生まれて、自分でも感動するほどのレシピがつくれるという自信は、必ずやその後の料理人生を支えてくれる。そう信じて、レシピづくりに向き合っています」

 

●おいしいものを食べて気持ちが安らぐのは、幸せが今目の前にちゃんとあるから

『おいしい仕事術』の冒頭は、“「おいしい」の意味を考えたことはありますか?”という問いかけから始まり、以下のように続きます。

「おいしい」は、足るを知るということ。

おいしいものを食べて気持ちがほっと安らぐのは、どこか遠くに求め続けている幸せが「今、目の前にちゃんとある」ということを心が認識して安心するがゆえ。

「あぁ、今日という一日を生きててよかった」

おいしいものを食べてそう思えるのは、たった4文字の「おいしい」という感情が今日の自分を全肯定し、優しく包み込んでくれるがゆえ。

それこそが、おいしいごはんが明日を生きる活力に繋がる証。

「おいしい」はいつだって生きる味方なのです。

「忙しい現代人には、時短料理というアプローチは確かに不可欠。私自身も、子育てしながらでもサッとおいしくつくれる時短レシピもご紹介することもありますが、コロナ禍を境に『簡単・手間なし・時短』ばかりがクローズアップされることに違和感が爆発しました。手間ひまかけた料理にはまた別のよさがあります。おいしさはもちろん、相手にも伝わるものがあるんですよね。

コロナ自粛期間中に、インスタグラムで無料ライブ配信でレシピを提案し続けたのも、そんな思いから。世の中が不安なときだからこそ家庭料理の底力を伝えたかったんです。その結果、たくさんの人に喜んでいただけました。“簡単・時短”だけでは解決しなかった料理のストレスが、つくる喜び、つくる楽しみ、料理が持つ本質的なやりがいに触れることでやわらいだのだと思います」

最近は、レッスンで取り上げたちらし寿司で、和食のもつ華やかさに圧倒されたというSHIORIさん。「食べ疲れないし、ハレのごちそうとしても、日常食としても楽しめる。こうした日本の食文化を後世に伝えていきたい」とも語ってくれました。