SNSなどで発信される「キラキラしたお母さん」の姿を見て、「できていない自分」に苦しんでいませんか? 「完璧じゃなくていい」「やらないことを決める」と話すのは、料理家のSHIORIさん。出産をきっかけに完璧を目指さないようになったというSHIORIさんに、仕事とプライベートの両立や、生きやすくなるために心がけていることを伺いました。

「完璧を目指さない」「苦手なことは周囲に助けを求める」を意識して生きやすくなった

22歳で出版したレシピ本『作ってあげたい彼ごはん』がベストセラーとなったSHIORIさん。以降、第一線で料理家として活躍し続け、自前のキッチンスタジオでの料理教室も人気でしたが、現在はクローズし、オンライン料理教室「L’ATELIER de SHIORI Online」やYouTubeでのレシピ配信に主力を移しています。そのきっかけは、2019年に出産したお子さんの難聴が判明したことでした。

●苦手なことは全部辞めて、できることだけに集中

「重度の先天性難聴、つまり、生まれつき耳が聞こえない可能性があると診断されました。息子の療育を優先したい、でも仕事も諦めたくない…と悩みに悩んだ結果、働き方を変えよう、と。これまでやってきた仕事の中からやらないことを決めるしかなかったんです。

なので、私の場合は息子の療育にしっかり向き合えるよう拘束時間や心のゆとりを重視し、勇気を出して仕事の大半を手放してできることだけに集中しました。そのおかげで、その頃始めたオンライン料理教室にエネルギーを全集中させ、納得がいくまで取り組める環境をつくることができました。これが仕事のクオリティを向上させ、よい結果に繋がり、今に至ります」

仕事術をつづった書籍『おいしい仕事術』(小学館刊)の中でも“やらないことを決めれば時間や気持ちにも余裕が生まれる”と書かれていますが、苦手な部分の仕事は「人にまかせる」ことでラクになったのだそう。

「私は料理以外、だいたい苦手な人間なんですよ(笑)。料理家って、生活全般が整っていて丁寧な暮らしをしているイメージを持たれやすい。でも私は本当に料理以外のことはポンコツで、掃除や洗濯といった家事やパソコン作業も本当に苦手なんです。オンライン料理教室のカメラマンは夫、試作のアシスタントや事務作業は妹にお願いしているのですが、自分ができないことを引き受けてくれているので、リスペクトと感謝の気持ち絶えません。ふたりがいなければ私の仕事は成り立たないですから。

だから家族といえど、『あなたのおかげで今回もうまくいったよ。いつもありがとう』という声がけを常にするようにしています。

『ありがとう』と感謝を伝えることは、あなたのしてくれた心遣いが嬉しかった、助かりました、という意思表示でもあります。それは、相手の存在を受け入れ肯定する行為だと思うのです。だから近しい関係であってもなあなあにせず、感謝の気持ちは丁寧に、その都度伝えたいなと思います」

●コミュニケーションはくどいくらいがちょうどいい

身近な人ほど、ついコミュニケーションをとることを怠りがちなもの。しかしSHIORIさんは「コミュニケーションはくどいくらいがちょうどいい」と語ります。

「私自身が心配性なこと、そして全員が集中して自分の話を聞いているわけではないという自覚があるからです。サービスを提供するなかで「これだけ繰り返し伝えてもどうして伝わらないんだろう?」と思うことがあります。でも、いざ自分がサービスを利用する側、情報を受け取る側にまわると、説明をよく読まなかったり、聞いているつもりで他のことを考えていたり、自分に都合の良い解釈をしてしまっていたり、そもそも気にとめていなかったり...。伝わらないことを責められる立場には到底ありません。

そんな気づきを得てからは「もう何度も伝えてるのに!」と一方的に腹を立てていては何も解決しないことを悟り、相手の立場に寄り添ってもっとわかりやすい別の伝え方を模索したり、繰り返し根気よく伝え“届けきる”ことを意識するようになりました。

また“伝えた”と“伝わる”は違います。たとえばスタッフになにかをお願いするときも、なんのためにそれをやるのかを丁寧に説明します。それでも伝わってなかったときは『私はこう伝えたつもりだったけどあなたにとってはどういう理解だった?』と、どこに語弊があったのかをきちんと突き止める。そうすることで両者の目的の擦り合わせをし、再発防止にもなります」

SHIORIさんといえば料理家ブロガーの先駆者で、現在もSNS上でも多くのフォロワーを獲得しています。SNSで「伝える」ことについては、どのように工夫しているのでしょうか。

「なるべくありのままで、なんでもうまくいっている人と思われないように等身大のリアルを伝えたいなということは心がけています。最近は偏食な息子の茶色一色のお弁当を公開したら、しおりさんちもそうなんですね! 安心しました! と言ってもらえて。完璧なんかじゃないよ、ということが少しでも伝わって嬉しかったですね」

 

●行きづまったときは「向き合い方のスイッチを切り替える」

完璧でなくてもいいとはいえ、解決策なしにはままならないこともあるのが仕事。SHIORIさんご自身が悩んだときはどうしているのでしょうか。

「解決策がひとつしかないと考えることが行きづまりに通ずるんですよね。なにごとも答えはたくさんあると思っているので、よりよい解決策があるんじゃないかと模索して、その方法について調べて、考えます。現実を知るのが怖くて調べたくないというときもあるかもしれないけれど、後々もっと早く調べていればよかったと思うかもしれない。息子の難聴がわかったときの私が、まさにそうでした。今、医療はすごく発達していて、選択肢もたくさんあるんです。でもショックと恐怖で、自分から情報を遮断していた時期が長くありました」

この考え方は“苦手なことは周囲に助けを求める”にもつながるといいます。

「自分の手の内にあるものだけで解決しようとすると行きづまる。だからこそ、信頼できる人に頼ったり、教えてもらったり、相談することも時には大切だと思います」

この解決法は、仕事だけでなく、家庭や人間関係の悩みにも共通しそうです。