3年分の家族の朝食と、娘さんのお弁当の写真を1冊にまとめた本『おいしい朝の記憶』(扶桑社刊)を出版した料理研究家の飛田和緒さん。娘さんが大学入学と同時にひとり暮らしを始め、自身の人生においても大きな節目を迎えた飛田さんに、これからの暮らしについて伺いました。

娘のためにお弁当づくりで工夫してきたこと

―― 16年もの長い間、お弁当づくりを続けてきた飛田さん。「おいしい」だけでなく、「安全」を保つために、工夫されてきたことはありますか?

【写真】おにぎりとスープジャーの「車中飯」

飛田 わが家は、娘が小学生のころから「(曲げ)わっぱ」のお弁当箱をもたせていたんです。わっぱは、においもこもらないし、適度に水分を蒸発させてくれる働きもあるからごはんもいたみにくい。さらに詰めるだけでおいしそうに見せてくれるので、安心して使えました。実際、ずぼらな娘が翌朝お弁当箱を流しにおいても、いやなにおいはなかったですね。

それに加え、小さなころから卒業まで梅雨の時期から夏場は保冷バック、それから果物には必ず保冷剤をつけていました。あとはお米に梅干しを入れて炊くとか、酢飯にするとか。それ以前は通学先からの要請もあって(水分量の多い)トマト、ミニトマトは避けていましたね。

●娘のことを思ってやめたこと

――いろいろ気を遣っていたんですね。

飛田 でも、中学生を過ぎた頃から、あまり神経質になるのはやめたんです。母親としては「ごはんが傷んでいる」というのも、娘が判断することを経験しておいてほしいなと思って。今の子どもたちって「カビ」を見たこともないし、腐ったもののにおいもわからないっていうケースが多いみたいなんですね。だから、一回ぐらいそういう日があってもいいかなと思っていました。あいにくそういう機会はありませんでしたが。

―― ひとり暮らしをはじめた娘さんが、そんな経験をする日がくるかもしれませんね。

飛田 娘はこれから、自分で食事をつくって、自分の体を管理していくわけですが、今はたぶん、そんなこと一切考えているわけもなく、親元を離れて、とにかくのびのびしているんじゃないかな。だからね、冷蔵庫からとんでもないものが出てくるとか、出しっぱなしにしていたら変な臭いがしたとか、そういう苦い経験をこれから彼女がしてくれたらいいなと思ってもいるんです。

●お弁当づくりが終わってもルーティンだったSNS投稿は続けたい

―― あえて険しい道に進ませるのも親心ですね。ただ、そうやって愛情を寄せる娘さんが家を出てお弁当づくりが終わった今、飛田さんのお気持ちはどうでしょうか?

飛田 確かに今、一段落をついた感じです。ずっとお弁当の投稿してきたインスタグラムを「やめないで」という声も多くいただいたし、私自身もせっかくここまで続けられたのだから、これからも続けたいなと思っています。それで先日、これからは「ひとりごはん」で続けます宣言をしました。夫は海外出張が再開されてほぼ家におらず、ひとり暮らしに戻ったような状態です。だから、ひとりごはん、時々ふたりごはんとして投稿していこうかなと。毎日じゃなくてもいいし。お弁当づくりを終えて多少ほっとした部分はあるんですけれど、仕事でも日常でも、お料理はこれからもつくり続けていくわけですしね。

――今後は、お仕事でもある「料理」とどう向き合っていきたいですか?

飛田 じつは今、あらためて「料理」を習いに行きたいなと思っているんです。私は母や祖母以外のだれから教わったわけでもなくこの仕事に就いたこともあり、ちゃんと基礎から料理を学んでみたいという気持ちがずっとあって。数年前に小黒きみえ先生にお菓子を習いに行った際も、たくさんの発見や学びがありました。今度はお料理でもそんな機会があればなって。子育てが一段落した今だからこそ、新しいことを始めて新しい自分に出会えるような気がしています。

 

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