WBC優勝の陰に、優れたチーム・マネジメントあり! 日本代表選手たちを「その気にさせた」栗山英樹監督3つのポイント(大関暁夫)

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野球の国際大会ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表チーム「サムライJAPAN」が見事優勝し、日本中が祝福一色に包まれました。

祝福ムードの尋常ならざる盛り上がりの中で、優勝に至る過程におけるチーム内での秘話など、さまざまなエピソードが紹介されました。

そのなかでも特に、指揮官を務めた栗山英樹監督のチーム・マネジメントからは、企業における組織運営のヒントも満載であったように思います。ポイントをピックアップして、振り返ってみます。

選手たちが自ら考え、自らの役割を果たせるように

1 主将(キャプテン)を設けないフラットなチームづくり

2月のキャンプ初日に今回のチームには主将を置かないことを明言し、選手には次のように説明したと報じられています。

「キャプテンは決めません。全員『俺がキャプテンだ』と思ったら、プレーは変わるはず。チームがジャパンじゃない。あなたがジャパンなんです。誇りと、チームを引っ張る気持ちでやって下さい。年齢も、実績も関係ない」

キャプテンを決めなかったのは、「考えに、考えまくった結果」だったと言います。「主将について、昨年11月の強化試合から熟考。一時は具体的候補を考えもしたが、根底にある思いは皆一流選手なんでわかっているはず」と、各選手の自覚にゆだね、任せることを選んだのでした。

結果、36歳の最年長ダルビッシュ有選手(米サンディエゴ・パドレス)が、率先して皆のまとめ役を買って出て、日の丸の重みに悩む若い選手たちの気持ちをときほぐして野球に取り組む気持ちを伝えたり、トレーニングや投球方法についても余すところなく自身の知識を伝授したりしたことが、メディアでも大きな話題になっていました。

ダルビッシュ選手だけではなく、大谷翔平選手(米ロサンゼルス・エンゼルス)が対戦相手となってくるメジャーリーガーたちの情報を共有したほか、近藤健介選手(ソフトバンク)、山川穂高選手(西武)、牧秀悟選手(DeNA)らが、積極的にムードメーカーとしてチームの盛り上げ役を買って出たことで、結束が固まり何より明るいチームカラーが醸成されたということもありました。

短期戦と長期戦ではチーム・ビルディングの考え方が異なる部分もあるとは思いますが、今回の短期戦ではリーダー的な存在を意図的につくらなかったからこそ、選手各自が自分の特性を自覚して、自らの役割を果たしたことが大きなプラス効果を生んだと考えます。

組織にいち早く馴染むには? ヌートバー選手に学ぶ

2 あえて未知の戦力を重要ポジションに投入する

大会開幕当初から多くのメディアで取り上げられているように、米国籍の日系人メジャーリーガー、ラーズ・ヌートバー選手(米セントルイス・カージナルス)の大抜擢も、チーム・ビルディングにおいて大きな起爆剤となったと言われています。

ハッキリ申し上げて、ヌートバー選手は、大会前まで、余程のメジャーリーグファンでない限り、日本ではほぼ無名に近い存在でした。栗山監督が彼を限られた代表選手の一人に選んだ時、「他に選ぶべき選手が国内にいるのでは」といった声がファンだけでなく、評論家の一部からも聞こえていました。

栗山監督はヌートバー選手を招へいした決め手についてテレビのインタビューで、「本人と直接会って話をして、その性格のすばらしさを知り一発で決めた」と話しています。「一番バッターという切り込み役と、外野守備の要となるセンターを彼に任せた」のは、まじめで前向きで明るい性格を見込んでのものだった、と振り返っていました。

面識の薄い者同士でのチームの一体感づくりに、メンバー共通で未知の存在であり、かつ、明るい性格で組織にすぐ馴染めそう、と栗山監督自身が確認し、確信したわけですね。しかも、そんな彼を、メンバー相互の壁を取っ払うつなぎ役的存在として期待し、抜擢したというのは、間違いなく栗山監督のファインプレーであったといえるでしょう。

逆に、ヌートバー選手から企業勤務者が学ぶべきは、転勤などで顔見知りがいない組織に突然放り込まれた時に、どうすれば早く組織に馴染んで他のメンバーたちとうまくやっていくことができるかです。

それはすなわち、自分から進んでコミュニケーションをとる積極性と自己に与えられた仕事に対する誠実かつ一生懸命な姿勢――この2点に尽きるのだと、ヌートバー選手は教えてくれたと思います。

本当の「信じる力」とは...ただ黙って待てばいいのではない

3 メディアで話題の「信じる力」のベースにあるもの

負けたら終わりのWBC決勝ラウンド最大のヤマ場は、メキシコとの準決勝での村上宗隆選手(ヤクルト)の活躍による逆転サヨナラ勝ちにあったと、さまざまなメディアが伝えています。

村上選手はそれまで不振に苦しんでいたのですが、復活を信じて彼を中軸で使い続けた栗山監督の采配と、それを支えた「信じる力」を絶賛する声が各方面から聞こえています。

しかし、この「信じる力」は、ただ黙って信じて待てばいい、というわけではなかったはずです。この点に関するヒントを、日本ハム時代から監督と「二人三脚」で成長してきた大谷翔平選手が話していました。

「栗山監督はとにかく我々選手一人ひとりとコミュニケーションを密にとってくれるので、安心してやれます」

そう話していた彼のコメントからは、栗山監督の細やかな配慮に裏打ちされた選手掌握術がよく分かります。監督と選手の信頼は、どちらか一方向だけでは成り立たないわけです。双方向での信頼を勝ち得るためには、まず上の者から、「どうして欲しいのか」「何を期待しているのか」について明確に意思を伝え、そのうえで膝を詰めて、お互いに理解しあうことが重要です。

栗山監督は、大学時代に教師を目指して教職課程を学んだとこが活きているのでしょう。指導者としてあるべき部下との接し方を理解したうえで、一人ひとりの気持ちをしっかりと捕まえているからこそ、その「信じる力」が有効に働いたのだと思います。

以上の話はもちろん、優勝という結果が伴ったからこそ言えることであり、結果論的な話と言われればそれまでかもしれません。

しかし、成功の陰には必ず他の世界でも参考になるエピソードがあるのもまた確かです。そのような目で祝賀報道を見てみれば、まだまだ多くのヒントが隠れていると思います。(大関暁夫)