掲載:THE FIRST TIMES

写真拡大

中島美嘉が中国発の人気アニメ『魔道祖師 完結編』日本語吹き替え版のオープニングテーマとして書き下ろした「Beyond」を通算48枚目のシングルとしてリリースする。シングルとしては、前作「Wish」以来と4ヵ月ぶりとなる本作は、長い時を越えて思い続けるふたりの運命の愛を綴った歌詞は自身が手がけ、作曲はサウンドクリエイターのCarlos K.との初の共作によるラブバラードとなっている。昨年5月にリリースした10枚目のアルバム『I』で、全曲が自身の作詞作曲による初のプロデュースに挑み、「再デビューのような気持ちでいる」と語った彼女が向かう新たなフェーズを探る。

【その他の画像・動画を元記事で見る】

■いろんなクリエイターと仕事をしていこうっていうのがテーマのひとつ

──「再デビューの気持ち」とおっしゃっていた6枚目のアルバム『I』をリリースし、全国コンサートツアーを終えたあとの心境から聞いていいですか。

あれはあれでやりきったので、続けていく気はなかったですね。あのアルバムを作ったから、よし、ここからは全部、絶対に自分の作詞作曲でいくんだとは思ってないんですよ。そのときそのときでやりたいからやってるけど、前と同じことをやろうとは思ってなくて。あのアルバムを作り終えた時点で、きっとまた次のステージに進むであろうことはわかっていたので、もう捨てるというか、もうやりきって、次に行こうとしてます。

──その次っていうのは、何か考えてましたが。

私は詳しくは考えてなかったんだけど、みんなが考えてくれたことが楽しそうと思って。まだね、言えないんだけど(笑)、「Wish」や「Beyond」と近しいことかな。いろんなクリエイターと仕事をしていこうっていうのがテーマのひとつでもあります。

──前作「Wish」はアニメ『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』のエンディングテーマで、作曲は複数のコンポーザーのコライトで、サウンドプロデュースはトオミヨウさんが務めてましたね。まず、前作に続いて、アニメのタイアップということに関してはどう感じてますか。

デビュー当時からなぜかちょいちょいやらせてもらうことが多かったんですけど、ここ最近、めちゃくちゃ多いので、ありがたいことだなと思ってます。ただ、今回は曲を作る前にアニメやドラマをあえて何度も深くは見ないようにしてて。

──どうしてですか?

すでに大人気のアニメだから、見ちゃうとセリフを抜いちゃうんじゃないかって思ったんです。それは避けたかったので、アニメのストーリーや世界観を聞いて、“時間を越える”“運命”“戦い”、それに“ラブロマンス”というキーワードだけをもらって。あとは、見ないようにしたというか、そもそも、『魔道祖師』の主人公ふたりが並んでる絵を見た瞬間に、絶対にこれだというものが思い浮かんだんですよね。

──作詞をご自身で手がけてますね。

はい。「書きます。書きたいです」って自分で言いました。いつもそこが越えられない壁だなと思ってて。歌詞をずっと書いてたけど、タイアップのときはあまり書いたことがなかった。それが、自分はもうちょっと成長しなきゃいけないのと同時に、私から「書きたい」と言ってなかったなと思って。

──今回は自分から言ったんですね。

はい。それをやらないとまた後戻りするからです。タイアップはやっぱりプロの作詞家さんに任せましょうっていうことが当たり前になっちゃってて。でも、『I』の制作過程で何十曲も書いたから、今なら、いろんなことができるのかもしれない。もしかしたら、歌ってるからこそ、作詞家さんより柔軟なところも出てくるかもしれない。だから、やってみますって言いました。自分を追い詰めないと絶対にやらないから。

──作曲もCarlos K.さんと中島さんによるコライトになってますね。

スタッフさんの提案だったですけど、誰かと一緒に曲を作ることは喜んでやりたいなと思ったし、楽しみで仕方なかったですね。

──でも、初対面は苦手なタイプじゃないですか。

そうですね。でも、もう歳かな(笑)。なんなんだろうね。ちょっとずつ大丈夫になってきて。特に、制作の場だといいのかもしれない。これまでよりは、自分がしたいことを言えるようになりましたね。以前は絶対に、自分の意見なんて言っちゃダメだって思い込んでたから。最近は、迷いがないぶん、言ったほうがいいなと思って。

■トラックを聴いた瞬間に歌い始めるときが結構あるんですよ、まだ1回も最後まで聴いてないのに

──どうやって作っていきましたか。

最初にCarlos K.さんが大まかなトラックを作ってくれて。そのトラックを聴いた瞬間に歌い始めるときが結構あるんですよ、まだ1回も最後まで聴いてないのに。そうすると、カチッとハマるときがあって、そのパターンでしたね。音を流し始めて、どこから入れるかもわかんないままで適当にメロディを歌い始めたんです。そしたら、合ってたから、もう1回歌いながら録音して、それで終わりです。Carlos K.さんに送って、また返ってきて。そこから会って、調整していったという感じですね。

──一緒に作曲してみてどうでしたか。

キャッチボールが早いからいいですね。ただイメージを伝えてやるよりも、経験豊富な人とやるとなんとなくキーワードでわかってくれるから、楽しかったです。

■強い思いは、たとえ離れてても消えないんだよっていうことがどっかで伝わればいいなと

──そして、作詞ですよね。先ほどあった、ふたりが並んでる絵を見た瞬間に絶対にこれだと思ったのは?

もう会えないかもと思って生きてきたけど、やっぱり信じてれば願いは叶うんだよねっていうことですよね。強い思いは、たとえ離れてても消えないんだよっていうことがどっかで伝わればいいなとは思って。あとは、Carlos K.さんが『魔道祖師』の絵をいろいろと見せてくれて。湖がよく出てくるので、わかりやすいキーワードとして“水鏡”という言葉を入れて。

──CDジャケットが、書き下ろしによるアニメ絵柄になっていて、まさにそのシーンが描かれてますよね。

そのまま描いてくれてびっくりしましたね。オープニングムービーでも、これじゃどっちがメインかわからないっていうくらい、私の名前が大きく出てて。ありがたいし、光栄なことだし、合ってたんじゃないかなって思います。

──ベタな聞き方をしますけど、運命は信じてますか。

はい、信じてます。それは、自分のこれまでの人生で、説明のつかないことがたくさん起きているから。もうね、運命という言葉で片付けたほうが楽なことが起きるから、私は信じてますね。これはいつも言ってるけど、根拠のない自信を持つときは、特に運命だと思います。なんかわかんないけど大丈夫だって。まだ見えてないけど、これをやったら絶対大丈夫だって思うときは、運命が呼んでくれてるような気がいつもしてるかな。

──レコーディングにはどんなアプローチで臨んだんですか。

ちょっと切なくて力強くっていうことを意識してました。あとは、歌詞に書いたそのままの思いですね。

──1回目のサビでもう涙が誘われました。

実は作詞は珍しく手こずって、特にサビを何回か書き直したんですよ。最初はスタッフのみんなから“どれだけ 寂しくて/どれだけ 君を想い”と繰り返すのはもったいないという反対があって。でも、私“どれだけ”を繰り返すことが切なくて、最初からそこは決めていたんですね。みんなが言うように1回、変えてみたんですけど、やっぱり嫌だって言って戻したんですよ。

──いや、ここに涙腺スイッチあります。

ありがとうございます。良かったです。あと、拘ったのはBメロからサビにかけて出てくるコーラスワークかな。ディレクターと「また大変なものを作ったね(笑)」って言いながらじっくりと時間をかけて積み上げていきましたね。

──楽曲全体の世界観としてはふたつの時計が重なってくようなSEも入ってますし、エフェクトがかかってるパートもあります。

そこがいちばんわかりやすいキーになるようにはしました。ふたりの時間がまた動き出すていうイメージかな。ふたりがまた出会って、重なって、願って、解き放つみたいなイメージがそこでぐっと浮かび上がればいいなと思って。

──「Beyond」っていうタイトルにしたのはどうしてですか。歌詞には出てこないですよね。

ひらめいたから(笑)。ギリギリまでタイトルが決まらなくて。競争みたいにみんなで決めることがあって。プロデューサーとディレクター、私での3人でタイトルを出し合うんだけど、全然ピンと来ないねってずっと言って。でも、レコーディングで歌ってみたら、「ビヨンドはどう?」ってピンときて。

■時も越えるし、苦痛や喜びもそう。とにかく過去を越えないと今がない

──越えるという意味ですよね。何を越えるんでしょうか。

いろんなこと。時も越えるし、苦痛や喜びもそう。とにかく過去を越えないと今がないんだっていう。だから、最初は、その“何を越えるか?”の“何?”の部分をみんなが考えていたんですよね。何かを通過するみたいな意味をずっと考えてたんだけど、結局、“越える”だけでよかったんだねということですかね。

──楽曲が完成した感想も聞かせてください。

自分で作ることにまだ慣れてるわけじゃないんで、昨日、テレビの収録で初歌唱して、やっと客観的に感じ取れたんですね。収録後に映像をチェックして、自分が歌ってるのを聴いたら、あ、いいかもしれないと思いました。

──いや、グッとくるバラードになってますよ。この曲がデジタルではなく、48枚目のフィジカルシングルとしてリリースされます。

最初、私はそんなつもりなくて書いちゃってたんですけど、やっぱり、ものになるのはうれしいですよね。ただ、それよりも48枚目という枚数にびっくりしますね。ってことは、曲が何曲あるんだって毎回思いますし、似てきちゃうんじゃないかっていう怖さがある。

──そこで、ご自身の作詞作曲が増えたり、これまでやったことない人と一緒にやることで新しいものがどんどん生まれてきますよね。

もうその予定でしかないです。前から言ってて、私の強みになってきてるのが、なんにも関係ないというか(笑)。時代もジャンルも一切関係なくて、私自身も怖いと思ったことがないんですね。「今、こういう時代なのにどこ行ってんの?」って言われることも楽しくてならないから(笑)。行くとこまで行っちゃうみたいな感じでいますね。それは、鷺詩さん(鷺巣詩郎)のおかげもあって。

──今の人には『エヴァンゲリオン』シリーズの音楽監督としても知られているプロデューサの鷺巣詩郎さんとは「Wish」のカップリングに収録された「Mirage with Shiro SAGISU」でコラボしていました。

あの方がここまで気に入ってくれたってことは、もう行くとこまで行っちゃおう、いろんなことやっちゃえっていうモードになってます。私が突然K-POP的なもの歌ったらみんな驚くでしょ。

──いや驚かないですよ!

どうしちゃったのってなるのでしょ。

──バラードのイメージは強いですけど、以前からアシッドジャズからニューオリンズ、ラバーズロックやパンクロックと、いろんなジャンルを横断してるので。

あんまり今、何が流行ってるかを知らないからこそ、私には怖さもないし、できることは多い気がします。ここからはもう全部、振り切るんじゃないですか。休憩曲はいらないです、今の私には。

■ジャンルじゃなくて、自分が惹かれるものははっきりしている

──これからもジャンルにこだわらず、いろんなクリエイターの攻めの姿勢で曲を作っていく?

そうですね。ただ、ジャンルにはまったくこだわらないけど、自分がどういうものが好きのかはわかってきていて。ジャンルじゃなくて、自分が惹かれるものははっきりしているので、ぐちゃぐちゃのことをやってても、何か統一感はきっと出てくるでしょうね。楽しみにしてください。

──そして、現在はアコースティックツアー中でもあります。2014年から始めましたは、ご自身にとってどんな場所になってますか。

今はこのプレミアムライブを始めた当時を思い出しながらやってますね。じゃないと、ありがたいことにキャパがちょっと広がってて、ホールツアーのようになっていってるから。ホールツアーだって、勘違いして来る人もいるんですよね。「違うよ」って言うんです(笑)。

──あははは。言うんですか?

言いますね。ありがたいことに、初めて来た人たちも結構多いんですよ。「あの曲、歌うと思ってるでしょ」って聞くと、「うん」ってうなずく人いるから、「ないよ」って言って。そこで一応、毎回、説明をするので、ぶれないかもしれないですね。“ホールではなかなかやれない曲”で、“3つの音だけで作る世界観を飽きないようにすること”と、ずっと言ってるのは、“大人が平気で泣ける”もの。これは絶対に壊しちゃいけないテーマですね。あとは、私が倒れるまで歌うっていうぐらいかな。余力を残さないライブにしたい。実はホールツアーのほうが結構楽なんですよ。着替えも行ったりすることもできるから。でも、これは1時間半ずっと出っぱなしで、ずっと歌いっぱなし。クリックもないし、こんな疲れること、やりたくないんですけど。

■今回も本当に倒れそうなんですけど、そこまでやらないと気が済まなくなってきて

──あはははは。修行なの?

修行です(笑)。曲を決めていくときも、通して歌ってみて、力が残ってたらもう駄目なんです。そのときは、2~3曲、変えていく。そうじゃないと、ただのおしゃれなアコースティックライブになっちゃうから。今回も本当に倒れそうなんですけど、そこまでやらないと気が済まなくなってきて。お客様から「ここまでやってもらうとプレミアムに来たって感じがします」って言ってもらえる。いつまでそのパワーで歌えるのか、ここから限界に挑戦ですね。

──例えば、どんな曲を歌ってますか。

それこそ『THE FIRST TAKE』のおかげで、「僕が死のうと思ったのは」をみんなが知ってくれて、プレミアムでやれなくなっちゃって。でも、やらないと言うのは、いいことなんですね。ヒット曲は絶対やらないので、それくらい、みんなに聴いてもらえてるってことでもあって。今は、全部のヒット曲を外しすぎちゃうと、歌う曲がなくなってきちゃったから、シングル曲も入ってるけど、以前はあまり知られてなかった曲だけにしてて。『THE FIRST TAKE』以降は、「ボクシノ」をホールツアーでもプレミアムでも、どっちも歌い続けてたんでいたんですよ。ありがたいことに、「歌ってください」と言うリクエストもくるし、マジで?ってびっくりして。だから、今回のどろっとした曲は、「ボクシノ」がなくなって、「No Answer」(「ひろ」かも)が復活しそうです。「ひろ」を歌ってるときは死ぬかと思うんですけど(笑)、じゃないと、逆にプレミアムに来てくれる人を裏切った気がするから。

──歌い慣れるのも駄目ってことですね。

嫌ですね。大好きな曲だからこそ、なんですけど。

──お客さんとの距離の近さも大丈夫ですか?

大丈夫になってきました。最初は本当に緊張が半端なくて逃げ出したい感じでした。始まる前の怖さっていったらなかったんですけど、最近は表情も見れるし、いいなと思っていて。会場のキャパシティは前より大きくなってるけど、ちょうどいいかもねって思っていて。前は、お客さんの顔がちゃんと見えるようにっていう私のこだわりが強すぎたんですよね。ここまでだったら見えるというのがどんどんわかってきたから、もう少し広げますかっていう話になってます。

──4月13日に神奈川県民ホールの小ホールで開催されるプレミアムライブでひと区切りがつきますが、そのあとはどんな予定ですか。

わからないですね。考えてはいるんですけど、しっかりとは何も決めたくない。目標を決めると面白くないからね。何かを達成するのは好きじゃないんでしょうね。すぐにやりたくなくなっちゃうんです。ただ、テーマをもらうとワクワクするんで、「こんな感じ良くない?」って話しながら、それがどんどん進化して、いつの間にか形になってるかもしれないし、なってないかもしれない。今はちょっとわかんないですねここで言い切れない。

──じゃあ、最後の質問ですが、今、歌うことは楽しいしいですか。

時に苦痛ですけど、前よりはもちろん楽しいですね。歌ってるときの自分がいちばん好きです。

INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ
PHOTO BY 関信行
STYLING BY 松尾明日香
HAIR & MAKE UP BY 田島智美
衣装協力 HARUNOBUMURATA、RATHEL & WOLF、RIEFE JEWELLRY

リリース情報
2023.3.22 ON SALE
SINGLE「Beyond」

ライブ情報
Mika Nakashima Premium Live Tour 2023(追加公演)
4/10(月)大阪フェニーチェ堺 小ホール
4/13(木)神奈川県民ホール 小ホール

プロフィール
中島美嘉
ナカシマミカ/2001年フジテレビドラマ「傷だらけのラブソング」で主演デビュー。その類い稀なるビジュアルと歌声で一躍人気を博す。以降「雪の華」、「GLAMOROUS SKY」など数多くの大ヒット曲を発表し、これまでに9度のNHK紅白歌合戦出場や数々の賞を受賞。その唯一無二の存在感と影響力で国内外の映画・ドラマ・ファッションなど多岐に渡り活躍。近年は野外フェスへの出演やアコースティック編成、ロックバンドなど様々なジャンルのライブ活動を精力的に展開、圧巻のパフォーマンスと表現力で注目を集める。また、アジア各国での単独公演を成功に収めるなど海外にも活躍の場を広げている。